岸田首相の2024年が幕を開けた。

年末には派閥の政治資金パーティーを巡り、松野前官房長官や、萩生田前政調会長、高木前国対委員長、世耕前参院幹事長ら、政権・自民党幹部らが東京地検特捜部から事情聴取を受けるなど、政権・自民党に激震が走った事態の決着を持ち越したままでの年明けとなった。

肝いりの経済対策が不評を買い、政権発足以来最低の支持率にあえぐ中、裏金事件が追い打ちをかける形で、どん底の2023年末から岸田首相は新年に何を目指すのか。

岸田首相
岸田首相
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年頭所感は「明けましておめでとうございます、内閣総理大臣の岸田文雄です」と晴れやかな年始の挨拶で始まった。

続いて「本年の干支は『甲辰(きのえたつ)』です。十干の始まりである『甲』と、力強く天に昇る『辰』が合わさる年となります。字のごとく、新たな気持ちで山積する課題に立ち向かい、内外の様々な分野で、日本を力強く発展させていく年にしたいと思います」と抱負を示した。

「一丁目一番地」と最重視の経済 「物価上昇を上回る賃上げを必ず達成」

所感で真っ先に触れたのは経済について。

「今年は、日本経済を覆っていたデフレ心理とコストカットの縮み志向から完全に脱却する年にしたいと思います。まずは足下の物価高から国民生活を守り、『物価上昇を上回る賃上げ』を必ず達成しなければなりません。経済界には、今年の春闘で『昨年を上回る賃上げ』をお願いし、賃上げ促進税制を中小企業にも使いやすい形で強化します。そして、賃上げとの相乗効果を狙い、所得税・住民税の定額減税も6月に実施します。」と掲げた。

2024年の「一丁目一番地」は
2024年の「一丁目一番地」は

所得税・住民税の4万円の定額減税、非課税世帯への7万円の給付、これらは2023年末に決定した経済対策の柱のメニューだ。この弾込めした政策が的を射貫くことに、全身全霊を傾ける、岸田首相の意欲を年頭に示した内容となっている。

政策目標でもある「的」について岸田首相は、実感を伴う所得の向上を強調している。

「官民が連携して『賃金があがり、可処分所得が増えるというのは、こういうことなんだ』という『実感』を皆さんに持っていただく必要があります。一人一人の『実感』が積み重なって初めて、社会全体の『マインド』を変えていきます。物価上昇を乗り越える賃上げ、グリーンやデジタルの攻めの設備投資、会社の枠を超えた労働移動、企業の活発な新陳代謝。人・モノ・金がしっかりと動き出し、熱量の高い新しい経済ステージに向けて政策を総動員します。」

「緊迫の一年」ウクライナ、イスラエル・パレスチナ情勢、米国大統領選

内憂を抱える岸田政権だが、世界情勢の動きは待ったなしだ。歴代最長の外務大臣経験を持つ岸田首相は、2024年のポイントとして外交舞台での日本のリーダーシップの発揮と、安全保障上の日本の守りを次のように訴えた。

イスラエル軍の攻撃により廃墟と化すガザ地区(パレスチナ)
イスラエル軍の攻撃により廃墟と化すガザ地区(パレスチナ)

「外交においては、本年は『緊迫の一年』となります。ウクライナ侵略、イスラエル・パレスチナ情勢など国際情勢は予断を許しません。また、今年は、米国大統領選はじめ、アジア、欧州などでも重要な国際選挙が行われる年でもあります。外交力を駆使して難局を乗り越え、日本ならではのリーダーシップを発揮していくことが求められており、本年も首脳外交を積極的に展開していく覚悟です。また、ロシア・北朝鮮の連携など複雑化する東アジアの安全保障環境の中にあっても、国民の安全、我が国の領土・領海・領空を断固として守り抜きます。」

2024年は岸田首相が言及するとおり、日本に密接に関わる国や地域でリーダーを選ぶ選挙が行われる。まず1月には、台湾総統選挙、2月にはインドネシア大統領選挙、3月にはロシアの大統領選挙が控えている。プーチン大統領は「我々の目標が達成されたときに平和が訪れる」と2023年末の会見で述べていて、ウクライナ侵攻を続ける構えだ。

返り咲き狙うトランプ氏
返り咲き狙うトランプ氏

その中でも日本にとって最も大きな影響を持つのが11月に予定されるアメリカ大統領選挙だ。「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」とアメリカ第一主義を掲げるトランプ前大統領が立候補の構えを示す中、日米関係をどう構築していくか、岸田首相にとっては外交の舵取りが重要な一年になる。

派閥の政治資金疑惑 自民党総裁として信頼回復への困難な道のり

経済・外交と2024年の課題について述べた岸田首相だが、喫緊の最大の難題は、派閥パーティー資金の裏金問題への対応だ。年頭所感では、短くワンフレーズでの言及となった。越年した検察当局の捜査がどこまで広がるか見極められないなか、自民党や派閥改革の具体策が定まらないことをうかがわせる一言となった。

