日本時間の12月1日、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘の休止期限が切れ、戦闘が再開された。人質はまだ136人がハマスに拘束されているとみられている。
解放された女性を見ると、拘束時に撮られた映像ではハマスを擁護する様子だったが、その表情は笑顔もなく、非常に硬いものだった。

ガザ地区で戦闘再開

イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘の休止期限は、日本時間の12月1日午後2時に切れ、イスラエル軍はガザ地区での戦闘を再開した。

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現地から最新情報を、加藤崇記者がお伝えする。

ガザ地区では空爆とみられる大きな音も聞こえ、戦闘が再開されたことが分かる。
イスラエル軍によると、戦闘休止期限直前の日本時間の12月1日午後1時前と2時前に2回、ガザ地区からイスラエルに向けて、ハマスがロケット弾を発射したという。
ガザ地区からのロケット弾攻撃は戦闘休止が始まって以来、これが初めてだ。

その後、イスラエル軍は、停戦期限を6分過ぎた日本時間午後2時6分に「ハマスが戦闘の休止の合意を破り、イスラエル領内に向けて攻撃を始めたため、ガザ地区でハマスとの戦闘を再開した」と発表した。

ハマスのメディアは、ガザ地区南部でも空爆が行われていると報じている。

解放された人質の様子
解放された人質の様子

人質の解放が順調に進んでいたさなか、戦闘が再開してしまった形だが、今後の人質解放の見通しはどうなのだろうか。

まだ136人の人質がハマスに拘束されているとみられている。
女性や子供の人質だけでなく、男性や兵士にも解放する対象を広げようと交渉が行われていたが、戦闘再開により実現は難しい状況だ。
戦闘休止期間が7日間で終わったことに、家族からは落胆の声が聞かれそうだ。
戦闘が再開し、非常に懸念される状況が続いていくことになる。

訓練施設“ミニガザ”を取材

ここからは、取材センター室長・立石修氏が解説する。

イスラエルは、この7日間の戦闘休止の期間中もハマスとの戦いに備えて準備を進めていた。FNNは、その重要施設を取材していた。

イスラエルが対ハマスを想定し、自国に建設した訓練施設、通称「ミニガザ」に戦闘開始以来初めてFNNのカメラが入った。

ガザ地区から東に約20km離れた場所に作られた、イスラエル軍の訓練施設「ミニガザ」。ガザ地区の街を再現した訓練施設には、ガザのメトロと呼ばれる地下のトンネル側の攻略を想定したエリアや、モスクの一部もある。

ミニガザのトンネル内を取材する記者
ミニガザのトンネル内を取材する記者

ハマスが戦略的に使っているトンネルを再現したものに入っていくと、中は相当狭くなっていた。またクモの巣状で、通路から横にもエリアが広がっていた。
イスラエル軍は、10年以上前にはこのトンネルの建設を開始していた。戦地での情報をリアルタイムで持ち帰り、戦況に応じて訓練を重ねてきたという。

取材中にも、兵士が訓練をしている声が聞こえてきた。今回の戦闘開始後、トンネルでの訓練を受ける兵士を大幅に増加させ、訓練を継続させてきたという。

ミニガザは、コンクリートでできた荒れ果てた町のように見えるが、イスラエル軍は4500万ドル、日本円で約66億円もの費用をかけて、精密に市街を再現していると言われている。
取材中にあちこちで見られた壁の落書きは、パレスチナ自治区などでも非常によく見られるもので、町の雰囲気を再現し、兵士に慣れてもらうために緻密に描かれている。

さらに、地下トンネルだけでなく、市民が住んでいる市街地を想定した訓練エリアも作られていた。
施設のあちこちには、建物の壁に穴が開いている場所がいくつもあった。普通の入り口にはハマスが爆発物を仕掛けている場合が多いため、大抵の場合、壁に穴を開けて建物内に侵入していくという。

中東地域に生息するような虫
中東地域に生息するような虫

記者がトンネル取材で印象的だったと語っているのが、出入り口ははしごや階段・スロープなど、さまざまな実戦的なケースが想定されているほか、トンネルの広さも用途によって異なっていて、非常にリアルに感じたということだ。
ハマスと同じ環境を再現しており、トンネル内には中東地域に生息するような虫も住み着いていて、実際のハマスの地下トンネルの衛生状態もよく分かる。

イスラエル軍がいかに緻密に、パレスチナ自治区内ガザ地区での実戦を想定して準備してきたかが、この取材からも強く印象付けられる。

解放された人質の表情の変化

戦闘が再開した現在、ガサには136人という多くの人質が残されている状態だ。

これまでの人質解放で多くの女性が解放されてきたが、解放後の彼女たちの表情からはさまざまなことが伝わってきた。

ミア・シェムさん(21)は、7回目の人質解放にいた女性で、音楽フェスの会場で誘拐された。
ハマス側が撮影した解放時の映像で、ハマスの車の中でインタビューに答えるミアさんは、「(ハマスが)とても親切だった」などと話していた。
ただ、その表情は笑顔もなく非常に硬いもので、ハマスの戦闘員に言わされている可能性が高いと思われる。

10月16日、ハマスが映像で初めて公開した人質がこのミアさんだったということもあり、世界的な注目を集めていた。
映像では、ミアさんが腕に怪我をして手当を受ける様子も公開され、「早く家族の元に帰してほしい」と話していた。

解放時には、しっかりとした足取りで歩いてはいたが、最後まで笑顔は見られなかった。
腕に怪我をしていたことなどから、激しい暴力に巻き込まれた可能性もあり、ハマスに対する強い恐怖心が、ミアさんを硬い表情にさせていたとみられる。

しかし、ミアさんはイスラエルに入国した後、待ちわびた母親や家族を見た瞬間、感情があらわになり、泣きながら母親と抱き合い、これまでとは全く異なる非常に感情的な表情を見せた。

こうした表情の変化はミアさんだけではなかった。

ハマスが10月30日に公開した映像で、強い口調でイスラエル政府を批判していたダニエル・アロニさん(45)。
右側が解放された後に家族と会った際の写真だが、拘束時の表情と比べると緊張がほどけ、同じ人物とは思えないほどに表情も穏やかなものになっていた。

ダニエルさんは、5歳の娘のエミリアちゃんと一緒に誘拐されていた。
イスラエル批判を行った際のビデオ撮影をした時には、このエミリアちゃんから引き離されている状態だった。

娘の命を守るためには、ハマスの言うことは何でも聞くという状態だったと思われる。

人質が笑顔を見せたり、戦闘員と握手するといった姿も撮影されているが、ハマス公開のビデオ映像はプロパガンダの材料であり、さまざまな演出が行われている可能性がある。

人質が多く残されている中で戦闘を再開した理由は、何が考えられるのだろうか。
イスラエルとハマスの合意では、当初から解放される人質については、母親、高齢者、子供となっていて、イスラエルもこういった人たちの解放を優先してきた。そのほとんどが解放されている状況となり、イスラエルは攻撃に踏み切ってもいいと判断したと思われる。

イスラエル側は基本的に「戦闘休止期間中も戦争は継続する」と言っていて、基本姿勢は変わっていない。
(「イット!」 12月1日放送より)