能登半島地震で、石川県は今月15日から遺族の了解を得られた犠牲者の氏名を公表している。地震による死者は17日午後までに232人にのぼっていて、これまでに59人の氏名が公表された。
それによると、被害が大きかった輪島市や珠洲市を中心に60代から90代の高齢の犠牲者が多く、死因は家屋倒壊が53人と多数を占めていて、被災現場の状況から分かるように、突然の大きな揺れで家や建物が倒壊して、逃げる時間もなかったケースが多かったとみられる。

40代の消防団員も犠牲に

氏名が公表された犠牲者の中には40代の男性もいる。
輪島市の稲垣寿さん(46)は消防団員で、最初の大きな揺れで同居する祖母と母親を外に避難させた後、地域の住民を助けにいくためにいったん自宅に戻って消防服に着替えているときに震度6強の地震がおきた。

亡くなった稲垣寿さん(46)(家族提供)
亡くなった稲垣寿さん(46)(家族提供)
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自宅が倒壊して梁に挟まれて数時間後に救出されたが、その後、亡くなった。
地域の区長は「若手のリーダーで面倒見もよく、行事や祭りにも参加していて、防災意識も強くて消防団員に志願した。もし消防団員でなかったら着替えに戻ることもなかっただろうし、残念だし大きな損失です」と話している。
稲垣さんの叔父は「救出する時、消防服は着ていたが、まだベルトが横にあった。任務として自分が行かなければならないという信念があったと思う」と語った。

石川県ホームページより一部抜粋
石川県ホームページより一部抜粋

犠牲者の氏名公表について、石川県の馳浩知事は「人生の尊厳、価値観、関わった方への報告という意味で公益性がある」と話している。

安否不明者は原則公表

災害時の安否不明者については、国が昨年3月、速やかな救助救出活動につなげるため、「家族の同意がなくても原則、公表できる」という全国の自治体に向けた指針を打ち出した。
能登半島地震でも県が今月3日から安否不明者の公表を始め、一時は300人を超えていた不明者は救助活動や確認作業が進んだこともあり、17日午後には21人となった。
21年7月、静岡県熱海市でおきた土石流災害では発生から2日後に60人以上の安否不明者が公表され、40人以上の安否が確認されたことで不明者の捜索エリアを絞り込むことができた。
生存率が下がる72時間が経過する前に、できるだけ早く不明者を明らかにすることが命を救うことにつながる。

災害時の死者、不明者の氏名公表については、神奈川県が2020年から原則公表の方針を打ち出している。神奈川県の黒岩祐治知事は「国民の知る権利に応えるために、情報は速やかにだすべきだと考えていた。それを報じるかどうかはメディアの責任です」と話した。

災害死者の公表は各自治体の判断

災害時の死者、不明者の集約や氏名公表の判断は自治体が行うが、安否不明者は国の基準ができたことで公表が原則となった。
一方で、死者については自治体によって判断が分かれていて、国の指針でも個人情報保護法の対象外という理由で触れられていない。
想定される南海トラフ地震や首都直下地震、また大型台風など被害が全国広域にわたった場合、死者の氏名公表の判断が自治体によって分かれることも考えられる。
日本新聞協会は昨年、「死者の情報も公共的な関心事であり、公表の有無が各自治体の判断に委ねられれば、国民に資する情報流通が阻害されかねない」として、安否不明者と同様に国に情報提供の取り組みを求めている。

「残していったことを引き継いで」

災害で命を落とした人々の記録を残すことは、事件や事故の被害者と同様にその人の生きた証を残すことであり、災害を経験して得た教訓を後生に伝えていくことにもつながる。
亡くなった稲垣さんの義兄は「彼が残していったことを引き継いでいかないといけない」と話している。
【執筆: フジテレビ解説委員室室長 青木良樹】

青木良樹
青木良樹

フジテレビ報道局特別解説委員 1988年フジテレビ入社  
オウム真理教による松本サリン事件や地下鉄サリン事件、和歌山毒物カレー事件、ミャンマー日本人ジャーナリスト射殺事件をはじめ、阪神・淡路大震災やパキスタン大地震、東日本大震災など国内外の災害取材にあたってきた。