裏金疑惑が持たれている松野氏、高木氏、世耕氏、萩生田氏
裏金疑惑が持たれている松野氏、高木氏、世耕氏、萩生田氏

「自民党の政策集団の政治資金問題にも、先頭に立って国民の信頼回復に全力を尽くす決意です。」

安倍派幹部らへの任意聴取に続き、年末には、安倍派・池田佳隆衆院議員の議員会館や宿舎に家宅捜索がはいった。岸田首相は、年明け早い時期に党の信頼回復のための組織を立ち上げるとしているが、所感で言及した「信頼回復に全力を尽くす決意」の具体化は、岸田政権の存続にも関わる直近の課題となる。

締めくくり「明日は今日より良くなる、と信じられる時代の実現」

逆風の中での出発となる2024年、岸田首相は「変化を力に」と国会で繰り返す“岸田フレーズ”でしめくくった。明日は今日より良くなると信じられる時代の実現を掲げた岸田首相にとって、最低支持率の更新が続く中、秋の総裁選と政権運営の先行きが見通せない2024年の幕開けを迎えている。

前回の自民党総裁選(2021年)
前回の自民党総裁選(2021年)

「今まさに、我が国は大きな変化の時代を迎えています。しかし振り返れば、明治維新、戦後復興、高度成長期など、日本は大きな変化の時代に、その流れをつかみ、『変化を力』にしてきました。令和の時代にもう一度、経済でも、社会でも、外交関係でも、『変化を力に』して、『明日は今日より良くなる』と国民の皆様が信じられる時代を実現します。」

「国民の皆様の一層の御理解、御協力をお願いするとともに、本年が皆様方にとって良き年となりますよう、御健勝と御多幸を心よりお祈り申し上げます。 内閣総理大臣 岸田文雄」

(フジテレビ政治部)

【年頭所感全文】
明けましておめでとうございます。内閣総理大臣の岸田文雄です。

本年の干支は「甲辰(きのえたつ)」です。十干の始まりである「甲」と、力強く天に昇る「辰」が合わさる年となります。字のごとく、新たな気持ちで山積する課題に立ち向かい、内外の様々な分野で、日本を力強く発展させていく年にしたいと思います。

経済では、賃上げ、設備投資、株価などいずれも『30年ぶり』の高い水準となりました。バブル崩壊から30年がたちますが、今年は、日本経済を覆っていたデフレ心理とコストカットの縮み志向から完全に脱却する年にしたいと思います。まずは足下の物価高から国民生活を守り、『物価上昇を上回る賃上げ』を必ず達成しなければなりません。経済界には、今年の春闘で『昨年を上回る賃上げ』をお願いし、賃上げ促進税制を中小企業にも使いやすい形で強化します。そして、賃上げとの相乗効果を狙い、所得税・住民税の定額減税も6月に実施します。

官民が連携して「賃金があがり、可処分所得が増えるというのは、こういうことなんだ」という「実感」を皆さんに持っていただく必要があります。一人一人の「実感」が積み重なって初めて、社会全体の「マインド」を変えていきます。物価上昇を乗り越える賃上げ、グリーンやデジタルの攻めの設備投資、会社の枠を超えた労働移動、企業の活発な新陳代謝。人・モノ・金がしっかりと動き出し、熱量の高い新しい経済ステージに向けて政策を総動員します。

外交においては、本年は「緊迫の一年「となります。ウクライナ侵略、イスラエル・パレスチナ情勢など国際情勢は予断を許しません。また、今年は、米国大統領選はじめ、アジア、欧州などでも重要な国際選挙が行われる年でもあります。外交力を駆使して難局を乗り越え、日本ならではのリーダーシップを発揮していくことが求められており、本年も首脳外交を積極的に展開していく覚悟です。また、ロシア・北朝鮮の連携など複雑化する東アジアの安全保障環境の中にあっても、国民の安全、我が国の領土・領海・領空を断固として守り抜きます。

他にも、人口減少社会への対応、憲法改正など重要課題が山積しています。政策の推進に当たっては、政治の安定が必要です。自民党の政策集団の政治資金問題にも、先頭に立って国民の信頼回復に全力を尽くす決意です。

今まさに、我が国は大きな変化の時代を迎えています。しかし振り返れば、明治維新、戦後復興、高度成長期など、日本は大きな変化の時代に、その流れをつかみ、『変化を力』にしてきました。令和の時代にもう一度、経済でも、社会でも、外交関係でも、『変化を力に』して、『明日は今日より良くなる』と国民の皆様が信じられる時代を実現します。

国民の皆様の一層の御理解、御協力をお願いするとともに、本年が皆様方にとって良き年となりますよう、御健勝と御多幸を心よりお祈り申し上げます。 内閣総理大臣 岸田文雄

フジテレビ
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政治部
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