「もう二度となりたくない」。今年初めて宮城県内でアニサキス症にり患した患者の男性が仙台放送の取材に対してこう話した。毎年多くの患者が確認されるアニサキス症。治療する医師によると「胃の中に10匹以上」いたこともあるという。医師は「酢でも醤油につけてもアニサキス幼虫は死滅しない」と注意を呼びかけている。

原因は「刺し盛り」翌日に激しい腹痛と嘔吐 

 仙台市によると30代の男性は1月23日午後6時半ごろ、仙台市青葉区の飲食店で、マグロやイカ、ブリなどが入った刺身の盛り合わせなどを食べた。

 その後、翌日午前2時ごろから腹痛や嘔吐などの症状が出たため、医療機関を受診。胃から寄生虫のアニサキスが見つかった。

魚の内臓に付着したアニサキス(提供:仙台市)
魚の内臓に付着したアニサキス(提供:仙台市)
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 仙台市は、男性が発症までの3日間で、ほかに生鮮魚介類を食べていなかったことなどから、この店で発生した食中毒と断定。アニサキス症を含めて宮城県内での食中毒は今年に入り初めて確認された。

「みぞ落ちが押されているような激痛だった...」

 この30代の男性に当時の詳しい状況を聞いた。男性は飲食店で刺身の盛り合わせなどを食べた後、自宅で就寝。しかし7時間半ほどが経った翌日午前2時ごろに胃の激痛と激しい吐き気で起床。

「救急車を呼ぶか迷うほどで、これまでに体験したことがないくらいみぞ落ちのあたりが押されているような激痛だった」という。 

男性の胃の中にいたアニサキス
男性の胃の中にいたアニサキス

 その後は痛みで寝ることができない状態が続き、朝を迎えた。病院を受診すると胃の上部にアニサキスの幼虫1匹が見つかった。内視鏡で摘出できたものの、翌日の昼ごろまで痛みは残っていたという。男性は当時の苦しみを振り返り「二度となりたくない」と話す。

胃にアニサキス10匹以上のケースも…

 主な原因食品はサバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどの刺身とされるアニサキス症。

 仙台市内で多くのアニサキス症の患者の治療をしてきた実績がある「仙台消化器・内視鏡内科クリニック長町院」高橋裕太院長によると、アニサキスは寄生虫の一種で、幼虫は長さ2~3センチほど、幅0.5~1ミリくらいで、白色の少し太い糸のように見えるという。この幼虫が寄生している刺身を生で食べ、胃壁や腸壁に刺さることで、発症するのがアニサキス症だ。

提供:国立感染症研究所
提供:国立感染症研究所

 胃アニサキス症の場合、潜伏期間は数時間後~十数時間後。症状は激しい胃痛や、吐き気、嘔吐など。腸アニサキス症の場合、潜伏期間は十数時間後~数日後。症状は激しい腹痛や、網膜炎など。

 高橋院長によると患者の多くが胃アニサキス症で、胃の中にいるアニサキスは1匹だけのことが多いが、過去には10匹以上のアニサキスがいたこともあったという。また、アニサキスの幼虫のほとんどが内臓にいるが、時間が経つと、身(筋肉)に移動することもあるという。

年に2000~3000人の患者の可能性も 

 厚生労働省によると、過去5年間で確認されたアニサキス症の患者数は、2019年・336人、2020年・396人、2021年・354人、2022年・578人、2023年・441人となっていて、宮城県内でも毎年のように発生している。

提供:仙台消化器・内視鏡内科クリニック
提供:仙台消化器・内視鏡内科クリニック

 仙台市によると、厚生労働省の患者数は、食品衛生法に基づいて、指定された医療機関から報告されたもので、実際にはそれ以上、2000~3000人のアニサキス症患者が発生していると推定されるという。

死滅には「冷凍」「加熱」 酢・醤油×

 高橋院長によるとアニサキス症の予防法は以下のようなものだという。

・魚を購入する際は、新鮮な魚を選び、速やかに内臓を取り除き、内臓を生で食べないようにする
・調理する際は、目視で確認して、アニサキス幼虫を除去する
・冷凍して死滅させる場合は-24℃で24時間以上の冷凍。加熱して死滅させる場合は、70℃以上もしくは60℃で1分加熱する 

 また、高橋院長は、「アニサキスの幼虫は、酢でしめても塩漬けをしても、醬油やわさびをつけても死滅しない」と注意を呼びかけている。

(仙台放送)

仙台放送
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