北朝鮮は2023年末に韓国との統一方針を放棄し、韓国を敵対国・交戦国と位置付けた。またロシアとの関係を強化し軍事力の急速な近代化を図っている。「BSフジLIVEプライムニュース」では小野寺五典氏、河野克俊氏、平井久志氏と北朝鮮の脅威を検証し、日本の対応を議論した。

北朝鮮にとって韓国はもはや“同胞”ではない

長野美郷キャスター:
北朝鮮は2023年末から、韓国に対する姿勢を大きく転換した。金正恩(キム・ジョンウン)総書記は「北南関係はこれ以上、同族関係ではなく敵対的な国家関係。戦争中にある交戦国関係に完全に固着した」「統一を成し遂げることはできない。これ以上、和解と統一の相手とみなすことは深刻な時代錯誤」と発言。

この記事の画像(12枚)

平井久志 共同通信客員論説委員:
金正恩政権が「二つの朝鮮」政策への転換を公式化、平和統一を否定した。一方で有事になれば核兵器で南を平定するとも言っており、この考え方は「一つの朝鮮」。矛盾した状況。

小野寺五典 自民党安全保障調査会長:
同胞への核使用は想定されないはずで、北朝鮮から見て韓国はもう同胞ではなくなった。統一があるなら武力でということ。交流事業などの平和的な交流も断つことになり、両国がより緊張感を持つというメッセージだろう。

河野克俊 元統合幕僚長:
あまり以前と変わらないと私は思う。金日成(キム・イルソン)主席も朝鮮戦争をしており、今も武力統一の可能性は残している。今の世界は、日本やアメリカなど現状の秩序がよいとする西側と、ロシア、中国、イラン、北朝鮮など現状を潰さなければいけないというグループの構図。単に朝鮮半島で韓国を統一するためだけではなく、この枠組みで物事を考えるという上で、今回の発言内容になったと思う。

重要な選挙を控える韓国とアメリカ、北朝鮮との関係への影響は

長野美郷キャスター:
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は「北朝鮮の政権は世界で唯一、核の先制使用を法制化した非理性的な集団だ」と批判。韓国側の緊張感は高まっているか。

平井久志 共同通信客員論説委員:
尹さんも今まで非常に強硬な姿勢だったが、最近変化が見られる。2月7日夜の大統領発言でも、非常に消極的な形だが南北首脳会談の話を出した。バランス感覚が政権内部で働き始めているという感じ。現在は南北の連絡ルートが機能しているのか怪しく、偶発的な衝突が起こってはいけない。南北間の緊張は非常に憂慮すべき。

小野寺五典 自民党安全保障調査会長:
4月10日に韓国内の国会議員選挙を控える中、煽らず様子を見る姿勢だろう。だが北朝鮮の核については深刻に考えており、ワシントンでは米バイデン大統領に核共有を強く申し入れた。

河野克俊 元統合幕僚長:
韓国社会には反北の保守・親北の進歩の勢力があるが、中間層も多い。強硬策が北朝鮮を刺激した、と受け止める人が相当出れば選挙に影響する。北朝鮮はそれも狙ったと思う。

平井久志 共同通信客員論説委員:
韓国の総選挙の情勢は非常に拮抗しており、どちらが勝つかわからない。新党もできているがあまり支持率は伸びず。ただ小さな軍事衝突があれば進歩に有利となる。韓国は徴兵制であり、徴兵されている若者たちとその家族がリアルに動くことがある。

反町理キャスター:
北朝鮮は投票日直前などを狙って何らかの軍事衝突を起こし、影響力を及ぼそうと考えるか。

平井久志 共同通信客員論説委員:
それは過去の統一戦線的な考え方。金正恩総書記は今回「進歩が政権を取ろうと信用できない」ということを言った。父や祖父のやってきたことも否定しており、この考え方でもつのか、という気がするが。

長野美郷キャスター:
一方、金正恩総書記は日本に対し、これまでにない動きを見せている。能登半島地震に際して岸田総理に「被災地の人々が一日も早く被害から復旧し、安定した生活を取り戻せるよう祈る」とお見舞いのメッセージを送った。

小野寺五典 自民党安全保障調査会長:
日本側は大変戸惑ったと思う。岸田総理が拉致問題の解決のために条件をつけずに直接話したいと繰り返し言っていることに対し何か感じているかな、というのが表面的な見方。また、北朝鮮はいつも日米韓のどこかと仲良くして、他は放っておくという付き合い方をする。今は韓国が尹大統領で、バイデン大統領は全く関心を持ってくれない。そこで日本は違う扱いをしたのかなと。今の日米韓の安全保障の枠組みが崩れることは絶対にないが。

反町理キャスター:
今年のアメリカ大統領選挙で再びトランプ大統領となれば、日本は北朝鮮の視界から消え、米朝首脳会談をもう一度、とならないか。

平井久志 共同通信客員論説委員:
流れはそうなるだろうが、おそらく北朝鮮のアメリカに対する要求水準が、米朝国交正常化や休戦協定を平和協定に切り替えるなどのレベルまで上がる。トランプ大統領となっても国内世論を説得しきれるか。

