清水エスパルスにとって二度目となったJ2での戦いは最終順位が4位と自動昇格をつかむことは出来なかった。初めてJ2で戦った7年前は、破竹の9連勝でリーグ戦を終え自動昇格となっただけに、昇格プレーオフに臨むのは初めてだ。

チーム史上初の昇格プレーオフへ

今シーズンのエスパルスは出足でつまずいた。開幕から5戦連続引き分けからの2連敗。早々に監督の更迭となったが、秋葉忠宏 監督の就任によってチームがよみがえった。

夏場にはリーグ戦14試合連続で負けを喫することなく終盤には順位を2位まで押し上げたが、最終節で下位の水戸に勝ち切れず4位へと転落。手中に収めかけた自動昇格はスルリとこぼれ落ちた。

とはいえつかみ損ねたJ1昇格の切符を懸けたプレーオフは目前に迫っている。

水戸戦での引き分けはチームを意気消沈させたが、プレーオフまで2週間空いたことが気持ちの切り替えに有効な時間となった。

熱血指揮官は選手の高い能力を引き出すため「攻守において超攻撃的」というテーマを掲げ、ここまでチームを引っ張ってきた。こうしたメンタリティを軸に、プレーオフ準決勝の山形戦に向けては、相手の背後を取る動きを増やしたり、セットプレーを強化したりしたほか、選手に具体的な対策を授け、何より「チームが1つになって戦う」ことを重視し調整を進めてきた。

ホーム・アイスタ日本平で行われる山形戦は多くのオレンジサポーターで埋め尽くされるのは間違いない。そして、それに応えるだけの準備は整った。

今回のプレーオフでは引き分けの場合、リーグ戦の上位のチームに進出権が与えられるレギュレーションとなっていて、このアドバンテージの存在から先制点の行方が試合の展開を大きく左右する展開になるはずだ。共に攻撃を主体とするエスパルスと山形の“絶対に負けられない”戦いは25日午後1時にキックオフを迎える。

秋葉監督「後手にならないように」

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-今のチーム状態は
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
正直言うと先週は多少精神的なダメージはあったが、2~3日してからは「プレーオフに行くんだ」「自分たちで蒔いた種を刈り取るんだ」というメンタルになりつつある。勝負への気持ちの高まりや一体感を感じた。

まずは普段からの力を出さないと。その上で勝ち負けがある。「強いメンタリティを持って、自分たちがこれまでやってきたすべての力を出して、90分間 勇気を持って戦おう」と話した。

ホームで背中を押してくれるサポーター・ファミリーが見守る有利な状況で、一体となって全力を出し戦うこと。また、引き分けでも上位が上に進む有利な条件の中で“受けに回る”のではなく有効に使えるように先制点を取ることに注力したい。

-セットプレーの練習に時間を割いていた
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
ビッグマッチになればなるほどセットプレーの得点は注目されるし多くなる。こうしたゲームは激しくなりファウルも増えるだろう。そこで「取れて」「取られない」でいればゲームが楽になるのでより強化したい。

キッカーと中のタイミングが大事。我々には高さのある選手もいる。それに山形はセットプレーからの失点が多いので、この試合前は毎日やりたいと思う。

-対戦相手の山形の印象は
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
前に3トップがいて、攻撃への速さがあるし個の力があるチーム。トップ下とウイングとの絡みをどう防ぐかも課題で後手にならないようにしたい。

ただ、守備の方はそんなに強固だという印象はないので、我々の本来持っているクオリティーや超攻撃的な姿勢を見せれば、必ずゴールをこじ開けられると思っている。先制点が「いつ」「どちら」に来るかが大事だと思っている。

-座禅の効果は
清水エスパルス・秋葉忠宏 監督:
先日の1時間45分のミーティングでもみんな集中していたし、忍耐強くなっているのではないか(笑)

自分と向き合う。もう一度強いメンタリティを持つ。勇気持って戦いに行くという点で、心を落ち着けて向き合う効果があったと思う。選手からも「いい時間だった」という反応が多かった。出来ることをやり尽くして試合に臨みたいと思う。

鈴木義主将「勝って応えたい」

清水エスパルス・鈴木義宜 主将:
最終戦が終わって1週間、いい状況でオフ明けを迎えられている。

山形は前線に良い選手がいる。カウンターが得意なので良いリスク管理をしたい。次をホームで出来るのは有利。すばらしい後押しがあってうれしいし、勝って応えたい。

一発勝負で重要なのはより自分たちがやってきたことを整理して、試合でしっかり表現すること。そこにしっかり集中できるかが課題だと思う。

「攻守において超アグレッシブ」というのが、監督が代わって、低い成績からここまで上がって来られた要因の1つなので、逆にそれが出来ないと勝てないし、それを信じてやらなければいけないと思う。後ろを守る選手が失点を抑えれば勝ち上がれる。ゼロで抑えたい。

乾選手「まずは失点しないように」

清水エスパルス・乾貴士 選手:
チーム雰囲気は“負けなし”で走っていた時と比べればまだまだだが、徐々に良くなってきている。

最終戦は結果の通り。自分たちはJ2の4位というエスパルスの歴史上一番悪い成績なので、そこを自分たちでしっかり理解しようと共有した。その上でプレーオフというチャンスがあるので、それに感謝しながら「J1に戻ろう」と話をした。

