元日の能登半島を襲った地震では厳しい寒さの中、多くの人が避難所での生活を強いられていて、「低体温症」のリスクも指摘されている。東日本大震災では津波から逃れたにもかかわらず、避難先で「低体温症」によって命を落とす人もいた。専門家は普段からの備えでリスクは減らせるとしている。(2022年に取材・放送した内容を一部改稿して掲載)

高さ10メートル 迫りくる津波

震災遺構・中浜小学校
震災遺構・中浜小学校
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海からおよそ400メートルの場所にある山元町の「中浜小学校」。震災で高さ10メートルほどの津波に襲われ、屋上近くまで浸水した校舎は、現在震災遺構として保存されている。

当時の中浜小学校校長・井上剛さん
当時の中浜小学校校長・井上剛さん

震災当時、中浜小学校の校長を務めていた井上剛さん。あの日、井上さんは学校に避難していた児童や住民など90人を連れ、屋上への避難を決断。津波は4度にわたり校舎に迫り、いずれも屋上には達しなかったもののギリギリのところで難を逃れたという。中浜小学校には今、津波の高さを示すプレートが貼られ、その恐ろしさを伝えている。

去った脅威…待ち受けていた「寒さ」

井上さんたちが避難した屋上の部屋
井上さんたちが避難した屋上の部屋

津波の脅威が去りホッとしたのも束の間、屋上の部屋に避難した井上さんたちを待ち受けていたのは「寒さとの闘い」だった。

役に立ったのは部屋に保管されていた段ボールや学芸会の小道具など。井上さんたちは冷えたコンクリートの床に段ボールを敷き詰め、布製の小道具を体に巻くなどして、一夜を過ごした。避難した児童の中には発泡スチロールで作った魚を抱いて「温かかった」と感想を話した子もいたという。

「本当に命の危険が迫るような災害を乗り越えても続く困難というのがあって、そのうちの寒さというのは生き延びるためには大敵」                         (震災当時中浜小学校校長 井上剛さん)

冬の災害 「低体温症」のリスク

政府は2021年12月、日本海溝と千島海溝沿いの巨大地震による被害想定に「低体温症」を追加。「冬の深夜」に発生した場合、日本海溝型で最大およそ4万2千人が低体温症による死亡リスクにさらされるとの試算を公表した。

東北大学災害科学国際研究所・門廻充侍客員研究員
東北大学災害科学国際研究所・門廻充侍客員研究員

低体温症のリスクを研究している東北大学災害科学国際研究所の門廻充侍客員研究員(取材時は助教)によると、東日本大震災では溺死に限らずさまざまな亡くなり方をした人が報告されていて、そのうち低体温症の事例も当時報道されていたという。

東日本大震災でも死因の一つに

門廻客員研究員の研究グループでは宮城県警から提供された9527人の震災の犠牲者の情報をもとに、亡くなるまでの過程や死因などを研究していて、それによると最も多い死因は溺死で8208人、低体温症による死亡は全体の0.25パーセントにあたる23人だった。だが、ここで数字が低いからリスクは小さいと思ってはいけないという。

「一瞬、23人と聞くとリスク小さいじゃん、大丈夫なんじゃないかと思ってしまうかもしれないんですけど、実は数字として出ていないだけで低体温症のリスクにさらされていた方はもっとたくさんいる」
(東北大学災害科学国際研究所・門廻充侍客員研究員)

門廻客員研究員は、医療関係者の尽力によって「23人に抑えられた」と考えている。また、研究によって、23人のうち最大3人が避難した先で命を落とした可能性があることもわかっていて、避難した先での行動が重要になってくる。

「避難先でどういう風に低体温症を踏まえた対策を取るのかというのが東日本大震災の事例からも重要性が示唆されている。想像しているより、みなさんがパッと直感的に思うよりも低体温症のリスクは大きいと思う」
(東北大学災害科学国際研究所・門廻充侍客員研究員)

正しい知識と普段からの「備え」

冬の避難対策に詳しい日本赤十字北海道看護大学の根本昌宏教授は、災害発生時だけでなく、普段の備えから工夫が必要だと指摘する。根本教授が挙げた大事な工夫は2つ。

①避難リュックは必ず防水性を持ったものにするか、避難リュックの中身を大きなビニール袋の中に全部入れ、固く縛って中の着替えとかタオルが濡れないようにすること。これが冬用の低体温症対策になる。
②熱を生み出すカロリー源として、極寒の中でも食べやすいようかんやチョコレートも避難時に持ち出すリュックに入れておく。

一方で、急激な温度変化などは症状を悪化させる可能性があるとして、間違った対応をしないよう理解を深めてほしいと根本教授は話す。

日本赤十字北海道看護大学・根本昌宏教授
日本赤十字北海道看護大学・根本昌宏教授

「例えばシャワーとかお風呂で温めちゃダメ。これは低体温症治療の基本。それによって中等症とか重症化することがあって命を落とすことがある。なので温めればいいと素人の方は考えてしまうが、それをちゃんと訓練して練習する、どこかで講習を受けるということをしていただきたい」
(日本赤十字北海道看護大学・根本昌宏教授)

 元日に能登半島で発生した大地震では、厳しい寒さの中多くの人が避難所生活を強いられている。いつ発生するかわからない自然災害から命を守るために、ハザードマップや避難経路の確認に加えて、避難後を見越した備えも重要になってくる。

(仙台放送)

仙台放送
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