東京オリンピックの正式種目決定で、益々盛り上がりを見せているスケートボード。日本はいまやアメリカ・ブラジルと並ぶ世界の3大強豪国だ。さらにコロナの影響で、「公園で手軽に遊べる」と中高生の間でスケートボードがブームだという。

そんな中7月24日から、日本で初めてリアルなスケートボーダーを主人公にした映画『STAND STRONG』が全国で逐次公開される。監督の菊池久志氏と岡田晋プロデューサーに映画とスケートボードの魅力を聞いた。

菊池監督(右)は国内外のCMやMVの演出も手掛ける。岡田氏は日本人で初めて世界デビューを果たしたプロスケートボーダー
菊池監督(右)は国内外のCMやMVの演出も手掛ける。岡田氏は日本人で初めて世界デビューを果たしたプロスケートボーダー
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自由が丘で飯食べながら「映画撮りたいよね」

――この映画を撮ろうと思ったきっかけを教えてください。

菊池監督:
岡田晋君とはお互い中学の時に同じスポットでスケートボードをやっていて、6年前Facebookの日本向けCMを作ったときに、晋君をキャスティングして20年ぶりに再会して。その後自由が丘で飯を食べながら、「スケーターの映画を撮りたいよね」となって。

岡田プロデューサー: 
CMに声をかけられた時、「絶対に晋君がいい」といわれて何だろうと思いました(笑)。

菊池監督:
映画は去年、晋君の原作を脚本化してお金も2人ですべてやろうと決めたら突然進み出して。大手プロダクションやコンテンツ会社から一緒にやろうと言われたけど、「主役を女の子にしたい」とか「サーフィンも結びつけて」とかいわれて、「全部無いっすね」となって。

物語は4人がCRASHERというスケートチームを作ったことから始まる
物語は4人がCRASHERというスケートチームを作ったことから始まる

「純度が高いものを撮るには自分たちでやるしかない」

――じゃあ資金のやりくりから制作まですべて2人でやったんですね。

岡田プロデューサー:
大手プロダクションが入ってくると「数字取れる俳優さんを入れましょう」となるんですけど、「スケートできない俳優さんが主演やったらスケートシーンはどうなるの」と。黒子がスケートする映画を僕たちは作りたいわけじゃない。スケートボーダーを純度高く撮りたいと結論に至って、自分たちがいいと思うものを作るためには、お金を出すしかないと腹くくって。

菊池監督:
純度が高いものを作るには自分たちでやるしかないと、映画館も決まっていない中で走り出したんですけど、ある人から「スケーターって映画館行くのかなあ」っていわれたときに一番火がつきましたね。そうじゃなくて、この子たちが観たい映画が無いから観ないだけで、「こんな映画だったら観に行くよ」といわれる映画を実現しようと。

「まさにフリースタイル、凄いなあと思った」

――主演はリアルなスケーター4人ですが、俳優としては素人ですよね?

菊池監督:
演技のトレーニングを受けている子はいないので、いままでの演出手法は全部やめました。彼らは台詞を1行も覚えてこなかったです(笑)。それでも14日間で撮り切らないといけなかったので、いちいち俺が「台詞はこれね、話し方は変えていいから」と。でも5,6テイク撮っても、同じ台詞いわないんだよね。ものすごくストレスでしたけど、ものすごく楽しかった(笑)。

岡田プロデューサー:
「普通そこで遅刻しないでしょ」みたいなことはあったけど、同じスケーターなんで何とかぎりぎりつながれたというか。監督は決まったものを撮るんじゃ無くて、その瞬間に撮れたものをもとにストーリーを作っていくという。でも監督は2週間で1回も怒らなかったですね。実際、キャストの1人が現場に遅刻して来ない時があって、目の前で崩れていくんですよ、シナリオが。監督はそれを逆手にとって、映画の中で本当に遅刻したことにするんです。まさにフリースタイル、凄いなあと思いましたよ。

4人のスケートスポットでの活動はSNSを通じて広まっていった
4人のスケートスポットでの活動はSNSを通じて広まっていった

「潜在的な元スケーターは約100万人いる」

――この映画はどんな人に観てもらいたいですか?

菊池監督:
スケーターから広がって、スケーター以外の皆に観て欲しいなと。俺たち世代もそうだし、いままでやっていた人も一杯いるので。

岡田プロデューサー:
潜在的な元スケーターは、100万人くらい(※)いるので観てもらいたい。話の内容はスケーターが主人公なだけで、誰もが若い時に経験したようなことなので、どんどん観る人が広がってくれれば幸せかなと。

(※)スケートボード人口は推定40万人

しかし彼らの歯車はあることをきっかけに崩れ始める
しかし彼らの歯車はあることをきっかけに崩れ始める

スケーターはチャレンジャーで冒険者

――最後に映画の中でどんなスケートボードの魅力を伝えたいと思いますか?

菊池監督:
スケートボードって何なのか、スポーツなのかファッションなのか遊びなのか。でかいスポーツの祭典があろうと無かろうと彼らは関係無くて、自分がこの技をメイクしたいと失敗を繰り返していく。こんな純度、純粋さを伝えられたら本望かなと。スケーターはずっとチャレンジャーであり冒険者であることを、映画の中でひろってくれればいいなと。 

岡田プロデューサー:
スケーターって、「スケーターってこうでしょ」と言われたら、その枠から飛び出すやつです。「じゃあそうじゃないのを見せてやるよ」とやりだすのがスケーターですよ。スケーターには「自分超(じぶんごえ)」という言葉があって、レベルに関係なく自分を超えたやつをリスペクトします。自分の限界を超えていこうとチャレンジすれば怪我もするけど、それがスケーターの繋がっている部分、チャレンジ精神の塊ですね。

――ありがとうございました。  

インタビュー後記:
スケートボードが生まれたのは1940年代のアメリカと言われている。しかし世界中で人気となったのは70年代、アメリカ西海岸のサーフィン文化とつながってからだろう。当時サーファーは波や風待ちの合間に、ビーチのサイドウォークでスケートボードに興じていた(下の写真は80年代の筆者)。

その後、街中の公共施設などを利用してスケートボードをする「ストリート・スタイル」が始まり、音楽やファッションとも融合して、いまや文化・スポーツとしてスケートボードは若者から熱狂的に支持されている。

この映画の試写を薦められたとき、正直言って筆者はあまり乗り気では無かった。普段公園やビーチで見るスケーターを、「やんちゃで不良っぽい若者」とどこか冷めて見ていたからだ。

しかしこの映画を観て、それがつまらない偏見であったことがよくわかった。

リアルなスケーターたちが「自分を超える」ためにひたすらストイックに技を磨く。一歩間違えば大怪我を負うような大技にも勇気を持ってチャレンジする姿に、筆者は胸が熱くなった。

そして菊池監督と岡田プロデューサーへのインタビューを終え、その熱はさらに強くなっている。「スケーターはずっとチャレンジャーであり冒険者なんですよ」と、菊池監督は語った。『STAND STRONG』という題名には、彼らのスケーターへの想いが溢れているのだ。

この映画はスケーターだけで無く、昔は輝いていたはずの疲れたビジネスパーソンにもぜひ観て欲しい。人生は最期までチャレンジと冒険であることを思い出すためにも。

写真:©︎2020 Team STAND STRONG

筆者も「潜在的な元スケーター」(左から2人目)
筆者も「潜在的な元スケーター」(左から2人目)

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。