東京地検特捜部は、安倍派と二階派それぞれの事務所の家宅捜索に乗り出した。捜査の理由やポイントなど、家宅捜索に関する気になる疑問を元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士に聞いた。

■今回は派閥事務所への家宅捜索

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派閥の事務所への家宅捜索というのは、具体的に何をするのか?

元東京地検特捜部検事 郷原信郎弁護士:
事務所の中にある、書類、あるいは電子データの入ったパソコンなどの、事件に関連するものを幅広く収取するというのが捜索・差し押さえの目的ですね。事件に関連する証拠物というのは、ちょっと見ただけでは、関連するかどうか分からないものも多いので、幅広く収集することになるのが普通です。

きょう1日で捜査は終了するのか?

元東京地検特捜部検事 郷原信郎弁護士:
通常の広さの事務所であれば1日あれば十分操作が終わると思います

この裏金疑惑が浮上してから、かなり時間が経過しているが、19日の家宅捜索までに証拠を隠滅する恐れはなかったのか?

元東京地検特捜部検事 郷原信郎弁護士:
捜査が始まれば、常に証拠隠滅の恐れというのはあるわけです。今回はもう裏金問題、キックバック問題が表面化してから何週間にもなりますから、証拠隠滅をしようと思えば、それまでにもやることは可能だった状態で、この数日間に証拠隠滅が行われた可能性はないとはいえないけども、おそらく検察は検察として、それに向けての必要な検討や内部手続きをやった上で、19日の強制捜査に至ったと思います

今後は派閥の所属議員事務所への捜索もあり得るのか?

元東京地検特捜部検事 郷原信郎弁護士:
所属議員の事務所の捜査をするとすれば、その議員の刑事立件の可能性が相当程度、出てきたということになると思います。しかしこの裏金を受領した議員の刑事立件は、実はちょっといろいろな問題点があって、必ずしも容易ではありません。一番大きな問題は国会議員が政党支部資金管理団体、その他の団体でたくさんの財布を持っています。裏金というのは全く、政治資金規正法の処理をしないことを前提に受け取っていますから、どこで処理すべきだったのか、どこの収支報告書に書くべきだったのかというのがなかなか特定できないということで難しいと思います

■違法性を認めても受け取った議員の立件は難しい

今回の政治資金パーティーをめぐる裏金疑惑について、改めてお金の動きを説明する。 安倍派は、個人や企業などから得た政治資金パーティーのパーティー券の代金について、ノルマを超えて集めた分の資金は、議員側にキックバックしていた。しかし、このキックバックしていたお金を収支報告書に記載していなかったことがわかり、裏金になっていたのではないかという疑惑がもたれている。

安倍派の議員は、「派閥から政策活動費と言われて受け取ったが、収支報告書に記載しなければいけないと気付いていた」と話した。 本来、政策活動費は政党から受け取るものだが、違法性があると認識していたともとれるこの議員の発言で立件しやすくはなるのか?

元東京地検特捜部検事 郷原信郎弁護士:
違法性の認識を認めているという話ではあると思いますが、問題は収支報告書に記載しないという部分。政策活動費として受け取り、収支報告書に記載しなくていいお金として受け取ったということは、裏金としてどの収支報告書にも記載しなくていいと考えたということです。そうすると先ほど言った、どの収支報告書の不記載・虚偽記入になるのかという問題点はこの供述ではクリアされません。違法だという認識を持っていたというだけでは、裏金を受領した側の議員の立件が容易になったとは言えないです

■事務総長クラスの議員の責任は問われない?

今後の捜査の行方やポイントだ。 安倍派の会長だった安倍氏・細田氏ともに亡くなっているが、歴代の事務総長は、現在も現役の議員だ。事務総長は立件の対象に含まれてくるのか?

