2023年は、新型コロナウイルスの猛威も一段落し、皇室の皆様方は活動を増やし、お忙しい一年になられました。
私たちの取材の中で、皇室の方々の考え方を知る手段の一つに「おことば」がありますが、コロナ禍が一段落したことで、この「おことば」を伺う機会も増えました。「おことば」の中には、みなさまのお考えがたくさん詰まっています。
僭越ながら、その中で、どのようなお考えがあったのか、いくつか振り返ってみたいと思います。
皇后さま「努力を重ねながら、この先の人生を」
これは、正確には「おことば」とは言えないかもしれませんが、12月9日の皇后さまのお誕生日に際しての文書に記された言葉で、強い感銘を受けたため、ここに挙げました。
この記事の画像(17枚)令和5年 皇后陛下お誕生日に際しての御感想 より
「今回、還暦という節目の誕生日を迎えることに信じられないような気持ちがいたしますが、(中略)これからまた新たな気持ちで一歩を踏み出し、努力を重ねながら、この先の人生を歩んでいくことができればと思っております」
とても前向きなお言葉で、未来を見つめる皇后さまのお気持ちがよく現れていました。
実は、このお言葉とは別に、文書の中に私が気になった「お言葉」がありました。
令和5年 皇后陛下お誕生日に際しての御感想 より
「ちょうど10年前の今日、50歳の誕生日を迎えるに当たり、それまで半世紀を生きてきたことを思い、『不思議な感慨に包まれます』と感想を綴(つづ)りましてから、いつの間にか10年の月日が経(た)ちました。
光陰矢の如(ごと)しと申しますが、この10年はあっという間に過ぎたようでもありながら、以前には予期していなかったような様々な出来事や社会の変化のあった10年でもあったように感じます」
単純に、なぜこの10年を感慨深く思われているのか、不思議に思ったのです。確かに、50歳半世紀という節目のお年ではありました。しかし、考えてみると、10年前の2013年は、皇后さまにとっても大きな年でらしたことに気がつきました。
皇后さまの10年
10年前の4月、両陛下はウィレム・アレクサンダー国王の戴冠式のためオランダを訪問されたのでした。
お二人でのご訪問がなかなか決まりませんでしたが、戴冠式の2週間前にご訪問が決定しました。そして、4月28日に羽田空港を出発されました。皇后さまにとっては11年ぶりの外国ご訪問でした。
その後、2015年7月にはトンガを国王戴冠式のため、トンガをご訪問。これらのご訪問は、皇后さまのご体調回復に大きな一歩となりました。この年から、徐々にご活動も増えていかれるのです。
外国ご訪問だけではありません。2013年10月、小学6年生の長女の愛子さまは、学習院初等科最後の運動会にご参加。その姿に皇后さまは涙されていました。
つまりこの十年、活動の幅を広げながら、ご家族の支えもあり、自信を深められていったのです。
こうしたこともあり、『光陰矢の如し』と時の流れが早かったと感じられ、今後の十年に目を向けられたのではないかと思っています。
さらに体調を整え、お出ましを工夫しながら、次の十年のご活動を楽しみにさせていただきたく感じました。きっと、次の十年もあっという間であろうと想像しています。
紀子さま「やさしい日本語」
6月10日、秋篠宮妃紀子さまは「日本結核・非結核性抗酸菌症学会創立100周年」の記念として壇上から「やさしい日本語」をテーマに講演されました。聞いていた私にも大変勉強になりました。
この「やさしい日本語」は、日本に滞在や定住している外国人が、英語圏とは限らないことから、わかりやすい日本語を使った方がコミュニケーションが取りやすい、というお話しでした。
紀子さまの講演「やさしい日本語」について
「日本看護協会の雑誌『看護』で『やさしい日本語』の特集を見つけました。外国人患者に伝わる『やさしい日本語』は、高齢者、障害者にわかりやすいという特集でした。この特集では、日本で暮らす外国人で、日常会話に困らない程度の日本語ができる人でも、病院で医療者が使う日本語が難しく、困っていること、医療の制度や文化が母国と異なるために、日本の病院で戸惑う人がいることなどが紹介されていました。そして、医療者がやさしい日本語を使い、日本語が母語でない外国人も医療を受けやすくなることを薦めていました」
講演を聴きに来ていた人の多くが、医療関係者ということもあり、紀子さまは、病院でのやりとりについて触れられています。
紀子さまの講演「やさしい日本語」について
「『あなたは毎日薬をのんでいますか?』。『普段』や『内服』は難しい単語です。もっと日常的な言葉、『毎日』、『飲んで』、と言い換えます。また『お薬』ではなく、『薬』といいます。あなたは、と主語がはっきり言うことが大切です。」
こうした「やさしい日本語」は私たちマスコミの人間たちのも大切なことだと感じられました。
「やさしい日本語」でニュース原稿を書くことにより、ある程度日本語がわかる外国人にも、内容が伝わりやすくなります。特に、地震などの災害報道では、外国人にも伝える必要があり、その際には「やさしい日本語」がその手段となっていくのだということを学びました。
そして紀子さまは講演の最後で次のように述べられています。
紀子さまの講演「やさしい日本語」について
「安心できる雰囲気、優しい眼差しで相手を見ること。明瞭にゆっくりと話し、相手の返答を待つこと。本人の表情を見て、確認し意図をくみ取ること。回答しやすい質問の仕方や選択肢を用意することなどです。
