地域振興の拠点にしようと村が4億円もの公費を投じた福岡・東峰村の複合型宿泊施設「アクアクレタ小石原」が突然閉館に。「復興のシンボル」という村の期待も背負っていた施設で一体何があったのか?

「資金繰りに窮し事業継続が困難」突然閉館

高級家具を取り揃えたデザイナーズホテルに地元の新鮮な食材をふんだんに使ったこだわりのレストラン。廃校となった小学校を改修して作られた福岡・東峰村の複合型宿泊施設「アクアクレタ小石原」。

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観光客を呼び込み、地域振興の拠点にしようと村が4億円もの公費を投じたこの施設は2021年4月に開業したのだが―。

■代理人弁護士による「告示」
「資金繰りに窮し事業継続が困難となりましたので、裁判所に破産手続き開始の申し立てを行う予定です」

施設の入り口に張り出された代理人弁護士による「破産申請中」の告示。「アクアクレタ小石原」は2024年2月10日、何の前触れもなく突然、閉館してしまったのだ。

入り口には当時のまま「小石原小学校」の名前が残されている
入り口には当時のまま「小石原小学校」の名前が残されている

「資金繰りが行き詰まった」との理由で閉館した「アクアクレタ小石原」。入り口には、当時のまま「小石原小学校」の名前が残されている。

「復興のシンボル」という村の期待も背負っていた施設で一体何があったのか?施設を運営していたのは5年前に村の公募で選ばれた経営コンサルティングなどを行う民間企業「小石原ドットコム」。村の施設でありながら運営会社からは閉館について事前の説明は一切なかったという。

東峰村眞田秀樹・村長は「復興の中のひとつの目玉というか、シンボルとしての位置づけもその中に含まれるかたちで、地域の期待とか夢とかを背負ってもらうという施設で作り上げた施設」と話した上で、弁護士などを通して施設の代表からメッセージなどは、「今のところない」と話す。

閉館した「アクアクレタ小石原」。校舎を改修するためにかかった総額、約4億円の費用は、東峰村が小石原ダム建設に伴う水源地域振興事業の一環として公費で負担したものだ。村は運営会社に対し、施設の土地と建物を2021年から5年契約で貸し出し、最初の3年間は無償で2024年4月からは月10万円の賃料が発生する契約を結んでいた。

壊滅的な被害を受けた2017年の九州北部豪雨で一度はストップしていた廃校の活用事業。それが「復興のシンボル」として地域の期待を背負っていただけに、「少しでも、村を有名にして、村外からいろんな人が来るはず。実際、来てましたからね。何で急に閉鎖っていうか…、本当びっくり」などと、村民からは驚きや戸惑いの声が上がっている。

施設の“売り”のイベントでもあった陶芸教室の講師をしていた窯元にも事前の連絡は何もなく、貸し出していた道具などもそのまま戻ってきていない。

陶芸教室の講師「マルワ釜」太田富隆代表:
いきなりで「えっ?」って、びっくりしたところです。「閉まっている」ということだったので、驚きは隠せなかった。結構お客さんも入ってるかなと思ってたので、まさかそういう感じとは、思ってなかったですね。

日本の原風景が残る美しい棚田が広がる東峰村
日本の原風景が残る美しい棚田が広がる東峰村

日本の原風景が残る美しい棚田が広がる東峰村。伝統工芸品の小石原焼や2023年はJR九州の「BRTひこぼしライン」が開業するなど、その魅力で観光客の誘致に取り組んでいた。

東京商工リサーチによると施設を運営する民間企業「小石原ドットコム」は2024年2月13日、福岡地裁に破産申請していて、その負債総額は約5,000万円に上るとされている。

「社内でインフルまん延」との返答が最後に…

閉館の経緯を確認しようと福岡・筑紫野市の本社を訪ねたがー

楢崎春奈記者リポート(2024年2月13日):
福岡・筑紫野市の本社が入る建物です。関係者によると平日は、1人以上は常駐していたということですが、きょうは鍵がかかったままだということです。

村としては運営会社が地域に説明していた活動報告を受け「経営が悪化している認識はなかった」としている。訪れる人は少しずつ増えていて、中でもレストランの利用者は1年で1.5倍に伸びていたからだ。

何の連絡もなく突然、消えた運営会社に村は頭を抱えている。

東峰村眞田秀樹村長:
自分も2月10日のお知らせをホームページで見て、ちょっと現地を見に行って、その時に「破産の手続きをしています」という張り紙がしてあったというところで、唐突にそういうことをされたというか、そういう印象。

周辺を取材すると、冬の時期は宿泊利用が少なく、年明けから予約がない平日は休業していたという。さらに閉館の3日前「予約電話がつながりにくい」との声もあり、村の担当課が運営会社の代表に確認したところ「社内でインフルエンザがまん延していて、業務がまわりにくい」といった返答を最後に連絡が取れなくなっていた。運営会社は、東峰村の乗合タクシーの予約に関するコールセンター業務も請け負っていたため、この業務は急きょ村役場で対応している状態だ。

東峰村は施設の土地と建物を運営会社に対し2021年から5年間の賃貸借契約を結んでいて、契約開始から3年間は無償で貸し出している。4月から賃料が発生する予定だったが、3万平方メートルもの敷地にもかかわらず、その金額は月額10万円だった。

破産手続きが進むまでは動けない

眞田村長は村民に対し、「村としても説明責任がある」としているが、破産手続きが進むまでは動けないというジレンマを抱えている。

東峰村眞田秀樹村長:
村の物件ですので、1日も早く村に返してほしい。それが分からないと次に進めないので。地域のシンボルとして運営できる施設であってほしいし、1日も早く再開の道筋を付けたいと思っております。

観光振興に力を入れる東峰村だが、観光客数は2007年の90万人をピークに10年余りで70万人にまで減少し、このうち宿泊者は年間で1万人程度にとどまっている。それにも関わらず、村が公費で設置した宿泊施設は2カ所のキャンプ場や団体向けの研修所など村内に6カ所存在する。

さらに今回、閉館した「アクアクレタ小石原」については、約4億円の公費が投じられた施設でありながら「民間企業に自由にやってもらいたい」として、村は経営に関与していなかった。こうした村の宿泊施設のあり方について、地元の村議会議員は疑問を呈している。

東峰村議会・高橋弘展議員:
小さな村でもあるし、年間の観光客数というのは、ある程度限られた部分もある中で、取り合いというよりは、施設ごとに目指すべき道がしっかりと戦略を持って立っていくべきなのではないかという疑問は、当時から持っていた。目の前のことだけを追いかけすぎていなかっただろうかという部分は、しっかりと反省と検証をしていかないといけない。コスト面だったり、事業の発展性だったりという部分に関しては、飛躍的に伸びていく部分があると思いますが、コロナや物価高騰など非常に外的要因が大きかった中なので、小さな事業体というのが厳しい部分があったのかなと思います。

運営会社には1日も早い説明が求められるとともに、過疎地域における観光振興のあり方が問われている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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