静岡県が実施した調査で、「薬剤師が不足している」と回答した病院は33.8%に上った。実は今、全国的に病院で働く薬剤師が足りないと言われている。“忙しさ”という問題だけでなく、“給与”という現実的な課題も背景にあるようだ。

薬剤師不足に悩む病院 内定者ゼロも…

静岡県藤枝市にある市立総合病院では、近年、薬剤師不足に頭を悩ませている。

藤枝市立総合病院
藤枝市立総合病院
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常勤の薬剤師は30人弱いるものの、事業管理者の毛利博 氏は「かなり業務的に厳しいものがある」とため息をつく。

とはいえ、決して手をこまねいているわけではない。大学生の実習を毎年受け入れているほか、薬剤師の仕事を知ってもらおうと高校生以下を対象とした職場体験会も実施している。

それでも人が集まらない。毎年3人程度の採用募集は定員に達しないケースも珍しくなく、2022年の内定者は2人、2021年に至ってはゼロだった。

2023年も新卒職員はわずか1人。この病院で薬剤師として働く緒方有希さんは「まだ欠員がある状態なので、もう1人~2人欲しいというのが現状」と本音をこぼす。

藤枝市立総合病院 薬剤師・緒方有希さん
藤枝市立総合病院 薬剤師・緒方有希さん

病院勤務の薬剤師の場合、医師や看護師などと同様に夜勤があるため体力的に負担がかかる上、最近では医師の負担軽減のため業務の一部を担うこともあり、その度合いは増している。

ただ、緒方さんは「医師や看護師、その他のコ・メディカル(医療従事者)と直接会って話をする機会がとても多く、対等な立場で話すこともできるし医療の中心に自分が入っていけるというのは大きな魅力」と、やりがいを強調する。

薬学部生に進路希望を聞いてみると…

静岡県内で唯一 薬学部がある静岡県立大学で、4年生に現在の進路希望を聞いてみると「医師や看護師などとチーム医療で治療できるのがいいところ」と病院への就職を目指す学生がいた一方、「より地域の人と密接に接することができると思うから」と薬局への就職を希望する学生や「病院は忙しそうで、夜勤など自分の時間が取りづらい」と製薬会社を志望する学生も多く見られた。

静岡県立大 薬学部の学生
静岡県立大 薬学部の学生

労働環境ではなく待遇面が要因?

現にこの大学ではここ数年、病院よりも薬局やドラッグストアに就職する学生の方が多い傾向にあるという。大きな理由の1つが“待遇面”だ。

薬学部の賀川義之 教授は「初任給で考えた場合、薬局の薬剤師またはドラッグストアの薬剤師になった場合は病院の薬剤師と比べて年収で100万円以上の差がつくこともある。学生時代に奨学金を貸与されて勉学している学生にとって、その100万円の差というのはかなり大きいのではないか」と推察する。

静岡県立大 薬学部・賀川義之 教授
静岡県立大 薬学部・賀川義之 教授

この状況に、静岡県は病院の採用活動を支援するため、2024年2月に県内52の病院が参加する合同就職説明会を初めて実施する予定で、県薬事課 薬事企画班の中村孝寛 班長は「病院がどういうところか知らない学生も多いと思うし、県内の病院がどれだけの採用をしているかというのもわかりにくいという意見も耳にしている」と、その狙いを話す。

行政と連携した人材確保に向けた取り組みが課題解決の糸口となり得るのか注目される一方、学生たちが“待遇面”に重きを置いているという現実がある以上、問題はそう簡単なものではないのかもしれない。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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