手塚治虫さんに憧れ絵を描くことを志した絵本作家が、手塚プロダクションから名作「火の鳥」の絵本の制作を依頼された。「びっくりを飛び越してエーッという感じ」と突然の依頼を喜ぶ。絵本作家は憧れの人が作品に込めた思いを、どう子供たちに伝えるのだろうか。

子供の頃から大ファン

山あいにある鈴木さんのアトリエ(静岡県下田市)
山あいにある鈴木さんのアトリエ(静岡県下田市)
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静岡県下田市の山あいにある山小屋風のアトリエ。
絵本作家の鈴木まもるさん(71)のアトリエだ。

鈴木さんが手掛けた絵本
鈴木さんが手掛けた絵本

38年前に下田市に移住し、これまでに出版した絵本は200冊以上にのぼる。子供の好きな動物や乗り物を題材にしたものが多く、ロシアがウクライナに軍事侵攻した2022年には戦争を題材にした絵本も出版した。
鈴木さんは鳥の巣の収集家としても世界的に知られている。そんな鈴木さんに舞い込んできた仕事の依頼とは…。

絵本作家・鈴木まもるさん
絵本作家・鈴木まもるさん

絵本作家・鈴木まもるさん:
手塚治虫さんの「火の鳥」を描くことになったので、いま描いています。僕も子供の頃からものすごい大ファンで…

手塚治虫さんの代表作「火の鳥」
手塚治虫さんの代表作「火の鳥」

「火の鳥」は、「鉄腕アトム」や「ブラックジャック」などを描いた日本の漫画界の第一人者で、「漫画の神様」とも呼ばれる手塚治虫さんの代表的な作品だ。2024年は、「火の鳥」の連載開始から70周年だ。

漫画家・手塚治虫さん(写真提供:手塚プロダクション)
漫画家・手塚治虫さん(写真提供:手塚プロダクション)

たまたま鈴木さんが出演していたラジオ番組で手塚さんのファンと知った手塚プロダクションが、「小さな子供でも読める『火の鳥』の絵本の制作を」と鈴木さんに依頼した。2023年7月のことだ。

手塚プロからの依頼に驚き

鈴木さんが絵本の制作に使う道具
鈴木さんが絵本の制作に使う道具

鈴木さんは「中学生くらいになって月刊誌で『火の鳥』の連載が始まり、すごく楽しみに見ていて、その頃から漫画家になりたかった。結局 自分は絵本の方があっているということでいま絵本を描いていますが、やっぱり最初のモノづくりの最初に憧れた人が手塚先生なので、ものすごく大きな存在。もうびっくりを飛び越してエーッという感じ」と絵本を依頼された時の喜びを語る。

月刊誌に掲載された「火の鳥」だけを切り抜き保管
月刊誌に掲載された「火の鳥」だけを切り抜き保管

手塚さんの作品を読み、中学生の頃から漫画家になりたいと思っていた鈴木さん。結局、紆余曲折を経て絵本作家になったが、中学生時代から保管していた貴重な思い出の品を見せてくれた。
鈴木さんは「火の鳥」が連載された月刊誌を毎月 買い、「火の鳥」のページをだけを切り取って大事に保管していた。「とっておいて良かった」と話す。

湧きあがるアイデア

ダミーと呼ばれる絵本の見本
ダミーと呼ばれる絵本の見本

ダミーと呼ばれる絵本の見本をみせてくれた。鉛筆書きで最初から最後までどんな絵でいくか示すもので、手塚プロが見てOKが出ているそうだ。出版社も決まった。手塚作品にかかわれるうれしさで、次々とアイデアが沸きあがってきたそうだ。

「火の鳥」は過去から未来まで、地球や宇宙を舞台に生命の本質や人間の生き様を描いた壮大なスケールの作品だ。
鈴木さんは「小さいお子さんたちには少し難しい。小さいお子さんでもわかる『火の鳥の世界』という絵本ができたらいいね」と、手塚プロのスタッフと話したそうだ。

鈴木さんの原画(ⒸTEZUKA PRODUCTIONS, Mamoru Suzuki)
鈴木さんの原画(ⒸTEZUKA PRODUCTIONS, Mamoru Suzuki)

壮大な「火の鳥」の物語を1冊にまとめた絵本。どうすれば子供たちにもわかってもらえる「火の鳥」を描けるのか。
「火の鳥は炎の中に入って小さな子供に再生しますよね。だからそっちの世界でいけばいいのかな。そこは手塚先生が描かれていないし、そこで火の鳥と動物たちとのつながりみたいなものから命を語れば、手塚先生の意図も壊すわけではないし、他の人が見てもおかしいということにはならないで、小さなお子さんたちにも伝わるのでは」
鈴木さんはいろいろと考えた結果と話してくれた。

絵本「火の鳥」に込めた思い

制作の最終段階
制作の最終段階

2023年12月下旬、原画の制作は最終段階に入っていた。鈴木さんが描くのは巣に横たわる火の鳥。手塚さんの世界観を損なわないよう、そして鈴木さん自身の思いや感性も感じられるようペンを走らせる。

鈴木さんの原画(ⒸTEZUKA PRODUCTIONS, Mamoru Suzuki)
鈴木さんの原画(ⒸTEZUKA PRODUCTIONS, Mamoru Suzuki)

「描きだすと“黄色い鳥”ではなく、”光っている鳥”を表現するのが難しかった」と話す鈴木さん。約1カ月半で大小20枚の原画を描き上げた。「火の鳥」の絵本にどんな思いを込めたのだろうか。

絵本作家・鈴木まもるさん
絵本作家・鈴木まもるさん

絵本作家・鈴木まもるさん:
本来の命と自然とのつながりみたいな。その辺でやれば先生の世界も壊さないし、初めてのお子さんたちにも手塚先生の伝えたい一番本質みたいなものが伝えられるのではないかと思う。より小さいお子さんたちもこれ(絵本「火の鳥」)を入口として、また手塚先生のいろいろな作品を読んでもらえるようになれば、きっと手塚先生も喜んでくれるかなと思います

大勢の子供たち、そして大人たちに夢を与え続けてきた2人。絵本「火の鳥」はどんな作品に仕上がるのだろうか。2024年4月に出版の予定だ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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