また初めに、自分の名前と立場を相手にきちんと伝えることも安心感に繋がるそうです。
このお話を聞いて、私も、耳の聞こえない人、聞こえにくい人と手話を使ってお話しする時に、目を合わせ、豊かな表情でコミュニケーションを取ることが、とても大切であることを改めて感じました。
相手を理解したい、伝えたいという思いが、やさしい日本語を作ります。みなさまのやさしい日本語への取り組みが、よりよいコミュニケーションに繋がっていくことを心から願っています。」
ハンディキャップのある人とのコミュニケーションに、「やさしい日本語」が役に立つこと、そして、そのためには相手にどのような気持ちで対応するのか・・・いろいろなことを教えていただきました。
高円宮妃久子さま「英語はあくまでツール」
11月24日 高円宮妃久子さまは、JNSA・日本学生協会基金が主催する高円宮杯第75回全日本中学校英語弁論大会での記念レセプションでおことばを述べられました。
このスピーチコンテストは、1949年に戦後の青少年には英語教育が必要との考えから始まったもので、第1回大会には高松宮さまが名誉総裁として出席されています。
1999年からは高円宮さまを迎え、「高円宮杯」をいただくようになり、現在は久子さまが名誉総裁を務められています。
記念レセプションは、入賞者だけでなく、大会に臨んだ中学生150人余りが出席し、久子さまは、英語と日本語を使い「おことば」を述べられました。その中で、英語はツールである、と述べられています。
久子さま全日本中学校英語弁論大会での記念レセプションでのおことば:
「英語はあくまでもコミュニケーションのツールであって、そのツールを皆様は取得された、または、したい、もっと上手になりたいと思っておられる方たちばかりだと思います。そのツールを手に入れることはとても大事なのですが、そのときに話す内容がもっと大事です。発音よりもっと大事。話す内容。そのためには知的好奇心を持ち続け、日本についてもちゃんと学び、直接いろいろ自分が考えたことを自分の言葉で誰かに話せる、そのツールだというふうに考えていただきたい」
久子さまは、イギリスのケンブリッジ大学で考古学などを学ばれています。
卒業後は、翻訳会社に勤めましたが、法律を学ぶために再度イギリスに渡られています。語学が、ツールであるというお考えを強くお持ちなのもよくわかります。
参加した中学生のスピーチのテーマが、ジェンダーや障害にとどまらず、人種や国籍、民族に及んでいたことに触れて、久子さまは次のようにも述べられています。
久子さま全日本中学校英語弁論大会での記念レセプションでのおことば:
人類という一つの種は、同じに持っているもの、共通で持っているものの方が、違っているものより遙かに多い、ということを絶対に忘れないでいただきたい。それは皆さんをカバーしている元がそれだと思います。その違うことの方が少ない、共通に持っているものの方が多いというのが、世界平和につながるものであり、それを皆様心に強く持った状態で大人になっていっていただければと思います。
中学生に向けての「お言葉」でしたが、「高円宮記念日韓交流基金」「いけばなインターナショナル」など国際交流の集まりを支えてこられた久子さまから、国境を超えた人と人との友好関係がどういうことか、私にも教えていただいた気がします。
陛下は家族への愛 秋篠宮さまは「かなりぐずぐず」率直なおことば
このほかにも、皇室の皆さまは、たくさんの思いのこもった「おことば」を述べられています。
天皇誕生日に当たっての会見で、天皇陛下は皇后さまに「雅子が29歳半の時に結婚してから、その人生の半分以上を私と一緒に皇室で過ごしてくれていることに、心から感謝するとともに、深い感慨を覚えます」、長女・愛子さまには「いつも楽しい話題で家庭の雰囲気を和ませてくれ、私たちの生活を和やかで楽しいものにしてくれています」と述べられました。陛下がいかに家庭を大切にされているのか、お気持ちを知ることができました。
秋篠宮さまは、誕生日に際しての会見での、「かなりぐずぐずしていた」という率直な「おことば」が注目されました。
佳子さまは10月22日に「ガールズメッセ2023」で、「ジェンダー平等」を願い、「おことば」を述べられています。
寛仁親王妃信子さまは、9月16日「FAWAアジア連盟国際会議」、アジア地域の女性の相互理解と連帯のための国際会議で、英語でスピーチをされています。
三笠宮家の彬子さまは、12月7日トルコ建国100周年の記念レセプションでは、日本との友好関係や歴史について「おことば」を述べ、トルコへの造詣の深さを伺わせていただいています。
三笠宮家の瑶子さまは、9月16日に「インクルーシブデザインアイデアソン2023」という障害者とともに、学生や若手デザイナーなどがアイデアを題し合い商品を考える会合に出席し、若い人たちに正面から意見を述べられていました。
ほかの皇族の皆様からも「お声」を聞く機会はありましたが、 このように、皆様方は、言葉に乗せ、考えを私たちに伝えてくださっています。
どんな時にも、皆様は心を込め、真剣に「おことば」を発せられています。「おことば」に優劣はありません。そんな「おことば」に、私も真摯に耳を傾け、お話を聞けることに感謝しながら、皆様のお考えを理解するよう努力していきたいと思っています。そして、学ばせていただきたいと思っています。
2024年、皆様のどんな「声」をうかがえるか、楽しみです。
【執筆 フジテレビ皇室担当解説委員 橋本寿史】