1年を通して値段が安く、栄養豊富なモヤシは家計を助けてくれる救世主だ。そんなモヤシがいま、窮地に陥っている。

「物価の優等生」モヤシに異変

福岡市西区にある人気店「井手ちゃんぽん」。肉と野菜を豪快に炒め、濃厚なとんこつスープを絡めていく。器一杯に盛り付け、完成したのは野菜大盛ちゃんぽん。価格は1,020円で、並盛りの2倍の量の野菜を使ったボリューム満点の人気メニューだ。

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とんこつのうま味がよく絡んだシャキシャキ野菜とこだわり自家製麺。「野菜がたっぷり入っているのが大好き」と70年の歴史を持つ伝統の味を求めて、店には連日大勢の「井手ちゃんぽん」ファンが訪れている。

多くの常連客を“とりこ”にしている「井手ちゃんぽん」に欠かせない食材が「モヤシ」だ。この店では、多いときには1日130kgものモヤシを使っている。

井手ちゃんぽん小戸店・井手竜二店長:
モヤシは陰の立役者。ボリュームを出すためと、お野菜のシャキシャキ感を出すために必要かなと思っていますね。

モヤシは「物価の優等生」と呼ばれ、安価で購入できるのが大きな魅力である。日々の食卓でも、家計の強い味方として登場する機会が多い食材のひとつだ。
買い物客に話を聞くと、「(モヤシは)よく使います。焼きそばとかチャンポンとか必需品」「モヤシいいよね、安いもん。この頃何でも高いから。何でも結構モヤシは使うよ」と、日常的にモヤシを使うと話してくれた。

2023年の夏頃は、モヤシ1袋が38円で売られていたという。財布に優しい“野菜界の名バイプレーヤー“として、様々なところで重宝されているモヤシにいま、異変が起きている。

高騰する主原料…生産企業は減少

モヤシの生産者で作られた「もやし生産者協会」が出している広告には、『もやし生産者の窮状をご理解ください』と記されている。

モヤシに一体何が起きているのか?取材班が訪れた佐賀・吉野ヶ里町にある工場「川崎食品」では、1日に約20トン、10万パック分のモヤシを出荷している。その多くが福岡県内に流通しているという。

あの新聞広告を出した一人でもある社長にその真意を聞いた。

川﨑食品・川﨑紀明社長:
あの新聞広告で、モヤシの生産者って「会社自体が危ないんだな」と思われるデメリットもあったが、それを伝えないとなかなか現状を分かってもらえないというところもあったので、ショッキングな表現で広告を作らせていただいた。

モヤシの全国平均価格の推移は下落傾向が続いている一方、主な原料である緑豆の価格の推移は、産地の人件費高騰や天候不順などにより3倍以上に高騰している。こうした現状もあり、佐賀県内のモヤシの生産企業は年々減少しているのだ。

川﨑食品・川﨑紀明社長:
佐賀県内でモヤシ生産企業は、分かっているだけでおそらく弊社だけになってしまっています。

40~50年前には佐賀県内に20社程度あったというモヤシの生産企業。しかし年々減少し、2023年には2社が廃業したという。背景にはモヤシの価格が影響していた。

「川崎食品」の川﨑社長によると、現在、九州北部の大手スーパーのモヤシの販売価格は、1パックあたり38~40円だという。
円安や原油価格の高騰などの影響を受け、2022年、2023年と値上げに踏み切ったが、値上げできたのは1パックあたりわずか数円で、モヤシ生産者にとっては厳しい状況が続いている。

市場からモヤシが消える…?

このままだとモヤシが食べられなくなる可能性もあるのだろうか?

川﨑食品・川﨑紀明社長:
毎年、生産者も減ってしまっていますので、このまま極端な安売りが続いてしまいますと製品を作る体力がなくなってしまうので、ひょっとしたらモヤシが市場からなくなってしまうというおそれもあるのかなというところまで来ています。

モヤシの原料となる豆の種は主に中国産のため、円安の影響もあり、価格がこの30年で3倍以上になった一方で、モヤシの平均販売価格はむしろ下落傾向にある。
モヤシはスーパーにとってはその安さで客を呼ぶための目玉となるので、どうしても価格を低く抑えられがちになるのだ。まさに「価格の優等生」ならではのジレンマといえる。

川﨑食品・川﨑紀明社長:
1パックあと数円、出荷価格を上げるだけで生産コストをまかなえる。安さにも健全な安さがあることを伝えていきたい。

(テレビ西日本)

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