国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員が、イスラエル人の人質を監禁していたと解放された人質が証言し、国連組織の関係者がイスラム武闘組織ハマスによるイスラエルの攻撃に加担していた疑惑を裏付ける形になった。
国連は職員9人を解雇し、2人を調査中
イスラエル政府は、UNRWAの一部職員がハマスによるイスラエルのテロ攻撃に参加していたと主張。米国など12カ国がUNRWAへの追加資金供与を停止すると発表した。
UNRWAの職員がどのような形でハマスの作戦に加担したのかは具体的に明らかではないが、米国のマスコミはUNRWAの車両や施設が使われたと伝え、国連もUNRWAの職員9人を解雇し2人について調査中、1人の死亡を確認したと発表した。
この他にも、UNRWA職員が2023年10月7日のテロ攻撃の際に、イスラエルに対する対人攻撃にも関わっていたのではないかと言われていたが、それを裏付ける証言があったことが注目されている。

それは2023年11月のことで、10月7日のハマスの奇襲で捕えられ、その後に解放されたイスラエル人の人質の一人が「私を捕らえていたのはUNRWAの学校の教師だった」と話していたのだ。イスラエルのテレビ「チャンネル13」のアルモグ・ボーカー記者が取材したもので、同記者はその内容をX(旧ツイッター)に次のように投稿していた。
「“関心ない”と言うかもしれないが、この記事をよく読んでほしい。拉致被害者の一人を屋根裏部屋に50日間近く閉じ込めていたのはUNRA(UNRWA)の教師で、10人の子供の父親だったのだ。この教師は被害者を監禁し、食事もほとんど与えず、医療の必要性も無視した。しかし、まだある!別の拉致被害者は、ガザの医師に監禁され、その医師は同時に子どもたちの世話もしていた。これらの民間人はテロリストなのだ。土曜日(10月7日)の大虐殺に立ち会った彼らは、女性や子供を含む何百人もの捕虜を拘束するために不可欠な存在であることが明らかになった」
"Uninvolved," they say, right? Well, read this story carefully. One of the abductees, held for nearly 50 days in an attic, reveals he was held by a UNRA teacher – a father of ten children. This teacher locked the victim away, barely provided food, and neglected medical needs. But…
— almog boker (@bokeralmog) November 29, 2023
この中の「ガザの医師」がどういう人物かは不明だが、ガザの医療施設のほとんどがUNRWAの支援で経営されていることやXの文面から見てUNRWAの関係者と考えてよいだろう。
これに対してUNRWAもXで次のように反論した。
「UNRWAに関する根拠のない主張を広めることは直ちにやめるべきです。証拠や検証可能な事実の裏付けがないまま、公の場で重大な主張をすることは、誤った情報に相当する可能性があります」
🛑 Spreading unsubstantiated claims about @UNRWA must stop immediately.
— UNRWA (@UNRWA) December 1, 2023
Making serious allegations in the public domain, unsupported by any evidence or verifiable facts in support thereof may amount to misinformation.
FULL Statement ⬇️https://t.co/gzNCMnVeif pic.twitter.com/1XGV99RbXw
しかし、国連のアントニオ・グテーレス事務総長自身がUNRWA職員がハマスの攻撃に関与した職員の解雇を発表しては、UNRWAの反論も説得力に欠けることになった。
ハマスとの“癒着”は当然視?成り立ちは…
一方、ボーカー記者が記事の冒頭で「”関心ない”と言うかもしれないが…」と書いているように、このニュースは当初あまり注視されなかった。逆に言えば、UNRWAの関係者とハマスとの癒着はむしろ当然視されていたからだとも言えるだろう。

その原因は、UNRWAの成り立ちにあるようだ。第一次中東戦争の結果、旧パレスチナ地域に住んでいた約500万人のアラブ人が難民化した「パレスチナ難民」を救うために、国連総会決議で1949年12月にUNRWAが設置された。「パレスチナ難民」の支援に特化した国連でも例外的な組織で、難民の教育、保健、福祉、救急などの責任を負っている。国連機関でも最大の組織で、職員は約3万人に上るが、その99%はパレスチナ難民自身だ。
行政権や警察権こそないが、パレスチナ難民と密な接触を保ち、関係者が「パレスチナ寄り」の態度を示すのは理解できないこともない。
今回のハマスのテロ攻撃への加担も、そうした事情が背景にあったと考えるべきなのだろうが、いやしくも「諸国の行動を調和するための中心となること」を憲章でうたう国連の付属機関としては、それでは済まされないはずだ。これを機にUNRWAの立て直しが求められることになるだろう。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】