「1年でのJ1復帰」を掲げながらも大事な場面での勝負弱さが響き、昇格の夢が幻と消えた清水エスパルス。Jリーグの“オリジナル10”として輝かしい実績も今は昔。歯車はどこで狂ったのか。エスパルスの1年を振り返る。

慢心で自滅した藤枝戦

第36節を終えた時点でエスパルスの勝ち点は「64」とJ1自動昇格圏内の2位だった。しかも、残る6試合で対戦する上位チームは磐田のみ。このまま順調に勝ち点を積み上げれば…と誰もが期待に胸が膨らんだ。

ところが第37節。前回戦で完膚なきまでに叩きのめした藤枝に返り討ちにあう。“超攻撃的なエンターテインメントサッカー”から辛抱強い守備をした上でキレの良いカウンターを仕掛けるスタイルへと藤枝がモデルチェンジを遂げる中、矢村に目の覚めるようなミドルシュートを突き刺されたほか、横山に芸術的なループシュートを決められ、リーグ戦連続無敗記録は「14」で途切れた。

「ぬるい空気があった」

確かに戦力差や順位差、当時のチーム状況を考えればエスパルスが“勝たなければいけない”試合だったが、ある種の慢心が負けを呼び、試合後、秋葉監督は自戒を込めて言葉を吐き出した。

藤枝戦の反省はどこに…不敗神話崩れる

ただ、第38節の“元祖・静岡ダービー”である磐田戦は乾の挙げたゴールを守り切ったし、続くいわき戦も7対1と圧勝した。

この時点で磐田及び東京Vとの勝ち点差は「2」。しかも、エスパルスが次節で対戦するのは前年の4位から一転して今シーズンはリーグ戦で苦戦が続いていた熊本。さらに磐田と東京Vは直接対決ということで、両者を突き放すには願ってもないチャンスだった。

迎えた熊本戦。出だしは間違いなくエスパルスのペースだった。

前半26分に中央を切り崩すと、乾のパスを受けた中山が反転しながら右足でゴールを奪う。

今シーズン、先制した試合でいずれも負けたことのないエスパルス。しかし、その“不敗神話”を自らの慢心で崩してしまう。

前半終了間際に同点とされると、後半は共にミスからカウンターを許して2失点。

藤枝戦同様に下位に足元をすくわれる結果となり、秋葉監督も「慢心と緩みが原因」と言うしかなかった。

幸いにして磐田と東京Vが引き分けたため、エスパルスの2位は変わらなかったが、後から振り返ればこの藤枝戦と熊本戦が今シーズンのエスパルスの“すべて”であり、“象徴”だったのかもしれない。

リーグ最終節から3試合連続で引き分け

ホーム最終戦となる第41節で大宮を下したエスパルスは自動昇格を懸けて水戸の地へ乗り込んだ。だが、パスミスから先制点を献上すると、猛攻を仕掛けるも追いつくのがやっと。J1自動昇格の切符は磐田が手にしたほか、東京Vにも抜かれ4位でリーグ戦を終えた。

大事な試合でことごとくチャンスを逸したエスパルスではあったが、一方で昇格プレーオフの出場権はつかみ、最後の戦いが始まった。

準決勝は山形と引き分けたが、リーグ戦の上位チームを“勝者”とする大会規定に救われる形で決勝へ。

勝ち上がって来たのは今シーズン、ホーム・アウェイともに勝っている東京Vだ。とはいえ、リーグ戦の順位は東京Vの方が勝っているため引き分けも許されない状況に、選手たちにかかった重圧は明らかだった。

そんな中、後半18分に幸運が訪れる。東京V・森田のハンドで得たPKをサンタナが落ち着いて決め、どうしても欲しかった先制点を奪った。

サンタナが冷静にPKを決めたが…
サンタナが冷静にPKを決めたが…
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しかしながら、勝利の女神はエスパルスに微笑まなかった。試合終了間際に高橋のスライディングがPKの判定。これを東京V・染野が決め、それから数分と経たないうちに国立競技場に試合終了を告げる笛が響いた。

結局のところ、今シーズンもエスパルスはエスパルスだった。未勝利が続いた開幕7試合で“1つでも”勝てていたら、リーグ終盤で下位相手に苦戦した試合で“1つでも”勝てていたら自動昇格だったが、勝負弱さは年間を通して克服できなかった。

試合終了後の乾貴士 選手
試合終了後の乾貴士 選手

プレーオフ決勝の試合後、乾は「順位通りのチームだったということ。サッカーの技術だけではなく、滑らないことやボールキープ、時間の使い方などの判断ができていなかった」と淡々と述べた。それは、言い換えれば勝つための戦術をチームに落とし込めていなかったということでもある。

ビジョンなきフロント陣の責任は

エスパルスは2023年ももはや“恒例行事”かのごとくシーズン途中で監督が交代した。これで5年連続だ。

確かに思うように勝ち点が積み上げられない状況を打破するために、“カンフル剤”として選手の士気を一時的に向上させる効果はあるかもしれない。だが、それが毎年ともなれば当然のことながら効果が薄れるのは必然であり、むしろ指揮官交代による負の面の方が大きい場合だってある。そうしたフロント陣の“見通しの甘さ”が勝負弱さに影響しているのではなかろうか。

山室社長と大熊GMは今シーズンの新体制を発表するにあたり、「『1年でJ1復帰』という目標を実現させることが責任の取り方」と豪語した。しかし、現実はJ1復帰どころか、クラブ史上“最低”の成績に終わった。目標を達成できなかった責任は果たしてどう取るのだろうか。

サポーターやファミリーが納得できる答えを示さないまま歩み始めるのか。さらに言えば、2年連続J2という環境下で選手の流出を防ぎ戦力を確保できるのか。何より2年連続で味わったつらい経験を来シーズンに活かしていけるのか。来シーズンはエスパルスというクラブの真価が問われるシーズンとなる。

(テレビ静岡 報道部スポーツ班・外岡哲)

テレビ静岡
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外岡哲
外岡哲

テレビ静岡 報道部スポーツ業務推進役(清水エスパルス担当)。
1984年テレビ静岡入社。
1987年~1994年(主に社会部や掛川支局駐在)
2000年~2002年(主に県政担当やニュースデスク)
2021年~現在(スポーツ担当)
ドキュメンタリー番組「幻の甲子園」「産廃が街にやってくる」「空白域・東海地震に備えて」などを制作。
清水東高校時代はサッカー部に所属し、高校3年時には全国高校サッカー選手権静岡県大会でベスト11。
J2・熊本の大木武 監督は高校時代の同級生。