能登半島地震から2週間。授業再開のめどがたたない自治体では、中学生を一時、市外へ避難させる動きが広がっている。

一方、今、懸念されているのが「災害関連死」。避難所には、さらなる犠牲を防ごうと奮闘する医師らの姿があった。

中学生だけで集団避難へ

13日、石川・輪島市で避難所となっている小学校でピアノを演奏していたのは、輪島中学校の3年生、山下明日凪(あすな)さん(14)。弾いていたのは、発表会で披露した曲だ。発表会はもう終わったが、懐かしくて弾いていたという。

輪島中学校の3年生、山下明日凪(あすな)さん(14)
輪島中学校の3年生、山下明日凪(あすな)さん(14)
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明日凪さんは、現在、倒壊を免れた自宅にいるものの、電気や水道は止まったままで、食料は避難所に受け取りに来ているという。3月には高校受験を控えている。

――クラスメートとはどんな話をする?

山下明日凪さん:
大丈夫かとか、まず無事を確認して、その後にこれから学校どうなっていくのかなとか。

地震から10日が過ぎ、明日凪さんはある選択を迫られた。

輪島市は、中学生の集団避難を検討
輪島市は、中学生の集団避難を検討

学校再開のめどがたっていない輪島市は、輪島中学校、東陽中学校、門前中学校に通う生徒約400人全員の集団避難を検討していることを発表。災害時に親元を離れ、中学生だけで集団避難するのは、異例のことだ。

避難先は、輪島市から約100km南にある白山市の体験教育施設。そこで教師と集団生活を行いながら、授業を受けられるようにするといい、期間は2カ月ほどを想定しているという。

401人中250人が同意
401人中250人が同意

集団避難に子供を参加させるかどうか、市は保護者にアンケートを実施。13日までに、401人中250人が同意、151人は同意しない、または無回答だった。

明日凪さんは、輪島市を“出る”決意を固めていた。

集団避難に参加し、輪島市を出ることを決断した明日凪さん
集団避難に参加し、輪島市を出ることを決断した明日凪さん

山下明日凪さん:
行きます。2カ月という長い間家を離れたことがなかったので、不安もあるんですけど、早くその環境に慣れて、みんなで協力しながら生活できればいいなと思います。

保護者同士も集団避難を前向きにとらえているという。

明日凪さんの母・明美さん:
一人で行くわけじゃないし。なおさら被災した子たちの気持ちもお互い分かるから、行ってみんなで団結心固めてきて、「輪島を復興させるぞ」みたいな気持ちになれればいいねっていう話をしてきました。

「参加しない」決断をした家族は…

一方、輪島市河井町で出会ったのは、喫茶店を経営する山下章滋(しょうじ)さん(59)。

地震直後、店内はあらゆるものが散乱し、雑然とした状況だったが、現在は片付けも進み、電気も復旧。2階の自宅で、家族4人で生活をしている。

山下さんには、中学2年生になる双子の息子がいる。輪島市から届いた通信アプリのアンケートを前に、話し合いをしていた。

山下章滋さん:
向こう行けば確実に生活環境っていうのは、いいわけですからね。

しかし、家族は「集団避難には参加しない」という決断を下した。

集団避難には参加しないと決めた
集団避難には参加しないと決めた

山下章滋さん:
こちら地元、輪島に残るっていう方向で選択したんですけど。

いったいなぜなのか。

山下章滋さん:
(息子には)持病的な形で食事制限とかもあったりするので、集団生活になってくると、そこまで個別のケアだったりとか、そこが今できるのかどうか、委ねられるのかっていう不安はある。

――摂取しちゃいけない食材とかもあるんですか?
山下章滋さん:

