動物園や水族館で人気の特別天然記念物「オオサンショウウオ」。のっぺりした表情や愛らしいしぐさで親しまれる一方、交雑種によって生態系が崩れ、絶滅の危機にある。ところが2024年、新たな局面を迎えている。

凶暴な“交雑種”が在来種を追いやる

国の特別天然記念物「オオサンショウウオ」は主に中国地方に生息している。動物園のイベントではかわいい見た目から子どもたちの注目の的だ。
しかし今、ある異変が起きている。
オオサンショウウオの生態調査の取材中、広島大学の清水則雄准教授はある生物を見つけた。

広島市佐伯区の八幡川
広島市佐伯区の八幡川
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広島大学総合博物館・清水則雄准教授:
おった、おった!でかい!

やっとの思いで捕獲し、川岸へ運ぶ。
その一瞬のすきに…

広島大学総合博物館・清水則雄准教授:
あっ、痛い!痛い!痛い!

清水准教授の手にかみついたのは、大型で凶暴なオオサンショウウオだ。

オオサンショウウオの交雑種
オオサンショウウオの交雑種

この生物はオオサンショウウオの“交雑種”。交雑種とは、かつて「食用のため中国から輸入されたオオサンショウウオ」と「元々日本にいた在来種」との間に生まれた個体のこと。交雑種は大型で凶暴なため、在来種からエサや巣穴を奪い、絶滅に追い込んでいるといわれている。

2府7県へ広がり、8割が交雑種の川も

交雑種の生息地は年々、広がっている。広島県や岡山県のほか、京都府、大阪府、奈良県、滋賀県、三重県、愛知県、岐阜県でも確認された。広島市の調査によると、広島市佐伯区の八幡川に生息するオオサンショウウオは交雑種が8割を占めるという。

なぜ、これほどまで交雑種が増加しているのか?

広島大学総合博物館・清水則雄准教授:
オオサンショウウオは移動能力が高いわけではないので、基本的には川の中しか移動しません。長距離の移動は人間が運んでいる可能性が極めて高い。人間の短期間の過ちのせいで絶滅の危機にさらされているのはあってはならないこと

増え続ける交雑種を調査のために捕獲しても、駆除や保護する規定がないため、そのまま川に戻すしかない。

国が「特定外来生物」指定へ

危機的な状況を救おうと、国は2024年夏から中国原産のオオサンショウウオと、その交雑種を「特定外来生物」に指定しようとしている。特定外来生物に指定されると、日本の生態系を脅かすブラックバス、アメリカザリガニ、ブルーギルなどの生き物と同様に、飼育や輸入、運搬が禁止され、違反者には罰則が科せられる。

広島大学総合博物館・清水則雄准教授:
100年、200年後に日本の在来種はいなくなると考えていました。国も危機感を共有して特定外来生物の指定に動いてくれたのは本当にうれしい。やってきた意味があったなと。広島市で交雑種の駆除が可能になれば、我々が一生懸命捕まえたものを放流しなくてよくなる。外来種はほとんど人間が輸送していると考えています。生きたままの輸送を禁じる今回の決定は、罰則があることでかなり抑止力が働く。将来的には交雑種・外来種を完全に取り除くことができるかもしれない。その大きな一歩が踏み出せたと喜んでいます

広島大学総合博物館・清水則雄 准教授
広島大学総合博物館・清水則雄 准教授

DNA鑑定を“簡略化” 1週間で判別

ここで問題になってくるのが在来種と交雑種の“見分け方”である。清水准教授が所属するオオサンショウウオの研究チームは、在来種と交雑種を見分けるDNA鑑定を簡略化する方法を開発。高校で習う電気泳動の仕組みを活用し、これまで3カ月間かけて判別していたことが早ければ1週間で可能になる。

広島大学総合博物館・清水則雄准教授:
これまでは大学のみで分析していましたが、全国の高校で分析できるようになれば、より早く広範囲に交雑種を発見することができます。そうすると駆除の効率も飛躍的に上がる。在来・交雑がすぐに分かるキットが作られると、その場で判断できる。そういうものも将来的には目指していきたいと思っています

一方、京都水族館では年に1回、オオサンショウウオを地域住民と一緒に盛り上げるイベントが行われ、在来種だけでなく交雑種も来場者に人気を集めている。そのため「愛されている交雑種をすぐに駆除するのは厳しいのではないか?」という声もある。どうして駆除が必要なのか、市民に理解してもらうことが必要だ。

交雑種は人間が持ち運んだことが原因で増えているとみられ、今後、駆除されようとしている。外来生物とは言え、人間の都合で生き物の命を奪うことになる。「特定外来生物の指定」によって、失われる命があることを私たちは忘れてはいけない。

(テレビ新広島)

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