宮城・石巻市の大川小学校を襲った東日本大震災の津波で娘を亡くした男性が、岩手・盛岡市で講演した。能登半島地震が発生した中、今後の伝承の在り方にも思いを巡らせながら言葉を紡いだ。

教訓を整理してもっと広めるべき

2月3日に宮城・石巻市に住む佐藤敏郎さん(60)が、岩手・盛岡市を訪れた。この日、県立図書館が開いた催しで講演することになっていた。

東日本大震災の津波で児童と教職員が犠牲になった大川小学校
東日本大震災の津波で児童と教職員が犠牲になった大川小学校
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佐藤さんは、東日本大震災の津波で児童と教職員84人が犠牲になった石巻市の大川小学校で、教訓を伝える活動に取り組んでいる。自身も6年生(当時12)だった次女・みずほさんを亡くした。

大川伝承の会・佐藤敏郎さん:
眠っているみたいなんです。「起きろ」と言えばすぐ起きそうな。みずほに「みずほ」って言ったら涙を流しました、右目から。
学校のそばで、学校の子どもたちが泥だらけでブルーシートをかぶせられて、何十人も並べられていてはだめだと思う。なるべくとかできるだけではなく、絶対だめだと思う。

その佐藤さんを講師に招いたのは、県立図書館の森本晋也館長(56)だ。森本館長は震災前、釜石東中学校で防災教育の中心を担っていた。

過去の津波の高さが矢印で示された校舎
過去の津波の高さが矢印で示された校舎

過去の津波の高さを校舎に矢印で示したり、津波を想定した速さで走る車と生徒で競走したり、そうしたユニークな取り組みが効果を表し、震災当日、子どもたちは津波から逃れることができた。

森本晋也さん(2021年取材):
どうやったら少しでも実感を伴って災害を自分事としてできるかと考える中で、学習を楽しみながらやっていくのも必要なんじゃないかと思っていた。

その後、文部科学省で安全教育調査官を務めた後、2023年度から館長となった。

最前線で防災に取り組んできた2人。元日の能登半島地震が話題に上る。

県立図書館・森本晋也館長:
色々な教訓もあったのに、もうちょっと伝わっていれば。もうちょっとうまく(被災)後のことも伝わっているとよかった。県とかはたくさん“教訓集”などを出しているけど、県民・市民レベルでもちゃんともう一回振り返りをして、整理をして、もっと伝えていけることは伝えていこうと。

大川伝承の会・佐藤敏郎さん:
地震保険に入っていた人の話を聞くと、東北に親戚がいて「まずい」と思ったと。だから伝えることによってそれは改善できる。

「教訓はもっと生かせたのではないか」「これから何をすべきなのか」、2人はそれを考えていた。

県立図書館・森本晋也館長:
能登半島でつらい思いをされている方たくさんいると思うが、先が見えない中で私たちの経験が、何か次の明かりになるのではないか。

大川伝承の会・佐藤敏郎さん:
13年たって石川でも災害があって、もっと強く、広く遠くに伝えることがこれから必要になってくるんだなと思う。

「命を救うのは行動」

そうして始まった講演会には約80人が集まった。

大川伝承の会・佐藤敏郎さん:
(災害は)人間の行事や都合は実は関係ない、地球の都合であって。お正月にも地震が来るっていうことをまざまざと見せつけられましたよね。

教員時代の佐藤さん
教員時代の佐藤さん

震災当時、中学校の国語の教員をしていた佐藤さんは、多くの生徒が被災した中でどんな授業をすべきか当初苦慮したという。

大川伝承の会・佐藤敏郎さん:
この現実にどう向き合わせたらいいんだろうということが一番心を砕いた部分。

手探りの中、震災の2カ月後、生徒たちと俳句づくりに取り組んだ。

大川伝承の会・佐藤敏郎さん:
素直な気持ちを五七五にしましょう。

生徒の作品
「故郷を 奪わないでと 手を伸ばす」
「ただいまと 聞きたい声が 聞こえない」
「逢いたくて でも会えなくて 逢いたくて」

講演で涙を流す人も
講演で涙を流す人も

短い言葉で互いの思いを分かち合うことができたと振り返った。
そして、大川小で最愛の娘を失った体験も伝える。

大川伝承の会・佐藤敏郎さん:
家で眠っているのと同じ顔をしている。呼べば返事してくれそうだったし、触れば「お父さんやめて」と言ってくれそうだった。だから何回も呼びました。呼んでも呼んでも、ピクリとも、うんともすんとも言わない。

被災した大川小学校
被災した大川小学校

大川小では目の前に山がありながら、児童は地震から50分校庭で待機させられ津波に遭った。佐藤さんは備えの大切さをこんな言葉で伝えた。

大川伝承の会・佐藤敏郎さん:
命を救うのは山じゃないということ。命を救うのは山ではなくて山に登るという行動。失う前に気づくべきこと。私がきょうお話ししたこと全部、この13年間でようやく分かった。
あの日言えなかった、聞けなかった「ただいま」がいっぱいある。どんなことがあっても家にたどり着いて元気よく「ただいま」と言う。そして「行ってきます」と言って出ていく。その繰り返しが防災。どんなことがあっても家族に会いたいと思うのが防災。

東日本大震災から13年…伝える大切さ

大川小を巡る裁判では、学校や教育委員会の防災の不備を認める判決が2019年に確定した。その後、実現したことがあった。

大川伝承の会・佐藤敏郎さん:
2020年、宮城県の校長先生の研修会がここで行われるようになった。10年かかりました、ここまで。「(教育委員会に)ぜひ校長先生の研修会で使ってください、協力しますよ」と言っても、10年あまり相手にしてもらえなかった。
今は毎年やっています。いいんですよ、ずっとノックし続ければいいと私は思う。トントンってずっとたたいていれば、どこかで鍵が開き始めるかもしれないし、種をまき続けていれば1個ぐらいいつか芽が出るかもしれない。

「より、聞く人に響く言葉を」そんな思いが込められた1時間だった。

盛岡市内の教員:
いつあるか分からないということは伝えなければならないし、やっぱり語り続けていかなければと新たに思った。

一関在住の元教員:
本当に自分事としてみんな考えなければならないということを、突き付けられているのだろうと思った。

終了後、佐藤さんと森本館長は、今後も連携した企画に取り組むことを約束していた。

大川伝承の会・佐藤敏郎さん:
どこからどこまで被災地・被災者というくくりは、もう無くさないとだめだなって。オールジャパンで、みんなで色々な方向からドアをノックするような、そういう取り組みになればいいなと思う。

県立図書館・森本晋也館長:
震災の中身・教訓を整理して、もっと他地域にもちょっとずつでも伝えていくことができる。また自分たちもそこからもう一回学び直して、備えもしっかりしていけるように、一つの学習拠点として県立図書館が役割を果たしていければ。

あの日からまもなく13年。地道に、より深く、より遠くへ。新たな伝承の在り方を追い求める動きが始まっている。

(岩手めんこいテレビ)

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