ロシアと接近しミサイル技術を高める北朝鮮への対応は

長野美郷キャスター:
北朝鮮とロシアが急接近している。アメリカ国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は、北朝鮮からロシアへの多数の弾薬などの提供について分析を発表。またロシアから北朝鮮に渡る可能性があるとされる軍事技術は「弾道・巡航ミサイルの技術」「衛星・宇宙関連技術」「潜水艦を含む艦船の技術」など。

河野克俊 元統合幕僚長:
報道によれば、もう北朝鮮にロシアの技術者が常駐している。巡航ミサイルの技術も相当流れているだろう。また潜水艦発射核弾道ミサイルを北朝鮮が持とうとすれば原子力潜水艦しかない。現段階では到底造れないが、ロシアの技術が入ることで現実味が帯びてきた。脅威度は相当増す。

小野寺五典 自民党安全保障調査会長:
非常にまずい。懸念はICBM(大陸間弾道ミサイル)級のものの小型化、(大気圏)再突入の安定した技術があるか。これらが完成すれば北朝鮮が核搭載のICBMを持つことになる。北朝鮮が自信を持ち間違った行動に出かねない。

平井久志 共同通信客員論説委員:
平時にはロシアにとって北朝鮮は何の魅力もない。だが有事では、大量の砲弾を供給してくれる国は他にない。現在の露朝関係は以前のような軍事同盟ではないが、大統領選後にプーチン大統領が訪朝して軍事関係を強化する合意が行われる危険性がある。

長野美郷キャスター:
北朝鮮は今年に入り相次いでミサイル発射実験を繰り返している。1月14日に極超音速滑空ミサイルを発射して以降、核搭載可能な潜水艦発射新型戦略巡航ミサイル、超大型弾頭を装着した巡航ミサイルの発射実験と新型地対空ミサイル発射実験などを行った。

河野克俊 元統合幕僚長:
弾道ミサイルはワシントンまで射程に入るかもしれない段階に来たので当面はよしとして、巡航ミサイルを進めている。巡航ミサイルは非常に低空を飛び、放物線を描く弾道ミサイルに比べ捉えにくい。

長野美郷キャスター:
日米韓の対策としては、日本と韓国からそれぞれアメリカ軍に情報を上げて必要な情報をもらっていた従来の形と異なり、1月14日に初めて3国間でリアルタイムの情報共有が行われた。これは巡航ミサイルにも適用できるか。

小野寺五典 自民党安全保障調査会長:
今のシステムはあくまでも弾道ミサイルについてのものだが、今後の議論の中で巡航ミサイル対応についてもシステムや約束事など進めていくことが大事。

長野美郷キャスター:
日本の与党内では足並みに乱れがある。岸田総理が防衛装備品の第三国直接移転に関して「国益にかなう」と発言したことに対し、公明党の山口代表は「重要な政策変更だ。なぜ変更する必要があるのか十分に議論が尽くされていない」。北朝鮮を利することにはならないか。

小野寺五典 自民党安全保障調査会長:
これからは共同開発が基本になる。つまり第三国から戦闘機などの要請があれば、共同開発国と同じスタンスで協力することが必要。日英伊で行う次期主力戦闘機の開発はすでに動いており、早くクリアしたい。ただ山口代表がおっしゃるように、国会での議論を積み重ねて国民の声に応え、ご理解いただく努力をしていく。機微な情報を共有する防衛装備における協力は同盟と同じ役割を持ち、日本の安全保障の大きなプラスになる。また、日本が攻められたときには世界から武器弾薬を送ってもらわなければ継戦能力を維持できない。装備品を出すだけでなく入れることについても真剣に考える必要がある。

長野美郷キャスター:
日本は同盟国のアメリカに加えイギリス、インド、フランス、イタリア、ドイツ、オーストラリアなどと連携を強化している。

河野克俊 元統合幕僚長:
中国も含め、相手が嫌がるのは複数国の連携であり、それはやるべき。ただ私の持論は「同盟は2カ国で」。NATOは31カ国だが、本当に機能するのか疑問。

小野寺五典 自民党安全保障調査会長:
外から見える強さはやはり塊となったときに出るが、最終的には同盟関係。どこと最も密接な関係になるか。日本はちゃんと選んでいると思う。

反町理キャスター:
今国会では、ここまでの予算委員会で安全保障や北朝鮮の脅威の話は出ていない。

河野克俊 元統合幕僚長:
お金の問題なども大事だが、安全保障上の脅威は差し迫っており、併せて議論していただきたい。装備移転についても「一律でダメ」ではなく「この場合はやらない、この場合はやる」。それを決めるのが政治の役割だと私は思う。

小野寺五典 自民党安全保障調査会長:
本来は全ての国民生活についての議論をすべき場。不信を買っている問題にしっかり決着をつけ、早く安全保障についても突っ込んだ本来の議論ができれば。
(「BSフジLIVEプライムニュース」2月8日放送)