山形はカウンターが速く、攻撃に良い選手がいるし、勢いを持っている相手。前回のホーム戦ほど楽にはならないだろう。だが、引き分けで良いというアドバンテージはあるので、それは活かしたい。

プレーオフは初めてだが負ければ終わりのトーナメント。難しい試合になる。なので、アドバンテージは必ずしも有利なだけではない。相手に負けない試合の入りから、水戸戦とは違った試合にしたい。

先制点が取れれば大きいが、まずは失点しないように。サポーターに対しては、もう一度失望させたことを取り戻そう、はい上がろうと思っているので、応援して欲しい。

岸本選手「とても良い空気感になった」

清水エスパルス・岸本武流 選手:
座禅を組んでみんな次に迎える気持ちになれたと思う。合わせて45分くらいやった。講話で座禅の意味や効果を聞いた。みんな思ったよりまじめに取り組んでいた。

チームは先週よりとても良い空気感になった。究極の一戦。もうラストの一戦。後悔のないように全力でプレーするのみ。何も考えることはない。

徳島の時にプレーオフを経験し、残留・降格の機会にはよく立ち会っている。

山形はビルドアップと3トップがしっかりしている攻撃的な良いチームだが、スキもあると思うし、自分はやれると思う。山形とは前回の試合のように前のポジションで出るならショートカウンターで点が取れたらいいし、アグレッシブの“鬼”でいきたい。

最近の調子は良いし、ラッキーが続いている。山形はセットプレーのからの失点が多いので、その辺りは頻繁に練習でも取り組んでいる。

原選手「リーグ戦の1試合とは違う」

清水エスパルス・原輝綺 選手:
チアゴ・アウベス選手の良さを消しつつ、相手が対応出来ないところを突いていくプレーができれば良いと思う。アウベス選手は「攻め残り(攻めた後に守備に戻らない)」するらしい。基本は自分が見るが、自分が上がるケースについては、味方のボランチとセンターバックに見てもらうことになる。その間合いの判断は1つの鍵になると思う。

サイドバックの裏は相手の狙い目だと思うし、最終ラインが下がる前に中に入れて仕留めるのが狙いだし、第一優先の順位だと思うが、その対策は練習でやった。互いにリーグ戦の1試合とは違う勝負になるだろうし、彼らもまた違う状況で戦うことになる。

どんなにいい準備をしても気持ちで呑まれてしまって上手くいかないこともある。水戸戦は自分たちで悪い方向に走って行ってしまったところもある。「追われる状況」「勝たなければいけない状況」で「先制点が欲しい」と慌ててしまったところもある。気持ちの問題だけではなく、風などの要素もあり、後半は逆に有利になって優位性を持てたが、試合条件を考えるとプレッシャーのかかる試合では「前半は耐える」というプランを立てなければいけなかったのかもしれないし、そういったことを試合前にチーム内で話し合わなければならなかった。

今のチームは落ち込んだこともあったが、この1週間でしっかりまとまってきている。なぜ悪いのか、選手が気付いて共有して対応する、成長段階のチーム。足りないところをどうするか。意思をチーム内で循環させ対応していきたい。

白崎選手「試合のポイントは背後」

清水エスパルス・白崎凌兵 選手:
この2試合の緊張感は高いので、プレッシャーのかかるゲームを想定している。そうした状況の中で、自信を持ってプレー出来るように準備している。

座禅は気持ちとしての部分、自分たちが自分たち自身と向き合う時間になった。何かが足りなかったから自動昇格できなかったという事実に、この2試合で「昇格するにふさわしいチーム」と証明しなくてはいけない。そのために個人が自分と向き合う時間になったと思う。

自分自身も水戸戦を振り返り、どうすればよかったのか感じることはあったし、それを整理する時間になった。水戸戦は相手の勢いをもろに受けた。アウェイの藤枝戦でも同じようなことが起きた。

どこで背後を取るかの動き出しや質の高いボールの供給など良いところが出なかった。戦い方としては、より長く相手陣のコートで時間を費やすことが大事。今週、チーム内のメンタルが心配になったがだいぶ回復した。自分たちの結果として受け止め、全体が同じマインドになっていて、あとはやるだけ。

試合のポイントは背後。相手が前から来るのは分かる。そうすると背後が空く。プレッシャーが来て速い時に、正しいタイミングで裏を取れれば効果的な攻撃になる。こうしたことに対する整理は出来た。だが、状況状況で選手が共有出来ていればやり方は変えていいと思う。

「攻守において超アグレッシブ」のテーマは出来ればいい大前提だが、試合は一発勝負だし、特殊な雰囲気、プレッシャーがある。自分たちが同じ方向を向いて行動できるかが鍵。その中で現実的な戦い方も大事になると思う。

(テレビ静岡 報道部スポーツ班・外岡哲)

外岡哲
外岡哲

テレビ静岡 報道部スポーツ業務推進役(清水エスパルス担当)。
1984年テレビ静岡入社。
1987年~1994年(主に社会部や掛川支局駐在)
2000年~2002年(主に県政担当やニュースデスク)
2021年~現在(スポーツ担当)
ドキュメンタリー番組「幻の甲子園」「産廃が街にやってくる」「空白域・東海地震に備えて」などを制作。
清水東高校時代はサッカー部に所属し、高校3年時には全国高校サッカー選手権静岡県大会でベスト11。
J2・熊本の大木武 監督は高校時代の同級生。