春はお出掛けの季節、温泉旅行を計画している人もいるはず。
ただ、人前で裸になるシーンだと胸を隠したいと感じる人もいるのではないだろうか。そんな思いに寄り添う“かわいく胸を隠せるタオル”こと、「muneposiタオル」が注目を集めている。
muneposiタオルは縦25cm、横110cm。タオルの両側(右側・左側)に水はけの良い布地、中央部分がメッシュ生地で作られている。首にかけると手を使わなくても自然とすっぽり胸を覆い隠すことができ、タオルの両側が留められるようにボタンがついている。
開発したのは、胸にコンプレックスを抱える渡部和香子さんと、その友人で、乳がんを経験した三上美紀さん。
2022年1月、クラウドファンディングで開発のための寄付を募集すると、約1カ月で目標金額の200%に到達。その後ECサイトで販売を始めると、第一段階で用意した1000枚弱が完売、翌年追加で販売した1000枚もすべて売り切れたという。
タオル誕生のきっかけは、二人が一緒に通っていたジムで、乳がん手術後の三上さんが胸に傷があっても堂々とシャワーを浴びていたことだ。
周りの目を気にし、シャワーを浴びずに帰ることを徹底していた渡部さんは、そんな三上さんの姿に衝撃を受けたという。一方で三上さんは、温泉などで傷を隠したいとき、かわいい入浴タオルがないことに悩んでいた。
二人は共通していた「胸を隠したい」という気持ちから“muneposi”(胸のコンプレックスをポジティブに!という造語)というプロジェクトを立ち上げる。そこから生まれたのがかわいく胸を隠せるタオルだった。
muneposiタオルの価格は1枚4,000円からで、muneposiプロジェクトの公式サイト(BASE)で購入できる(現在は完売中で4月6日に販売を再開予定)。デザインもこだわり抜いているが、どんな思いが込められているのだろうか。二人が抱えていた悩みや開発の反響を聞いた。
“生地の違い”があるから胸が隠れる
――「muneposiタオル」でこだわった点は?
渡部和香子さん:
首にかかるメッシュの部分です。普通のタオルは肩にかけたまま頭を洗うと、ずれて胸元が隠せなくなります。ぬれると重くもなるので、絞るときに露出を免れません。頭を洗う時でも胸が隠れたままにしたいと試行錯誤して、メッシュにたどり着きました。布地とメッシュで生地の違いがあることで、胸元の部分は布で覆うことができます。
手術後の胸を隠すアイテムには「入浴着」もありますが、気軽に持っていけて、かつ入浴施設に許可を取らずに持ち運べるものがほしかった。そのため浴槽に入れないことが絶対条件だと考え、タオルの形状にして入浴する時は頭に巻けるデザインにしました。
三上美紀さん:
何種類か販売していますが「柄を全部揃えたい」という方もいます。「隠したい」から始まった商品ですが、ファッションとして「かわいい」と言ってもらえるようになってきたので、幅広い層に知ってほしいです。
思春期や病気…胸の悩みは様々
――「muneposiタオル」は、どのような悩みを抱えた人が購入しているの?
渡部和香子さん:
8割が乳がん患者です。残りの2割は患者の家族や友人がギフトにしたり、お子さまの修学旅行用にしたり…わたしのようにコンプレックスを抱えた人の購入も少しずつ増えています。
――乳がんの手術で傷を負って、どのような悩みを抱えていた?
三上美紀さん:
乳がんになるまで、傷があっても気にせずタオルで隠せばいいかな、と思っていました。しかし(乳がんを経験した後は)自分は傷があることを気にしていなくても、見た人がびっくりしてしまうのではと不安な気持ちも感じるようになりました。
――「muneposiタオル」を作ったことで、ポジティブな考えは生まれた?
渡部和香子さん:
思春期の娘が、私の母親と温泉に入るのを嫌がったんです。胸が出てきたことが「おばあちゃんに何か言われそうで嫌だ」って。「じゃあママが作った胸を隠せるタオル使ってみる?」と言ったら「ママ天才!」って喜びました。
温泉に堂々と入れる人も多いかもしれない。それでも思春期の彼女に「隠す」選択肢を与えたら、隠したいと思うのは特別なことじゃないという考えが浸透するのではと可能性を感じました。
三上美紀さん:
乳がんになって1番嫌だったのが、周りの日常は動いているけれど、自分だけ取り残されているような感覚です。乳がんになる前からキャンプが好きだったのですが、このタオルがあることでキャンプの後に別の家族とお風呂に入るような場面にも対応できるようになりました。「これがあるから大丈夫」と思えるので、気持ちがとても楽しくなりました。
購入者には男性も「女性へのギフトに」
――こだわりがたくさん詰まったタオルの反響は?
渡部和香子さん:
意外にもリピートしてくださる方がいてびっくりしています。また、最初は柄のある生地のみ販売していましたが、「無地が欲しい」という声が多かった。私たちは派手好きなところがあり発想に及ばなかったですが、目立ちたくない人もいると学び、無地も販売するようになりました。
“選ぶ”ことは女性にとってワクワクする作業だと思うので、今後もたくさん柄展開を用意したいです。闘病中・先の未来を考えて「旅行にどれ持っていこう」と選ぶ、すごく温かくて幸せな、自然と前向きになれる時間も提供できたらと思っています。
三上美紀さん:
自分のためだけではなく、ギフトに使ってもらえるようになりました。実は男性の購入者も多いです。息子さんが「親に旅行と一緒にプレゼントしたい」とか、「乳がんの妻が欲しいと言ったので退院祝いに」とか。当事者じゃなくてもプレゼントに…というのがすてきだなと感じています。
――最後に「muneposiタオル」に込められた思いを聞かせて。
渡部和香子さん:
この商品を作るにあたり、葛藤がありました。乳がんで胸を失った人と、ただコンプレックスを持っている自分は重みが違うと。ただそれは本質ではなく、隠したい気持ちは人それぞれ、“隠す”選択を当たり前にできることが大事だと思いました。
「誰も見てないよ」と言われて、私のモヤモヤが解消されたことはありません。乳がん経験をして胸を失った人が、同じように「誰も見てないよ」と言われて感じる衝撃はさらに大きいと思います。このタオルは「隠したい」を推奨するものではなく、「隠したい」と感じる人の心を救えるものであってほしいです。
三上美紀さん:
乳がん患者の中にも、堂々としている方がいれば入浴着を着ている人もいる。色々な選択肢がある中で心が軽くなるのがどれだっていうのは、自分の気持ちを優先して決めるのが1番だという思いが根底にあります。隠すことをネガティブに捉えず、明るく隠せていけるような感じがいいですね。
二人の当初の願いだった「必要としている人のもとに届けたい」という思いは、今着実にかない始めてきている。
そんな二人の今後の目標は「継続」。“胸を隠したいと思うのは特別なことじゃない”という価値観が、より多くの人に届いてほしい。