大相撲界の一年を締めくくる、大相撲九州場所。優勝を争ったのは、今年大きく飛躍を遂げた2人の力士、大関・霧島と熱海富士だった。

大一番となった14日目の直接対決や今場所にかける思い、さらなる飛躍を狙う2024年に向けた意気込みなど、千秋楽を終えたばかりの2人に聞いた。

2023年、最も名を上げた2人

霧島と熱海富士。2人は2023年の大相撲界で最も名を上げたと言っても過言ではない。

霧島
霧島
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霧島は今年の大阪場所で優勝決定戦を制して初優勝。続く夏場所でも好成績を納め、三役の地位で3場所33勝を突破し、大関に昇進を果たした。

大関昇進の伝達式では、四股名を「霧馬山」から陸奥(みちのく)親方が現役時代に使用していた「霧島」に改名することを発表。かつて、「角界のアラン・ドロン」と呼ばれ人気を博した師匠の四股名を背負い、角界の顔を担う「大関」という地位に上り詰めるなど、大きく飛躍を遂げた一年だった。

そして、熱海富士も2023年を象徴する力士の1人。

熱海富士
熱海富士

今年の夏場所では、十両で豪ノ山や落合(現・伯桜鵬)らと優勝争いを繰り広げ、続く名古屋場所では見事に十両優勝。すると、2度目の幕内挑戦となった秋場所では、千秋楽まで優勝争いのトップに立つなど場所を引っ張る大活躍。優勝決定戦で敗れ初優勝は逃したものの、21歳の若武者が見せた大健闘に「相撲界の新たなスター」の誕生を感じたファンも多い。

明暗を分けた14日目の一番

そんな2人が九州場所で熱い優勝争いを繰り広げる。

霧島は序盤に苦しんだものの7日目からは連戦連勝。横綱・照ノ富士が不在となる中、番付最上位らしい安定感のある相撲を見せ、優勝争いを牽引。

熱海富士も先場所の勢いそのままに勝ち星を重ねていく。平幕の中位ながら、12日目には大関・豊昇龍戦が組まれると、持ち前の前に出る相撲で突き落とし、初の大関撃破。2場所連続で優勝争いに加わる活躍を見せる。

14日目に行われた直接対決
14日目に行われた直接対決

13日目を終えた時点で2人の一騎打ちとなった優勝争い。そして、14日目には直接対決が組まれた。

星の差は同点、優勝を左右する天王山となるこの一番を前に、霧島は「熱海富士関は若手で下から上がってくる力士なので、本場所では初めての対戦となる。稽古場でもあまり相撲を取ったことがないので、どういう相撲取るのかわからなかったですけど、やっぱり自分の相撲を取っていこうかなと思っていた」と口にしていた。

さらに、熱海富士との対戦が組まれたこと知った瞬間の気持ちを聞くと、「14日目か千秋楽に当たるのかなと思っていたので、そこに対してビックリすることはなかった。当たったら思い切って相撲を取って、大関の力を見せてやろうと思っていた」と、多くの死線をくぐり抜けてきた大関らしい、余裕が見えた。

この余裕が明暗を分ける。仕切りの最中、熱海富士の表情を見た霧島は、「相手は目を合わさなかったので緊張しているなと、自分は結構落ち着いた気持ちでいけていた」と、熱海富士の余裕の無さを見抜いていたという。

結果は強引に前に出る熱海富士にまわしを与えない霧島が、徐々に自分に有利な体勢に持っていき、盤石の寄り切りで快勝。熱海富士に全く攻め手を与えない、「これぞ大関!」という貫禄十分な相撲で圧倒した。

この1番を熱海富士に振り返ってもらうと、「自分の相撲を取ろうと思っていたんですけど…、あんまり覚えていないです」と、やはり精神的に余裕が無かった様子。まだ21歳で幕内3場所目の若さが出てしまった形だ。

定年を迎える陸奥親方への思い

霧島は千秋楽も大関・貴景勝に勝って13勝2敗。3月の大阪場所に続く2度目の優勝と共に、年間最多勝(62勝)も受賞するなど、2023年の「大相撲界の顔」と言っても良い大活躍の年となった。

