利用が低迷し、存続が危ぶまれるローカル鉄道は通学の足としても欠かせない公共交通だ。これからも利用できるようにと、島根の高校生が企画したイベント列車には、Z世代の若者たち約80人が乗車した。12月3日に運行された1日限定の鉄道ツアーに密着した。
高校生3人がイベントを発案・企画
12月3日に島根・出雲市駅のホームに姿を見せたのは、益田(島根)行きの特急列車「スーパーまつかぜ」だ。高校生を中心に、Z世代約80人が乗り込んでいた。「本日は“TRAIN Festa in 山陰本線”にご乗車いただきありがとうございます」という車内アナウンスとともにイベント列車が出発し、特別ツアーが始まった。
この記事の画像(15枚)このイベント列車を発案、企画したのは島根・出雲高校2年生の3人だ。島根県内の高校生が気づいた地域課題の解決や、地域活性化の実現を目指すプロジェクト「しまね未来共創チャレンジ」に応募し、島根県西部・石見地域を走る山陰本線の利用促進に向けたアイデアを提案した。
提案メンバーの1人、高野創さんは「鉄道が今よりもっと若者から興味、関心を集めていくようにする」と訴え、このZ世代ターゲットの列車ツアーを企画した。
提案の背景にあったのは、厳しい経営が続く山陰のローカル線の現状だ。中でも、出雲市 - 益田間の赤字額が2020年度から2022年度の平均で33億円余りと、JR西日本が公表した1日あたりの「輸送密度」が2,000人未満の30線区の中で最も大きかった。
現状を知った提案メンバーは「通学にも利用する鉄道を守りたい」と、9月にJR西日本山陰支社を訪問し、「活性化プロジェクト」への協力を和田昇司副支社長に直談判した。
出雲高校2年・岡本飛和さん:
出雲市 - 益田間は赤字額が大きいが、木次線よりは大丈夫だろうと意識が見え、(対策が)消極的だと高校生たちは感じていて、高校生たちが山陰本線のためにやっているということを知ってもらうことで(大人に)「俺たちもやるか」と思ってもらいたくてこの活動をやろうと思っている
提案した岡本さんは大田市から列車で通学していて、鉄道に対する思いも強い。大人たちの前でも臆することなく、自分たちの思いを伝えた。
JR西日本山陰支社の和田昇司副支社長も、「確かに出雲に住んでいる人、特に高校生、中学生が(山陰本線の)エリア全体を見て歩くことはしてないと思う。かなりのことは協力しようと思う」と高校生の思いを受け止め、協力を約束した。
列車だけでなく特別なイベントも用意
そして、直談判から約3カ月後にイベント列車が実現した。定期運行する特急列車に、イベント用の貸し切り車両2両を増結する形でイベント列車を仕立てた。
車内は、Z世代の若者で満席だ。乗車した若者の多くが通学以外で列車を利用した経験はほとんどないということで、列車の旅を楽しんでもらえる工夫も凝らされた。
その1つがスイーツだ。沿線の大田市や江津市で人気のスイーツを3種類用意して、参加者が選べるようにした。参加者は思い思いに鉄道の旅を満喫し、車内は修学旅行のような雰囲気だ。
出雲市を出て約1時間後に、列車は江津市の波子駅に到着した。列車の旅はここで終了である。歩いて「しまね海洋館アクアス」に向かうと、ここでも特別のイベントが用意されていた。人気のシロイルカパフォーマンスだ。普段はなかなか入ることができないバックヤードから見学した。
今回のツアーで、鉄道を使って特別な体験をした参加者からは、「あまり列車は乗らないので新鮮で良かった」「(コロナ禍で)部活でも修学旅行も遠征がなくなってしまったので、やはり人と外に出るだけで楽しいと痛感した」など好意的な声が聞かれた。
Z世代の力でローカル線を元気に
コロナ禍で学校行事が少なくなっていた高校生にとっては貴重な思い出づくりとなり、そして山陰本線の魅力発見にもつながったようだ。
出雲高校2年・尾添優希さん:
同世代を楽しませるのと鉄道の活性化の両立が難しかったが、良いイベントになったのではと思う
出雲高校2年・岡本飛和さん:
地元のみんなで(鉄道を)盛り上げようという動きが石見にも広がればと思う
「地域の足・鉄道を守りたい」という思いを形にした提案メンバーの3人は、これからもこうしたイベントを企画し、Z世代の力で赤字に悩むローカル路線を元気にしたいと意気込んでいる。
(TSKさんいん中央テレビ)