福岡・宗像市の私立高校で3年前に自ら命を絶った、当時2年生の17歳の男子生徒は、暴力的・性的な悪質ないじめを受けていた。21日、母親が会見を行い、「原因を明らかにしてほしい」と改めて調査を要望した。

いじめ被害を家族に告白 顧問に訴えるも…

にっこりと笑顔を見せる、高校生の侑大くん。

ピンクの紙に書かれた母親のメッセージ
ピンクの紙に書かれた母親のメッセージ
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そこには、「たまに見せてくれる最高の笑顔♡カメラ目線で撮れた一枚 ありがとう…」と母親からのメッセージが添えられていた。

福岡・宗像市の東海大学付属福岡高校で2021年当時高校2年生だった侑大くんが自ら命を絶った問題で、21日午後3時過ぎ、母親が会見を開いた。

会見を行った侑大くんの母親
会見を行った侑大くんの母親

侑大くんの母:
大切な侑大が、こんなひどい目に遭っていたことを知り、その時初めてがくぜんとしました。
虫や生き物、自然が大好きな子どもでした。虫を捕まえてきては私に見せてくれて、また逃がしに行くような優しい子でした。
(小学)2年生の時に友達のお兄さんに誘われて、少年剣道部に見学に行きました。剣道がかっこいいと思ったようで、入部した時から練習が大好きで、週3日から4日の稽古にほぼ休まず熱心に通っていました。

幼い頃から剣道に打ち込み、母親にとっては自慢の息子だったという侑大くんは、2019年4月、東海大学付属福岡高校に進学し、剣道部に入部。親元を離れ、寮生活をしていた。

侑大くんはなぜ、自ら命を絶つほどまでに追い詰められなければならなかったのか。

侑大くんは母親に「先輩たちからいじめられている」と伝えたという
侑大くんは母親に「先輩たちからいじめられている」と伝えたという

侑大くんの母:
学校から寮に戻らず、突然自宅に戻ってきました。侑大は「死のうと思ったけど死ねなかった」と、 玄関に入る前から泣き出し、「高校をやめたい」と言いました。
侑大がこれほど取り乱して泣くのは初めてでした。何があったのかと聞くと、「先輩たちからいじめられている」と話してくれました。

剣道部への入部直後、家族は侑大くんから剣道部内で「いじめ」が起きていることを伝えられたという。

侑大くんの母:
翌日、侑大と一緒に顧問に相談に行きました。侑大は、顧問にいじめられている先輩の名前を伝え、「死にたいけど、死にたいと思ったけど、死ねなかった。学校をやめたい」ということを伝えました。 

顧問が実際にどんな指導をしたのか報告はないという
顧問が実際にどんな指導をしたのか報告はないという

侑大くんの母:
(顧問は)名前が挙がった部員については「僕が指導します」と言いました。顧問が実際、どんな指導をしたのか、いまだに報告はありません。
侑大は、剣道を続けたい一心で、先輩たちのいる寮を出て、剣道を続けると言いました。片道1時間半くらいかかる通学を頑張り、朝練、夕方の練習、体力的にもとてもハードな生活を本当によく頑張っていたと思います。

しかし侑大くんは、いじめの被害を告白してから約1年半後、2021年の3月に自らの命を絶った。

下着脱がされるなどの性的被害、顧問の“不適切な指導”も

侑大くんの母:
侑大が亡くなったあと、遺書を手がかりに警察に捜査をお願いしました。
侑大が先輩からとてもひどい性被害を受けていたことが、この時初めてわかりました。

明らかになったのは、悪質ないじめの実態。

下着を脱がされるなどの性的被害も
下着を脱がされるなどの性的被害も

学校が設置した第三者委員会による調査報告書が20日に取りまとめられ、1年生の時に所属していた剣道部の教室で、上級生数人から畳に粘着テープで貼りつけられ、下着を脱がされるなど、性的被害を受けていたことが明らかになった。

さらに、その様子を撮影した動画をSNSを通じて他の生徒に拡散するなど、上級生による10件の行為をいじめと認定した。

侑大くんの母:
侑大が自ら死を選んでしまったのは、ひどいいじめを受けたこと、いじめられた後の剣道部内での孤独感、顧問から再入寮を拒否されたこと。そして顧問の厳しい対応があったこと。剣道部内での苦しさがどんどん募っていったのかなと。
そして、大好きな剣道ができなくなっていったからと思っています。

さらに第三者委員会によると、剣道部の男性顧問も侑大くんを無視するなど、不適切な指導があったことも判明。顧問は、いじめについて学校側へ報告せず、侑大くんのテスト結果を勘違いして大量の課題を与えるなど、「生活態度の悪い部員」というレッテル貼りまでしていたという。

顧問は現在も学校で勤務を続けているという
顧問は現在も学校で勤務を続けているという

この男性顧問は、現在も学校で勤務を続ける中、学校側に「指導方針を改善し強い圧をかけるような指導は一切していない。寄り添う、考えさせる指導に転換させている」と説明している。

侑大くんの母:
(男性顧問が)どんな気持ちでいるのかなっていうのが正直な気持ちですけど、ただ、こんな大きな事件が起こって、本人がどういう思いで教諭をしているのかなと。

