静岡市清水区にある教会の聖堂が年明けから解体されるのを前に、その聖堂で最後のコンサートが開かれた。市民からも親しまれ、文化的にも歴史的にも価値が高いとされる聖堂が、なぜ解体されてしまうのだろうか。
この記事の画像(15枚)日本と西洋の文化の融合
幹線道路沿いにそびえる2つの尖塔(せんとう)。カトリック清水教会の聖堂だ。
ここは徳川頼宣が父・家康のために建てた別荘「御浜御殿」の跡地でもあるのだ。
今から88年前の1935年にフランス人のルシアン・ドラエ神父が設計した聖堂は、西洋のゴシック様式の姿を見せているものの、漆喰で固められた柱や壁の中は木造で、日本と西洋の文化の融合が文化的・歴史的な価値を高めているとされている。
聖堂は、信徒たちの礼拝以外にコンサートなどのイベントにも利用され、地域から親しまれる施設となっていた。
しかし、この美しい聖堂は取り壊しが決まっていて、2024年1月から解体作業に入る。
解体前の最後のイベントに向けて、聖堂の中ではボランティアの人たちによる装飾作業が行われていた。いったいなぜ解体されるのだろうか。
完成から88年経つ聖堂は老朽化が深刻で、教会を管轄する横浜の司教区は、10年ほど前から現在の場所での建て替えを検討してきた。これに対し、建築関係者や市民の有志が、「歴史的な価値がある木造の聖堂を補強して、今の形で保存すべき」と声を上げたのだ。
長い間の議論の末、聖堂は「建て替え」の結論に至った。代わりに、現在の木造の聖堂は保存を求める団体に無償で譲渡され、別の場所に移築されることとなった。
最後のコンサート開演
この日は、聖堂の最後を飾るピアノコンサートに向け、ボランティアの人たちが聖堂内に約1700羽の白い折り鶴を飾った。
ピアノコンサートが開かれた12月8日は、聖堂を設計したドラエ神父の命日でもある。聖堂内は約100人の観客で満席だ。
演奏を披露したのは、静岡市出身でドイツ在住のソロピアニスト柴 郭惠(ひろえ)さん。 「祈り」をテーマに5曲を演奏した。
カトリック清水教会聖堂を活かす会・塩見 寛 理事長は「移築した後もどういう形で活かしていくかということを目標にしているので、こういう素晴らしい演奏会が皆さんに感じてもらえるものになれば良い」と話し、「実際にピアノの音が素晴らしい感じで響いてきたのを、多くの人に体感してもらった良い時間だったと思う」と手応えを感じた様子だった。
聖堂の移築先はまだ決まっていないが、解体作業は2024年5月までに終わらせなければならない。
市長も保存に前向きだが…
「聖堂を活かす会」に個人的な立場で関わる静岡市の難波喬司市長も「あの教会については非常に文化的な価値が高いものだと思っていますし、田辺 前市長の時もそういう理解でありましたから、そこは私も一致しております。ああいう文化財を残していくというのは、これからの時代も大切なことなので、個人的にも静岡市としても応援していく話と思っている。」として聖堂の保存には前向きだ。
一方で「ただ市として応援の仕方はそれなりの限度があるので、その中でできることをやる。保存の費用について負担する予定はありません。」と、行政としての費用負担には慎重な姿勢を崩さない。
費用は寄付とクラウドファンディングで
解体と移築にかかる費用は約1億5000万円。寄付やクラウドファンディングで募る。
戦時中の空襲で焼けることなく、負傷者の救護所としても使われた聖堂。
文化的・歴史的価値を保存しつつ、今後のまちづくりに活かしたいという願いが多くの人に届くことが期待される。
(テレビ静岡)