あります。

息子には持病があり、食事制限など家族のケアが必要だという。

友達の多くが避難し、離ればなれになることについて、息子の昌大さんと友大さんはどう思っているのか。

昌大さん(14):
LINEで少しだけでもやりとりはしているので。

友大さん(14):
別にそこまで会いたいとは思ってない。会えたら会えたで、という感じです。

再開までは、勉強も自分たちでスケジュールを決めて行うという。

「持病の悪化、感染症が一気に増える」懸念される災害関連死 

14日午後2時現在、約2万人が石川県内の避難所での生活を余儀なくされている。厳しい寒さに見舞われる中、避難所では、さらなる犠牲を防ごうと奮闘する医師らの姿があった。

13日、珠洲市の避難所となっている飯田高校で診察を行っていたのは、NGOピースウィンズ・ジャパンの医療チーム「空飛ぶ捜索医療団“ARROWS”」。

珠洲市では14日午後2時現在、ほぼ全域となる約4800戸で断水、約2900戸で停電が続いている。医療チームは、生活環境を点検した。

空飛ぶ捜索医療団“ARROWS” 林田光代さん:
お水がなかなか皆さんないから、衛生面、手を洗ったりとか難しかったりもするのかなと。土足っていうのがちょっと心配。

なぜ、こうした細かい生活環境などをチェックするのか。

空飛ぶ捜索医療団“ARROWS” 山田太平医師:
「災害関連死」に関しては、例えば急激に環境が変わって、持病の悪化とか感染症が一気に増えてきています。

今、懸念されているのが、地震後の避難生活中などに亡くなる「災害関連死」。14日までに13人(輪島市3人、能登町4人、珠洲市6人)が報告されている。

2016年の熊本地震では、地震による直接の死者が50人だったのに対し、地震後に命を落とした人が218人。そのうち約8割が70歳以上の高齢者だった。特に多かったのが、呼吸器系や循環器系の疾患で、約6割に上った。

過去の地震でのデータを基に、災害関連死発生までのプロセスを可視化したもの
過去の地震でのデータを基に、災害関連死発生までのプロセスを可視化したもの

過去の地震でのデータを基に、災害関連死発生までのプロセスを可視化すると、例えば、トイレを我慢し排泄回数が減ると、脱水症状から便秘になり、やがて、循環器疾患に陥る可能性があるという。

空飛ぶ捜索医療団“ARROWS” 山田太平医師:
例えば、ひどい場合はうんちがたまりすぎて、場合によっては虚血性腸炎という状態になったりすることもまれにあります。便秘は死ぬ病気ですからね。

水不足によって歯磨きができない場合でも、口腔ケア不足から口腔内細菌の増加を招き、やがては誤えん性肺炎を引き起こし、死に至るケースもあるという。

実際にこの避難所でも…

避難生活を送る垣内信男さん(80):
ここはちょっと窮屈で、なんか人がガヤガヤしていて落ち着きがない。ここのトイレは1回も使っていない。

垣内さん夫妻は、避難所のトイレが落ち着かず、家に帰って用を足しているため、回数は減少している。

さらに、睡眠環境も重要だという。

避難生活を送る坂下久美子さん(76):
この2畳に3人ぐらいで寝ていたもので。やっぱりちょっとね、体はきついものがありました。

雑魚寝は、身体活動性の低下を招き、体力や免疫力の低下、やがては感染症につながることもある。

空飛ぶ捜索医療団“ARROWS” 山田太平医師:
危機的な状況だと思っています。(環境の改善が)1秒でも早く1人でも多くと。「1秒でも早い」というその時間の概念が一番大事なのかなと思っています。

発生から14日目、被災者のケアは新たな段階に入っている。始まったのは、ライフラインが整っているホテルや旅館など2次避難所への移動だ。

14日、岸田首相が発災後初めて被災地を訪れた。

岸田首相:
一時的によそに避難したとしても、必ず将来ここに戻って来られるという、皆さんその安心がないと外に行く決心もできないでしょうから、必ず戻れるために、地元の仮設住宅をはじめ、環境整備、これは並行して進めてもらう。国や県はしっかりバックアップしていきますので。
(「Mr.サンデー」1月14日放送より)

<フジネットワーク サザエさん募金>能登半島地震救援