「レ―ス」は女性のものというイメージがあるかもしれない。しかし今、レース素材を採用した男性用下着がヒットしているという。
ワコールは2021年12月、レース素材のボクサーパンツ「レースボクサー(TM)」を発売。販売開始から10日間で約3カ月分の予定枚数が完売するほどの人気となり、2023年9月にはレース素材の下着の需要に応える形でブリーフパンツ「レースブリーフ」も登場した。

これらレース素材の男性用下着は、デザインは男性でも手に取りやすいよう、大ぶりの花柄にリーフや幾何柄モチーフを組み合わせた柄をセレクト。メンズ用として新たに開発したオリジナルレースは、ストレッチ性と強度を兼ね備えている。通気性が良くムレを軽減するため、長時間はいても快適なはきごこちだという。
しかし男性にはあまり馴染みがなく、そもそもレース素材に触れたことがない人もいるかもしれない。
そんな中で美しさとはきごこちを両立したという、この商品。ワコールメンを取り扱っている百貨店、ワコールの公式オンラインストアなどで扱っているとのことだが、なぜ男性用下着としてレースに着目したのか。ワコールの担当者に聞いた。
“美しい”だけじゃない レースの魅力
――レースには女性のイメージがあるが、どうして男性用のレース下着を発売したの?
開発がスタートしたのは2019年~20年頃で、当時は男性のメイク・スキンケアなどの市場が伸びていましたし、“ジェンダーレス”という言葉の登場で、世の中もファッションを自由に楽しめるような風潮になっていました。
私たちは過去に下着に関する意識調査を行ったことがあるのですが、そこでは男性も美しいものに興味があることが読み取れました。「美しさ」は男女関係なく使える言葉。これまでも華やかな花柄の男性用下着などを試してきましたが、それが売れていました。女性が下着を身につけてときめくような感覚を男性下着でも実現したいと考えた結果、レースに行き着きました。

――普段使いの想定で作った?
もともとは男性の特別な日に身につける下着の想定でした。例えば女性はウェディングドレスと一緒にブライダルインナーを選んで、思い出に残る物にします。しかし男性は結婚式で着ていた下着を覚えている方は少ないです。
男性が特別な1日にはけるようなものを提案できたらと考え、最初は真っ白で作っていました。ただ開発を進める中で、毎日はいていても快適でかっこいいものに仕上げたいと、だんだんコンセプトが変化していきました。
――レース素材の魅力は?
レースで一番素敵だと思うのは、糸をきれいに編み込むことで柄表現ができ、美しさを表現できること。
美しさを身にまとってほしいという思いはもちろんですが、レースは編み目が大きく通気性が良いので、ムレに敏感な男性のニーズにも合う、機能面でも優れた素材であると考えています。

――開発過程でこだわったところは?
男性ははき上げるときに力がかかったり、股下に穴があきやすかったり、女性と比べると動きが大きく擦ったりするため、レディースで採用している繊細なレースよりも強度を上げないといけません。そのため強度・ストレッチ性があるものを意識して、メンズ用に一からオリジナルレースを作りました。
レースは普通の生地より伸びが少ない分、股下部分の伸びがなくてきつくなり、どうやって快適に包み込むか検証が続きました。最初は強度を意識するあまり、生地が固くなりすぎてしまうことも…。素材開発・風合い・設計を同時に何度もやり直し、1番良い形を追求しました。
新たに開発した生地は、レースが持っている機能の部分と設計パターン、通気性の良さ・蒸れにくさに加えて、ストレッチ性と強度計算した組み合わせが着用感の快適さにつながっています。
購入者「自信を持って過ごせる」
――レース素材の男性用下着の売れ行きをどう思った?
発売当初は男性にどこまでレース素材が受け入れられるか分からなかったため、認知されるまでに時間がかかると思っていました。実際販売してみると、一気に導火線に火がついて、花火が打ち上がるのが早かった。予想以上の反響にびっくりしていますし、とてもうれしいです。
販売前から「本当に待っていました」「こういうのが欲しかった」という声が多く、真面目に向き合いこだわってレース素材を提案したことで、ものの良さが伝わったのかなと思います。
――購入者はどのような人?
20~60代まで幅広いです。中でもファッション感度が高い40代がメインとなっています。店頭で販売していると、様々な層に受け入れられていることを実感します。

――商品のターゲットは想定していたの?
年代というよりはマインドで、自分のおしゃれを楽しみたい人に刺さればいいなという思いでした。
若い世代は昔よりジェンダーの境目がなくなっているのを感じていたので、新しい下着を提案したい。40~50代のユーザーには、ワコールだからこそできるレースの世界を打ち出したいと考えていました。
――どのような反響が寄せられている?
「気分が上がる」「自信を持って過ごせる」という声が多く、毎日身につける下着でこだわりの選択を取り入れられることが、モチベーションにつながっているようです。また、「1枚ずつハンガーにかけて並べたい」という声もありました。
メンズの下着はタンスの奥にしまっておくことが多いと思いますが、身につけるだけではなく、美しい下着を見て気分を上げるという新しい感覚が芽生えてきているのを感じました。はきごこちの良さと美しさ、両方を楽しんでいることが見受けられます。
開放感を今風に “ふんどし”もヒット
――このほかにも、意外性のある商品はある?
「ふんどし」を現代のスタイルに落とし込んだ「ふんどしNEXT」は、2023年12月中旬にAmazonのメンズ和装下着の売れ筋ランキングで1位を獲得した人気商品です。ふんどしをブリーフのような形にすることで、ある程度のフィット感がありながら、通気性の良さや開放感を今風に感じることができます。

――今後の目標は?
男性同士、パンツの話をすることはあまりないと思いますが、自分が気に入ったものを良いと伝えられる世界観を通じて、人の豊かさや快適さを生み出していきたいです。
「パンツ1枚でこんなにマインドが変わるのか」と、身につけた人のメンタルや生活を豊かにするものをこれからも作っていきます。

一見珍しくも思えたレース素材の男性用下着。開発の裏には、物作りへの真摯な姿勢や、身につけることで心や生活が豊かになってほしいという思いがあった。美しい見た目のみならず快適なはきごこちは、体験すれば誰かに伝えたくなるかもしれない。