19日午後、台湾の金門島近くを航行していた台湾の観光クルーズ船に、中国海警局の船が強制的な検査を行った。こうした検査は極めて異例で、乗客は一時パニックになったという。
中台の”対立と融和の象徴”になっている金門島で何が起きたのか、その背景を振り返る。

中国海警局の船が横付け…関係者6人乗り込む

19日午後、台湾の金門島の近くを航行していた台湾の観光クルーズ船に対して、中国海警局の船が横付けして関係者6人が乗り込み、約30分にわたって強制的な検査を行った。

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このような検査は極めて異例で、乗客は一時パニックになったという。

この観光船には11人の乗組員と23人の乗客が乗っていて、中国政府の職員が船内に現れると一時パニックになり、その後台湾当局の船にともなわれ、金門島の港に戻ったという。

高まる中国と台湾を巡る海の緊張について、取材センター室長・立石修がお伝えする。

この場所の緊張は日本にも影響を与えかねず、注意深く見ていく必要がある。

中国と台湾の対立の舞台となっているのは、台湾が実効支配する「金門島」。東西の距離がわずか20kmの小さな島だが、中国と台湾にとって非常に重要な意味を持っている。

金門島は台湾本島からは約200km離れた場所にある。中国福建省のアモイのすぐ横にあり、一番近い部分でわずか2kmしか離れておらず、位置的には中国大陸に非常に近い。

地図を見ると、中国本土に深く食い込んだ台湾の島という印象だ。こんなに中国に近いところに台湾の島がある理由には、中国と台湾の対立の歴史がある。

中国で共産党による政権が樹立され、1949年に当時の国民党政権は台湾本島などに逃れていた。1970年代まで中国軍は金門島にも砲撃を行ったが陥落できず、金門島は台湾が実効支配したままになっている。

FNN取材班が2023年3月に金門島から撮影した映像を確認すると、海を挟んではっきりと中国福建省アモイのビル群が確認できるほど、中国と台湾が近い場所だ。

金門島には今も双方の激しい衝突の影が色濃く残っている。
2018年の映像では、海岸に中国軍の上陸を防ぐために打ち込まれた数千本の杭がどこまでも続いていた。また、衝突当時使われた複数の戦車や、中国からの銃弾や砲弾を浴びた建物も残されていた。

改めて、中国と台湾が激しい戦いをしてきた歴史的事実が思い起こされる。

その後、中台双方が歩み寄り、2004年12月には中国から金門島への観光ツアーが解禁された。そのときの映像を見ると、中国本土からの観光客が次々と降りてくる中、金門島の台湾市民が歓迎していた。

このように一時は、過去の戦いを乗り越え、中台融和の象徴的な存在になっていた。

その後も最近まで、中国本土と結ぶ1日20往復のフェリーで多くの観光客が訪れ、中国からの観光客が金門島で多くの金を落としていった。水道などのインフラも中国本土から入れられており、このまま密接な関係が続くかに見られた。

台湾総統選の結果も影響か

しかし2016年1月に、親米で独立色の強い民進党・蔡英文総統が誕生すると蜜月関係は一変し、緊張が高まっていった。

2019年には中国政府が金門島への団体旅行を禁止。それまで30万人以上いた観光客が一気に10万人まで激減した。

それでも金門島を巡る船の航行について、これまで対立が表面化することはなかった。

なぜなら台湾は「許可なく中国船が侵入することを制限する」ための「禁止水域」を設けていたが、中国と台湾はこれを「暗黙の了解」として挑発しあうことはなかったからだ。

しかし、2月14日に中国の漁船が台湾の許可を得ずに侵入したとして、台湾の警備当局が取り調べを試みたところ、中国の漁船は拒否。結果的に漁船が転覆して2人が死亡する事案が起きた。

台湾は「中国の漁船が無許可で禁止水域に侵入してきた」としているが、中国は「悪質な犯罪だ」と批判して金門島周辺の警備強化を発表し、緊張が高まっている。

この背景には、1月に行われた台湾総統選で、アメリカに近く過去に台湾独立を主張したこともある頼清徳氏の勝利も影響していると考えられる。

2022年にアメリカのペロシ元下院議長が台湾を訪問したあと、これに反発した中国軍は事実上の中台停戦ラインである”中間線”を越え、多数の中国軍機が台湾側へ侵入したことがあった。

一足飛びに危機的な事態にはならないとみられるが、5月の頼清徳氏就任に向けて金門島周辺でも中国が圧力を強める可能性がある。
(「イット!」 2月20日放送より)

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