千葉県南部で増え続けているキョンが、畑の野菜を食い荒らすなどの被害をもたらしている。
以前は人の姿を見ればすぐに逃げていたが、今では至近距離まで近付いても全く動じず、住民の不安をさらに深刻化させている。
野生のキョンに街で遭遇した際の注意点を、アジア動物医療研究センターのパンク町田センター長に聞いた。
“曝露法”で人間への恐怖心を克服
ーー最近のキョンはなぜ人慣れしている?
人慣れした理由は2つあります。
1つは、キョンの分布域が民家付近にまで広がったことです。
キョンは子どもの頃から民家付近で生活していれば、人のことを見知っていて、”人間を恐れないキョン”に成長します。

2つ目は、エサが不足したため、民家まで下りて来ることによって、人間に対する恐怖心が失われました。
春や夏よりも、エサが徐々に減ってくる冬の季節の方が人慣れしやすい時期になります。
人間に対する恐怖心とエサの必要性のバランスをみた時、エサの需要の方が高いので、それまで人を恐れていたキョンも徐々に人間に近付いてきます。

これを「曝露法(ばくろほう)」といいますが、不安の原因となる刺激に晒すことで感覚が鈍ってきます。
これによって人間に対する恐怖心が克服されていったのです。
狂犬病やマダニの危険性
千葉県内で増えているキョンは、約20年前に閉園した勝浦市の施設から逃げ出した個体が野生化して繁殖したものだという。
その数は過去10年で約3倍に増加し、2022年度には7万1500頭にまで増えたとされる。
野生のキョンは農作物を荒らすだけでなく、人間と接触すれば感染症などのリスク要因にもなるため、パンク町田センター長は、「決して触らないで」と注意を促す。

ーーキョンに遭遇した時はどう対応したらいい?
野生のキョンに出くわした時は、決して触れないようにしてください。
キョンから病原体に感染する恐れがあるからです。
1つ代表的なものは「狂犬病」です。
狂犬病は犬の病気だと思われがちですが、実際には哺乳類の病気で、キョンから人への感染もあり得ます。狂犬病は99.8%の致死率にのぼる非常に怖い感染症です。

また、そのほかにも、寄生虫をもらうリスクがあります。
例えば「マダニ」に噛まれたら、痒みだけの被害では収まらず、高熱を発する危険性があるため注意が必要です。