元東京地検特捜部検事 郷原信郎弁護士:
ずいぶん前から続いてきた、慣行的に行われてきたものだとも言われていますので、そうなると会計責任者のところでは、幹部から了承されて毎年同じようにやっていたということになります。それを今まで通り続けるかどうかということの意思決定は、おそらく会長がやっていたんじゃないかと思います。そうすると会長と会計責任者の共謀というところであれば、しかも会長が自主的に意思決定していたということであれば、その会長が存命であれば刑事責任を取れたと思いますが、いま2人ともお亡くなりになっています。そうなると、その中間に位置する事務総長クラスが報告を受けていたとしても、一体どこまで具体的に意思決定に関わっていたのか、ここのハードルを越えるのは決して容易ではないと思います

事務総長クラスの議員の捜査というのは可能性としてあるのか?

元東京地検特捜部検事 郷原信郎弁護士:
やはりその事務所に捜索に入るということは、刑事立件、そして起訴できる見通しが、ある程度着いたという段階だと思います。現時点ではそこまで見通しが付いてないから、同時に捜索が行われていないということだと思います

疑惑があるから調べるということはできないのか?

元東京地検特捜部検事 郷原信郎弁護士:
疑惑があれば証拠収集する必要がありますが、結局やってみないとわからないような、まだ不確定な部分があると、やはり政治的に非常に大きな影響を生じますので、検察側がある程度、慎重に考えるということになるのが普通ですね

■裏金の使い方によっては立件もあり得る

また、裏金は何に使われたか?というのも、立件できるかどうかを左右するポイントになるのか?

元東京地検特捜部検事 郷原信郎弁護士:
裏金の使い方によっては、それ自体が犯罪になることもありえます。例えば、選挙の買収に使ったとかだと、別の犯罪になります。ただ今回の一連の捜査の中で、裏金の使い道が具体的に犯罪というところまで立証できるというのは、そんなに多くはないと思います。1つ考えるのは、きょう新聞で報じられていましたけれども、このノルマを超えた分の裏金だけではなくて、参議院選挙の年には、ノルマ分も含めて還流されていたという話が出てきています。そうだとすると、このお金は選挙のために裏金として提供されたと言うことになります。それは公職選挙法上、選挙運動費用収支報告書に収入として記載しないといけなかったとか、別の問題が出てきます。他の法律の関係で。そういったものの中で、何かで立件できるものがあれば、裏金を受領した議員側の犯罪事実として徹底して解明していこうということになる可能性があります

元東京地検特捜部検事 郷原信郎弁護士:
今回の国民の怒りを、もし国民が期待している通りに処罰ができないとすれば、抜本的な政治資金規正法の改正に結びつけることが、絶対必要だと思います。不透明な金の流れが、事実上許容されているような政治資金規正法のもとで政治に対する信頼が回復できるわけないと思います

■特捜部は本気の体制だが、その結果でどこまで処罰できるのかは「よく分からない」

視聴者からこんな質問が届いた。

‐Q:検察の捜査は本気ですか?それとも体裁だけなのか?
元東京地検特捜部検事 郷原信郎弁護士:
捜査態勢もこれまでにない大規模体制だということからしても、本気であることは間違いないと思います。しかし、その事実解明の結果、どこまでの処罰ができるかっていうのは、これまた現時点ではよく分からないと思います

安倍派の会計責任者に関しては立件も検討されているということだが、裏金を受け取った議員と会計責任者に共謀が成立するのかというのがポイントになるということなのか?

元東京地検特捜部検事 郷原信郎弁護士:
共謀の問題もさることながら、そもそもの前提として、政治資金規正法の大穴である、どこに帰属するのかがわからないという事がクリアされないと、そもそも共謀の問題にまでたどり着かないです。そこが大きな問題だと思います。安倍派の場合はそうですし、まだ二階派の場合は、個人が裏金をもらったという事実も出てきていませんし、派閥単位で収支報告書の虚偽記載があり、過少に記載されたということは、どこかにお金が行ってしまったという話ですから、それが事務局のあたりで使い込みをした人でもいるのか、あるいは派閥の裏金に回っていたのか、まだこれから解明されると思います。

本格化した裏金疑惑の捜査だが、徹底した捜査と再発防止が望まれるのではないか。

(関西テレビ「newsランナー」 2023年12月19日放送)

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