また報告書は、いじめや顧問の指導などが自殺の一因となった可能性があるものの、家庭環境などさまざまな要因によって男子生徒が自殺に至ったと判断し、直接的な原因は特定できないと結論づけた。

これに対し、家族側は再度原因の調査を進めてほしいとしている。

侑大くんの母:
侑大の自死については、直接的な原因とは特定できないと書かれています。そしてこの部分については、侑大が抱えていた苦しみやつらさ、悔しさ、正面から目を向けてくれなかったと、その部分については残念に感じています。
侑大が死を選ばざるを得なかった原因について、明らかにしていただきたいと思っています。私は侑大が剣道が好きで、ただ剣道がしたかっただけだと思っています。

剣道部内での“10のいじめ”

いじめと侑大くんが自ら命を絶ったことに関して、直接の因果関係があるかどうかはわかっていない。また、いじめの内容は、とても凄惨(せいさん)なものであったり、性的なものも含まれる。なぜ侑大君は自ら命を絶つに至ってしまったのか。

侑大くんは2019年4月に推薦で高校に入り、剣道部に入部した。そして、2021年3月10日に自ら命を絶った。

調査報告書によると、入学した2019年4月から6月の3カ月間に10項目のいじめが認定された。いじめはいずれも、侑大くんが所属していた剣道部の中で起きたものだという。

入学後の3カ月間に認定された10のいじめ
入学後の3カ月間に認定された10のいじめ

〈認定された10のいじめ〉

1. 剣道着を返してもらえない
2. スマホ取り上げ・アプリ削除
3. 指紋認証を先輩の指紋に
4. 勝手に女子にLINEを送られる
5. スポンジ製バットでたたかれる
6. 肩などを殴打
7. 顔に粘着テープをぐるぐる巻きにされる
8. アダルトグッズで暴行
9. 畳に貼り付けなど
10. 下半身の動画を撮影・共有される

顔を粘着テープでグルグル巻きにされたいじめも…(調査報告書を参考に作成したイメージ)
顔を粘着テープでグルグル巻きにされたいじめも…(調査報告書を参考に作成したイメージ)

なかでも、悪質性が高いひどいもので、加害生徒の主犯格が、侑大くんの顔を粘着テープでぐるぐる巻きにしたというものがある。この時、侑大くんの両手はひもで縛られ、体には剣道の胴着を着せられて、身動きが取れなくなったところで撮影されて、インスタグラムのストーリーズに投稿されたという。

調査報告書を参考に作成したイメージ
調査報告書を参考に作成したイメージ

さらに2019年6月3日の放課後には、10人以上の部員がいる剣道部の部室で侑大くんは畳に寝かされ、加害生徒4人のうち、2人が体を押さえつけ、粘着テープなどを使って侑大くんの体を畳に貼りつけ、ズボンを脱がせて、さらにパンツを脱がせたという。

調査報告書を参考に作成したイメージ
調査報告書を参考に作成したイメージ

報告書の中では、「性的な暴行を加えた」というものもあった。その様子をもう1人の加害生徒がスマートフォンで撮影して、これがLINEで共有されたという。加害生徒本人らは動画削除したと話しているという。

調査報告書には、暴行・いじめの範囲を超えた、人としての尊厳を傷つけられる、本当に耐えがたい内容が記されていた。

いじめ動画のSNSへの公開は被害者に見えない恐怖を与えると専門家
いじめ動画のSNSへの公開は被害者に見えない恐怖を与えると専門家

暴力的ないじめに加えて、性的ないじめというのも報告書では認定されている。

子どものいじめ問題にくわしい山脇由貴子さんによると、暴力的ないじめと違い、いじめ動画のSNSの公開は、どこまで広がっているのかわからないため、被害者に見えない恐怖を与えるという。

いじめを受け退寮…再入寮希望するもかなわず

10のいじめが認定され、侑大くんが亡くなるまでに1年9カ月がある。その間、侑大くんは、いじめを3カ月受けたあとに寮を出た。その後、いじめの加害者が卒業するタイミングで、もう一度寮に戻りたいと再入寮を希望したが、顧問から「態度を改めなければ再入寮はできない」と断られた。

再入寮がかなわなかったことが希望を失う事実の1つだった
再入寮がかなわなかったことが希望を失う事実の1つだった

調査報告書には、この再入寮がかなわなかったことが、今後の学校生活や部活動生活に対する希望を失うことになった事実の1つとして遺書に書かれていたとある。

いじめは刑事事案にもなっている
いじめは刑事事案にもなっている

2021年の3月10日に侑大くんが自ら命を絶った、その1カ月後の4月には、剣道部へのヒアリングが行われた。

いじめを行った上級生の5人のうち、1人は強制わいせつの疑いで書類送検され、その後2年の保護観察処分を受けているということで、このいじめが刑事事案にもなっている。

悩みや不安を抱えて困っているときには、電話やSNSで相談する方法があります。「こころの健康相談統一ダイヤル」など複数の窓口があり、厚生労働省のホームページにも案内があります。 1人で抱え込まず相談してみてください。

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・「こころの健康相談統一ダイヤル」 
電話 0570-064-556(※曜日・時間は都道府県によって異なります)
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(「イット!」2月21日放送より)