政権を揺るがす政治資金パーティー問題。すでに安倍派に所属する4人の閣僚が、事実上更迭されるという前代未聞の事態に発展した。そんな中、宮城県選出の自民党国会議員の秘書を務めた男性が電話取材に応じた。「政治の中に悪しき風習が残っている」元秘書の男性の口から語られたのは、派閥という組織の特異性と、政治の世界に残るグレーゾーンの存在だった。
この記事の画像(14枚)政治資金パーティーとは?
政治資金パーティーとは、政治家が政治資金を集める目的で開催する集会だ。パーティー券を買うことで参加でき、自民党の派閥のパーティー券は1枚2万円程度が相場とされている。
政党のほか議員個人でも開催することが出来るが、今回問題となっているのは、自民党の「派閥」ごとに行われていた政治資金パーティー。「派閥」とは政策方針や志などが近い議員で構成されている組織で、自民党には現在6つの派閥が存在している。
この政治資金パーティーを巡り、今回の問題では、複数の派閥で議員に販売枚数のノルマが設定されていたことが明らかに。さらに、最大派閥・安倍派では、ノルマを超えて販売した分が議員側にキックバックされ、政治資金収支報告書にも記載されない「裏金」となったとされている。
なぜ?派閥で資金集める理由
そもそも、政党や議員個人でもない「派閥」という組織が、なぜそこまでして資金を集める必要があるのか。
「派閥の事務所賃貸料やスタッフの人件費など、派閥を維持するためにお金が必要」
こう話したのは、宮城県選出の自民党国会議員の秘書を務めていた男性だ。
派閥は、政党でも政党の支部でもないため、政党交付金は交付されない。さらに、企業献金を受け取ることもできないので、パーティー券を売り捌くことは大きな資金源となっているのだという。男性は、「資金を集めるためにパーティーを開くことはやむを得ない」と話す。
派閥維持だけが理由でない
一方、派閥の維持だけのために大規模なパーティーを開く必要性があるとは思えない。男性が別の理由として挙げたのが「派閥に所属する議員個人が必要な経費」だ。
例えば秘書の雇用について。国会議員は、3人の秘書を公設秘書として雇用でき、その公設秘書に対する給与は国費で支払われる。
しかし、「真面目に議員活動をやっていれば、秘書は3人でも決して足りない」と男性は指摘する。実際、議員は公設秘書に加え、複数人の私設秘書を雇っていることが多い。
議員の個人活動維持のため、「派閥からの支援も必要」という実情があるようだ。
選挙に必要な「金」その内情は…
男性は「2020年の河井克行元法務大臣と妻の河井案里元参議院議員が逮捕された大規模な買収事件を契機に急激に減った」と前置きした上で、派閥から所属する国会議員へ、国会議員から地方議員へといった形で、選挙活動の協力金として金が支払われることは、近年まで多々あったと断言する。
買収がもってのほかであることは疑いようもない。一方で、男性は「金を必要とする理由はほかにもあった」と続ける。一例として挙げたのが、選挙ポスターを貼る際のガソリン代や、有権者へ電話をかける際の通話代だ。
選挙運動に関わる全ての人に報酬を支払うことはできない。しかし、選挙運営に関したガソリン代や駐車場代、通話代などは、選挙運動費用収支報告書等への記載が必要だ。
しかし、これらをボランティアなどにお願いした場合、全体を把握するのが難しく「与野党ともにすべてを記載することは少ないのではないか」と男性は話す。
こうした支出は自前で補填しているケースもあり、それらを補填する意味で、「事前に政党や派閥から党の支部に、支部から地元の団体に活動資金を配ることもあった」とも話した。
「領収書ないお金」悪しき風習
ここで男性に問いかけてみた。
「基本的に還流・キックバックを受けても政治資金収支報告書に記載すれば良かったはず。なぜ裏金にする必要があったのか?」
男性は「今回の問題の内情までは分からない」とした上で、「領収証がいらない、公表しなくていいというのは、小遣い感覚として使える金として有用なのだと思う」と答えた。
本来、政治資金はその収支や使用目的などを報告書に記載し、公開しなければならない。また、その使用目的も一定程度決められている。
その反面、裏金はその名の通り「裏」で使用するため、使用目的を明らかにしなくていいし、領収書も不要というワケだ。
男性は「領収書のいらないお金というものが、政治の中に悪しき風習として残っているのだと思う」とし、「真っ当な政治活動に使うのであれば、使用目的を明らかにしても困ることはない」と指摘した。
監査人なし?派閥の会計
加えて、男性はある重要な問題点を指摘した。
「派閥という組織は、構成員は国会議員だが国会議員団体ではなく、監査人が付かない。パーティー券の販売金額が異なるといった際に、「責任のありか」が明確ではない。それをチェックする機能も法律で定められているわけではないんです」
選挙区支部など、国会議員関係の団体の収支報告書は、弁護士や税理士の監査人が必ずチェックをする必要がある。現金の残高や銀行の残高、全て踏まえて監査するため、監査人がきちんと仕事をすれば、額が合わないことは基本的にあり得ない。
「こうした体制の不備も今回の問題につながった原因の一つなのでは」と男性は指摘する。では、どう改善すればいいのか。
「基本的に国会議員関係の収支報告書は、1万円以上の支出について領収書を添付することが必要。ただ、収入については領収書添付の必要がない。この現状を変えなければいけない」
パーティー券の購入者や金額など全てを公表すれば、裏金を作ることは非常に難しくなる。男性は制度上の不備を改善すべきと訴えた。
男性に対し、取材の最後に「議員に望むこと」を聞いた。
「自らの潔白を強く主張するのであれば、収支報告書に関するもの全てを公開することによって、自分の潔白を少しでも主張できるはず。自らの潔白を証明する活動をすることが、今ここまで国民の怒りが高まっている中では求められているのは明らか」
東京地検特捜部の捜査は本格化している。国民が増税や物価高騰などで苦しむ中、裏で何が行われていたのか。捜査の進展に注目が集まっている。
(仙台放送)