入院の身元保証や死後の手続きをサポートしてくれる終活支援サービスの利用者が増えている。契約した高齢者は、「死んで1週間も誰も気づかず放置されたままというのが一番怖かった」と、契約した理由を打ち明けた。ただトラブルも目立っていて、静岡市は優良事業者を認証する制度を始める。全国の自治体で初めてだ。

入院の身元保証や葬送…終活支援

末松伊和男さん(92)
末松伊和男さん(92)
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静岡市清水区に住む末松伊和男さん(92)。
子供がいない末松さんは2005年に妻を亡くしてから18年間1人暮らしで、近くに身寄りはない。末松さんは「死ぬのは構わないが、死んで1週間も10日間も誰も気づかず放置されたままというのが一番怖かった」と打ち明ける。
末松さんは自身の終活を考え、2019年に認定NPO法人「きずなの会」に入会した。

きずなの会 静岡事務所
きずなの会 静岡事務所

「きずなの会」は、入院などの身元保証や葬儀、相続の手続きなど高齢者の支援を行っていて、全国16カ所に事務所がある。静岡事務所の会員は2023年12月時点で200人以上にのぼっている。

総務省が「身元保証等高齢者サポート事業」とよぶ終活支援事業は、身元保証サービス・日常生活支援サービス・死後事務サービスの3種類に区分される。
身元保証サービスは、病院や福祉施設への入院・入所の際の債務保証や手続き代理、緊急時の連絡対応、身柄の引き取りなどだ。
日常生活支援サービスは、買い物支援や通院付き添い、不動産などの財産の管理等だ。
そして死後事務サービスは遺体の確認や関係者への連絡、死亡届の申請代行、火葬手続き、葬儀、納骨、遺品の処分などだ。

きずなの会のパンフレット
きずなの会のパンフレット

きずなの会 静岡事務所の石川真奈美所長は「10~15年前と全然違う。自分の老後に備えて動き出している方が多い」と、自分たちの事業に対する需要の高まりを感じている。

高齢者の1人暮らしが15年前の2倍

背景にあるのが高齢化だ。静岡県内でも、65歳以上の高齢者は急増している。2023年は約110万人で、県民全体の約3割を占める。

子供と離れて暮らすなど家族の形も変化し、高齢者の1人暮らしの世帯数は2020年 約16万世帯で、15年前と比べ2倍となっている。
入院や施設の入所に必要な身元保証や、夜間に救急搬送された際の緊急連絡先として、こうした事業者の支援を受ける人が増えている。

末松伊和男さん:
あらゆる死んだ時の手続きの一覧表を書いて、きずなの会に出している。手続きしてくれるように。全部死んだ後にやってくれるから、そういった面では憂いはないと思う

気になる費用は?

きずなの会に入会した女性(82)
きずなの会に入会した女性(82)

同じように「きずなの会」に入会している82歳の女性にも話を聞いた。
8年前に夫が亡くなった際、夫の介護施設のケアマネージャーのすすめで終活支援事業を知った。女性は「ケアマネージャーがすごく親身になってくれて、いろんなところで(終活の)本を調べたりして支援事業のことを教えてくれた」と話す。
しかし、最初は終活への知識がなく、少なくない預託金を事業者に預けることに不安があったという。ただ何かあった時に相談できることの安心感から入会を決めた。

きずなの会のパンフレット
きずなの会のパンフレット

「きずなの会」の場合、費用は入会費や契約手数料などの基本料金が64.2万円で、それに加え、身元保証支援19.8万円、生活支援33万円、葬送支援73万円などのサービスを希望により申し込む。すべてのサービスを契約すると総額は190万円だ。

契約めぐるトラブルも

こうした終活支援事業をめぐって、ここ数年問題となっているのが契約をめぐるトラブルだ。
総務省が2023年8月に公表した調査結果によると、契約に関する重要事項の説明書を作っている事業者は全体の2割程度にとどまっている。

「勧められるままサービスを追加し高額な契約になった」などの相談が多く、特に身寄りのない高齢者が狙われやすいということだ。
また総務省の調査では預託金を法人の代表理事の個人名義の口座で管理する例や、契約書に解約条項がない例なども確認された。
終活支援事業を直接 規律・監督する法令や制度はいまのところない。

優良事業者に“お墨付き”を

静岡市は事業者への監督が不十分な体制を問題視し、終活を支援する事業者の認証事業に乗り出した。全国の自治体で初の取り組みだ。

静岡市 地域包括ケア 誰もが活躍推進本部・酒井真次長:
終活は専門的な知識を持った事業者を利用することが有効だが、「信頼できる具体的な事業者を紹介してほしい」といった声も寄せられたので、今回このような事業を始めた

静岡市は2023年7月に委員会を立ち上げ、認証の条件について検討している。
優良事業者の認証基準に、「高齢者がひとりで契約を締結しないように、契約の際には必ず第三者が立ち会うこと」を必須の条件として、トラブル防止を図る。
このほか、審査項目には事業者の健全性や、預託金の管理が適切かなどが盛り込まれる予定だ。

きずなの会 静岡事務所の石川真奈美所長は「“確かな事業者”と認証してもらえれば、今の会員もより安心だし、これから入ろうとしてくれる方も安心して入っていただける。市が“大丈夫”とお墨付きをくれることはありがたい」と、市の認証事業を歓迎する。

静岡市は12月中旬から事業者を募集し、2024年2月ごろから認証を始める予定だ。
終活支援事業を利用する高齢者は、困った時に相談できる相手は身近にいない人が多いだろう。それだけに、トラブルにあわないような仕組みづくりが、行政に求められる。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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