「本当に素晴らしい1年だったと思います。初めて優勝したし、大関になったし、2回目も優勝したし、最高です」

見事に飛躍の一年を締めくくった霧島だが、実はある思いを持って、今場所に臨んでいた。

「九州に入ってきたら鹿児島の皆さんから、『親方の最後の地元の場所、なんとかして頑張って』と言われて、もちろん僕もそう思っていたし、やっぱり親方が最後ですし、良い成績を残したいと思いながら相撲を取っていた」

四股名を託してくれた師匠に、恩を返したかった
四股名を託してくれた師匠に、恩を返したかった

霧島の師匠である陸奥親方は鹿児島県出身で、大関昇進の時には現役時代に名乗っていた四股名を託してくれた恩人。来年4月で定年を迎える親方にとって、今場所が最後の九州場所。「親方の最後の地元の場所に花を添えたい」、霧島はそんな特別な思いを持って今場所に臨んでいたのだ。

来場所はいよいよ綱取りに挑む霧島。初場所で横綱昇進を決められれば、親方の定年前最後の場所となる大阪場所を、横綱の地位で迎えることができる。親方の現役時代を上回る「横綱・霧島」見せるため、来年の初場所は大事な場所となる。

そんな霧島の綱取りに向けて必要なこととは何なのか。自身も2016年の年間最多勝を受賞した後、2017年の初場所で横綱昇進を決めた、元横綱・稀勢の里の二所ノ関親方に聞いてみた。

二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)
二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)

「もちろん横綱というのはあるんですけど、ワンポイントで活躍するのではなく、常に6場所安定した成績を収めるということがまず大事ですよね。もちろん10勝以上、横綱になるなら12勝13勝。常に優勝を狙えるような、そういう星を常に作っていくような大関になって欲しい。その結果が横綱に繋がると思う。

『いよいよだな、霧島はもう横綱に上がるな』と、周りが勝手に横綱に上げるムードを作るような大関になる。優勝しても一喜一憂しないことが大事」

横綱に求められることは高水準の安定感。常に優勝を狙える勝ち星をあげ続けることが、「横綱の証明」だと親方は言う。

2場所連続「準優勝」の熱海富士に必要なもの

そして、2場所連続で惜しくも優勝に届かなかった熱海富士。

後半は三役以上の力士とも多く対戦した今場所を振り返って、「大関・三役というのは、本当にスゴイ人たちが集まるんだなと改めて実感しました。来場所は上位に上がるので、一番一番取り切って、もっと良い相撲を取れるように頑張ります」と、上位との総当たりが予想される来場所に向けて、強い意気込みを語ってくれた。

そんな熱海富士について、二所ノ関親方は“新しい風”と評した。

「久々に相撲界に吹いた新しい風って感じですよね。先場所から自分の相撲を確立できたのかわからないですけど、前傾姿勢を保ちながら前に前に出ている。まだ幕内に上がって数場所ですから、一生懸命稽古して、今までやってきたことをやり続けることだと思う。色気付かないで、色んなことをやりたくなると思うけど、余計なことをしない。今の相撲を取り続けて稽古しまくって、とにかく経験値を上げることが一番大事。経験負けしていることが多いし、これは戦う回数を増やすしかない」

上位との差はズバリ「経験値」。百戦錬磨の三役力士たちとの真っ向勝負が、熱海富士のレベルアップには必要とのこと。来年以降、上位で戦う熱海富士はまだまだ伸びると親方は言う。

霧島・豊昇龍の2大関の誕生、元大関・朝乃山の復活、伯桜鵬や熱海富士をはじめとした若手の台頭など、今年も盛り上がった大相撲界。

果たして、2024年の「顔」となるのは、どの力士なのか。その争いの中に、霧島と熱海富士がいることは間違いないだろう。
 

山嵜哲矢
山嵜哲矢

株式会社ビーフィット チーフディレクター
東京学芸大学卒業後「ジャンクSPORTS」や格闘技中継などを担当
2012年から「日本大相撲トーナメント」中継に携わり
2016年からスポーツ局の相撲担当として場所中や場所後の取材を行う