最大震度7を観測した能登半島地震。発生から12日目。厳しい寒さの中、断水や停電が続き、今も多くの人が避難生活を余儀なくされている。12年10カ月前-。東日本大震災の津波により甚大な被害を受けた宮城県南三陸町で、避難所の運営に携わった教師が語った。

「命を守って、地域で生き抜いて」

南三陸町
南三陸町
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 宮城県の太平洋側に位置する南三陸町。タコやアワビなど、1年を通して魚介類がとれる、海とともに生きる町だ。

 町内にある中学校2校のうちの1校、南三陸町立歌津中学校。この学校で防災主任を務める、佐藤公治さん(60)。能登半島地震について尋ねると「自分は教訓などを申し上げる立場にはないが、なんとか自分の気持ちを保っていただき、命を守って、地域で生き抜いてほしい」と話してくれた。

歌津中・防災主任 佐藤公治さん
歌津中・防災主任 佐藤公治さん

5カ月間避難所に 800人が身を寄せる

 2011年3月11日に発生した、東日本大震災。歌津中では、約5カ月間避難所となり、約800人が身を寄せた。歌津中は、翌日の12日に卒業式を控えていて、体育館には紅白幕が張られていたという。

歌津中の避難所(2011年3月)
歌津中の避難所(2011年3月)

 佐藤さんは、「地震後は、生徒を連れて1次避難のため高台に避難していた。雪が降ってきて、校舎に戻ると、すでに体育館には避難者がいっぱいいた」と当時を振り返る。佐藤さん自身も被災しながら、当時も勤務していた歌津中で、避難者や生徒の対応にあたったという。

"被災者自身"が考えることの大切さ

 実は、歌津中には、全校生徒が所属する「少年防災クラブ」という組織が、震災の1年前の2010年から設立されていた。当時から指導を担う佐藤さんは、震災翌年から、新たに「避難所運営活動」という防災訓練を取り入れた。

「避難所運営活動」の様子(2012年)
「避難所運営活動」の様子(2012年)

 この防災訓練、教員や参加する地域住民などの“大人”は、生徒に一切指示を出さない。生徒が主体となって役割分担を行い、避難所運営や炊き出しを行う。その狙いは、みんなが大変な状況だからこそ「被災者自身が考えることの大切さ」に気付くことだ。

 佐藤さんは、「誰かが何かをやってくれるのを待つのではなく、できることはなにか、、、子供たちにも考えてもらいたい。そして、自分が食べるだけでなくて、自分の家族や近所の方々にも一緒に分けて、“ともに生きる”んだという気持ちに気付いてほしい」と期待を込める。

「避難所運営活動」の様子(2012年)
「避難所運営活動」の様子(2012年)

 23年度の「少年防災クラブ」の代表委員長を務めた、歌津中3年の阿部吾公さんは、
「東日本大震災の記憶というのはほとんどないが、有事の際には、中学生でもひとりの大人の仲間として、運営などを手伝っていきたい」と、未来の防災への思いに力を込めている。

歌津中3年 阿部吾公さん
歌津中3年 阿部吾公さん

震災直後の出来事から 伝えたい思いー

 佐藤さんは、能登半島地震で避難生活を余儀なくされている人に向けて、伝えたいことが二つあるという。

①【生きる気持ちを強く持つ
「建物への被害やインフラの影響で、避難生活は長期化が予想される。どうか、生きる気持ちを日々強く持ってほしい」

②【分け隔てなく助け合う
「ある程度家が残っている人、家が倒壊してしまってどこにも住むところがない人、それぞれの立場でさまざまな被災状況の中で、〝自分だけが〟という気持ちではなく、皆でともに乗り越えるという気持ちを共有してほしい」

歌津中の避難所(2011年3月)
歌津中の避難所(2011年3月)

 これらのことに気付いたのは、東日本大震災直後の佐藤さん自身の忘れられない出来事に起因しているという。それを今回、明かしてくれた。

「生徒などを対応しながら過ごしていた時に、昔一緒に働いていた先輩が、『お前も大変だな』と私に声をかけてきた。その際、私のポケットに塩おにぎりをぎゅっと詰めこんで、『知らないところで食べろよ』と言われて…結局、食べることはできなかったけれども、助けられたなという記憶が。ありがたかったなという気持ちが今でも残っている」
(歌津中・防災主任 佐藤公治さん)

奪われた日常...「生きる」ために主体性を

 当たり前にあった日常が奪われ、突然始まった避難生活で災害関連死も懸念される被災地。避難生活を乗り越え「生きる」ためにー。

歌津中・防災主任 佐藤公治さん
歌津中・防災主任 佐藤公治さん

ひとりの避難者として不安な気持ちをいっぱい抱え、避難所にみんなが集まる。その際に、地域として、避難所の雰囲気を作っていくことや、みんなで復旧・復興に向けて、何とか早く動き出そうと考えることが一番なのではないかと思う。人任せにするのではなくて、自分が自分事として主体性を持って、さまざまなことに対応することが必要」と佐藤さんは最後に強く訴えた。

過酷さを知っているからこそ伝えたい。生き抜いてほしい。

(仙台放送)

仙台放送
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