電車の中やバスの中。スマホで、電子書籍を読んでいる人をよく見かけるいまの時代。なぜあえてアナログな貸本屋に人が来るのか―。そこにあったのは人間のぬくもりだった。

店内に並ぶ約6万冊のマンガ

福岡・志免町の貸本専門店「レンタルブック空港東」。

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店内には、収まり切れないほどの本の山がそびえる。全てマンガで、その数は約6万冊。所狭しと店内に並ぶ。
オーナーの池田昌樹さんは、「どこに何があるか」全て把握できているという。

「一気に100冊くらい借りて、1カ月後に返しに来る」と話す客。「利用年数は15年くらい」と話す客。「私には、絶対になくてはならない店ですね」と話す客など、多くの常連客を持つ。

料金(1週間)は、1冊100円、10冊600円、20冊1000円となっている。
店内のマンガは1970年代~1990年代を中心に取りそろえられていて、そこには、池田さんの強いこだわりがあった。

「レンタルブック空港東」池田昌樹オーナー:
基本的に完結した本を中心に集めています。現在進行形のマンガは、ほかの大手さんとかチェーン店のマンガをレンタルしているところが取り扱っているので

「レンタルブック空港東」は26年前にオープン。池田さんは、もともとその店に客として通っていた。しかし、オープン2年後に「店をたたむ」ことを知った池田さんは、「なくなっては困る」と事業を引き継いだという。

「レンタルブック空港東」池田昌樹オーナー:
店は、ちょっとダベっていくコミュニティー的な役割。先代もそういう感じだったので、その先代のやり方を引き継いで、お客さんとはなるべくしゃべる

“お試しレンタル”で客に続きを…

先代の意志を引き継ぎ、2代目オーナーとして25年の池田さん。そこへ1人の客が訪れた。「ほぼ毎週来ています」と話すのは、小学校の教頭先生だった。
2人のやり取りを聞いていると、不思議なワードが出て来た。

小学校の教頭先生:
これ「罠」でいけませんか?

「レンタルブック空港東」池田昌樹オーナー:
いいですよ

」!? どういうことなのか尋ねると…

「レンタルブック空港東」池田昌樹オーナー:
「罠」って、お客さんに僕が無料で選んでお貸しして、試し読みしてもらって続きを読んでもらおうと…、「罠に引っかかってもらおうかな」ってことをやっています

店内にも張り出されている、貸本店に似つかわしくない「罠」の文字。その罠に教頭先生もかかってしまったようだ。

「レンタルブック空港東」池田昌樹オーナー:
(教頭先生は)昔からマンガを、何か教育の役に立たないかって(来てくれる)

小学校の教頭先生:
僕、野球が大嫌いだったんですよ。散々「嫌い嫌い」って言うのに「野球マンガが面白い」と、いつも池田さんにすすめられて…。読んでみて結局、「面白い」みたいな。池田さんは絶対、自分では読まないものをすすめてくれる

その結果、教頭先生は、すすめられた野球マンガを3、4回リピートするほどハマってしまい、同僚にも教えていると話していた。

続いてやって来たのは、20年以上前から通っているという常連客だ。

20年来の常連客:
レンタル店に行っても読めない作品が多いので、ここに来て読ませてもらって

大手のレンタルショップでは、人気のないマンガはどんどん淘汰(とうた)されていくが、この店に置いてあるマンガはずっと保管されるため、マニアックなものも読むことができるというのだ。

20年来の常連客:
これ、分かりますか?「サスケ(白土三平・著)」です。昔、アニメにもなったんですけど、古いです。(当時の定価)220円。1968年のマンガ。こういうのが読めるというのが、めっちゃいいところではありますね

丁寧に保管されているため、50年以上前の本でもキレイな状態で借りることができる。

常連客が留守番?アットホームな店

接客中、「あっ、もう時間やん」と何やら慌てる池田オーナー。外出の準備を始めた。

常連客:
あ~、留守番ですか。分かりました、居ますよ

「レンタルブック空港東」池田昌樹オーナー:
じゃあ、ちょっと行って来るね

そう言った池田さんは、常連とは言え、何と客に留守番を任せて外出してしまった。
「いつものこと。なんだかんだ20年以上のお付き合いはありますので」と常連客。すると留守番中、借りていた本の返却に客が訪れた。

常連客:
すいません。いま(オーナーが)奥さんを迎えに行ってます。取りあえず、返却本はお預かりすれば分かると思うんで、お預かりします

来店客:
オーナーに「また借りに来ます」って言っといて下さい

池田さんの留守中に訪れた客の対応に常連客が対応。返却に訪れた客も動じることなく、普通に帰っていった。そして約20分後、池田さんが戻った。

「レンタルブック空港東」池田昌樹オーナー:
寒ッ!ただいま

常連客:
おかえりなさい」

留守番中に返却された本を無事に渡し、留守番完了。客をも巻き込んでしまうアットホームな店なのだ。
ただ、貸本業だけでは生活が難しいため、池田さんは、ほかの仕事を掛け持ちしながら店を続けている。

それでも続ける理由について、池田オーナーは「マンガが大好きというのはもちろんあるんですけど、お客さんとのふれあいですね。もっともっとお客さんが喜ぶようなものをそろえたい。もっともっとマンガを知ってほしい。風化させたくないという思いがありますね」と語った。

貸本屋は、令和の時代に昭和のぬくもりも感じられる素敵な空間なのだ。

(テレビ西日本)

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