介護現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)。デジタル技術の活用で、介護職員の働き方はどう変わるのか?職員の負担軽減・業務の質向上を検証するため、高齢者施設で1年3カ月に及ぶ実証実験が行われた。

“見守り”のデジタル技術をフル活用

広島・廿日市市のサービス付き高齢者向け住宅「さくらす大野」。

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コロナ禍の真っただ中、2022年6月に実証実験は始まった。

ジップケア 介護支援専門員・生田渉さん:
エアバッグの振動によって体動・呼吸・脈拍を取ることができます

ベッドに取り付けたのは、介護福祉機器を製造するジップケア(広島市)が開発した介護見守りシステム「まもる~の」。この日、施設の入居者10人の部屋に設置した。

機器を布団の下とベッド脇に設置
機器を布団の下とベッド脇に設置

ジップケア 介護支援専門員・生田渉さん:
室温、湿度、照度、気圧も測定し、居室環境がわかります

室温などを計る本体をベッド脇に設置。さらに、部屋のドアとトイレに“開閉のタイミング”を知らせるセンサーも取り付けた。これらのデータは無線で管理用パソコンやスマートフォンに送られる仕組みだ。

ジップケア 介護支援専門員・生田渉さん:
ベッドにいる・いない、睡眠中であることもわかり、夜勤者の負担軽減になると思います

プライバシー確保しつつ安否確認が課題

このシステムを導入した背景には、サービス付き高齢者向け住宅に共通する課題があった。

さくらす大野・川上牧 施設長:
プライベート空間は確保できるんですけど、その反面、お部屋の中でどういうふうに過ごされているか全く見えない状況。職員は不安を抱えながら夜勤をしています。今回このセンサーを入れることで安心感が生まれて、より質の高いケアにつながるといいなと

この施設には40室に43人の入居者が生活している。平均年齢は89.1歳。4人に1人は認知症を患っている。日中は2人の職員で対応しているが、午後5時半から翌朝8時までの時間帯は夜勤担当の職員1人で対応しなければならない。

この日の夜勤は施設で働き始めて4年目の安村幸恵さん。就寝時間になるとすべての部屋を巡回し、安否確認を兼ねて入居者に声をかける。

介護士・安村幸恵さん:
おやすみなさい

就寝前の安否確認を行う介護士の安村幸恵さん
就寝前の安否確認を行う介護士の安村幸恵さん

トイレの介助から薬の服用補助、洗濯やゴミ出しなど、仕事は多岐にわたる。また、午後11時と午前2時には入居者に異常がないかを確認する「巡視」もある。

介護士・安村幸恵さん:
怖いのが、就寝中や排せつ中ですね。そこで意識をなくされるのが一番怖い。夜8時の安否確認から朝7時に挨拶をしに行くまで、元気でいらっしゃるかわからないっていうのがほんとに精神的に負担です

実験開始4カ月後、スタッフに変化が…

夜勤者の精神的な負担が、このシステムの活用によって軽減された。入居者がベッドを離れているのかベッドの上にいるのか、さらに、呼吸や心拍のデータからベッドの上で起きているのか寝ているのかまで表示され、職員が部屋に行かなくても確認できるようになったのだ。

介護見守りシステム「まもる〜の」の管理画面
介護見守りシステム「まもる〜の」の管理画面

システム導入から4カ月。施設では職員によるミーティングが行われていた。基本的なデータの読み取り方を確認する場面もあった。

さくらす大野・川上牧 施設長:
「青」はどういう状況を表しているでしょうか

スタッフ:
睡眠

さくらす大野・川上牧 施設長:
そうです。ベッド上で寝ている状況です

個人差はあるものの、多くの職員が機器に慣れて、データを読み取れるようになっていた。ミーティングでは、入居者の生活の変化についても意見が交わされた。

「日中の離床時間が増えています」
「トイレに行くタイミングをキャッチできるとその間にパッド交換ができる」

「さくらす大野」の職員によるミーティグ
「さくらす大野」の職員によるミーティグ

見守りシステムの導入でトイレのタイミングをキャッチでき、トイレ介助やパッドの交換がスムーズに行えるようになり、職員だけでなく入居者のストレスも軽減されている。
施設長はスタッフにある変化を感じていた。

さくらす大野・川上牧 施設長:
経験年数の浅いスタッフとベテランスタッフが同じものに対してディスカッションしているっていうのがうれしいです

“介護ケアの質”に向き合う余裕も

あれから1年。介護士の安村さんもすっかりシステムを使いこなしている。

介護士・安村幸恵さん:
離床すると警報が鳴りますので、ベッドから起き上がったことがわかるとすぐに駆けつけて手伝えます。またベッドに戻るまでの見守りができるので、すごく助かります

トイレの介助を行う介護士の安村幸恵さん
トイレの介助を行う介護士の安村幸恵さん

この日、職員たちは入居したばかりの83歳の女性について情報交換していた。

スタッフ:
ベッドに横になっているお姿しか見たことがない

さくらす大野・川上牧 施設長:
「まもる~の」から見てどうですか?

スタッフ:
ほぼ睡眠中です

さくらす大野・川上牧 施設長:
具体的に、まずどんなことからできそうですか?

スタッフ:
何が好きなのか聞いてみて、どんなことに興味があるのかをもっと引き出してみたいと思います

データを基に、いかに入居者の“生活の質”を上げられるか。新たな課題に向き合う職員の姿が見られた。

介護職員の「やりがい」アップ

1年3カ月にわたる実証実験の結果、介護見守りシステムの導入により、職員同士のコミュニケーションが活発になり、仕事に対するモチベーションが向上したことがアンケート調査などでわかった。今回の実験についてアドバイスを行う専門家はこう結論付ける。

県立広島大学・木谷宏 教授:
ある意味、泥くさい仕事である介護の業務量を減らすことにも役立ちますし、業務の質そのものを上げることができます。このことはしっかりと検証できたのではないか

安村さんは今、改めて介護士という仕事を誇りに思っている。

介護士・安村幸恵さん:
入居者の方が困っているときに「助かった」って言われるのが、やっぱりやりがいになりますね

さくらす大野・川上牧 施設長:
介護ケアは「人」と「人の手」が大事だと思います。そこにスタッフが時間をかけられるように、それ以外の記録などの業務をIT機器がカバーできるようになったら、満足度の高いケアにつながるんじゃないかと思います

今後、ますます人手不足が深刻になる介護業界。限りある人材で質の高いケアを目指し、職員の働き方を改善していくためにも、デジタル技術の活用が必要となっている。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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