新たな経済対策の柱のひとつとして、政府が実施する「定額減税」だが、住宅ローン減税の対象となるマイホーム購入層やふるさと納税で寄付を行う人は、今後の制度設計に注意が必要になるかもしれない。

「定額減税」が「住宅ローン控除」に及ぼす影響は

今回の定額減税は、納税者本人と扶養家族について、1人あたり4万円が減税されるもので、扶養する家族が多いほど減税額が多くなるしくみだ。

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2024年6月から実施され、給与所得者の場合、6月以降の給料とボーナスから天引きされる所得税と住民税で、1人あたりそれぞれ3万円と1万円、あわせて4万円が減税される。

一方、住宅ローン控除は、住宅ローンを組んで、マイホームを取得したり増改築したりした人が、年末のローン残高の一定割合を所得税などから差し引いてもらえるというものだ。

合計所得金額が2000万円以下の人が、一定の要件のもとで、新築し、返済期間10年以上のローンを組んで2022年以降に住み始めた場合は、年末残高の0.7%分を控除してもらえる。

一般住宅のケースで、居住開始が2022年か2023年だと、13年間、年間最大21万円が税額から差し引かれる。

見込んだローン減税額が戻ってこない?

ただ、住宅ローン控除は、あくまで納めた税金から差し引く仕組みなので、定額減税によって納税額が減ると、その恩恵を十分に受けられないと感じる可能性がでてくる。具体的にみていこう。

年収650万円の会社員の4人世帯で、配偶者に収入がなく、高校生と中学生の子どもが2人いる場合、年間所得税額は約14万円と試算される。

この場合、2023年に購入し住み始めたマイホームのローン残高が、2024年末に2000万円あるとすると、住宅ローン控除のいまのしくみでは、0.7%分にあたる14万円が控除され、年末調整や確定申告で、支払った所得税のほぼ全額14万円が戻ってくることになる。

ところが、先に定額減税が行われ、所得税で3万円×4人分=12万円が減税されると、年間所得税額は14万円から2万円へと減少するので、還付される所得税額も2万円にとどまる。

引き切れなかった分が翌年度の住民税額から差し引けるしくみはあるものの、ローン控除で算出された14万円全額は戻ってこない計算になる。

いまの制度のままで、定額減税が実施され所得税額が減れば、ローン減税で還付される税金も減ることになるわけで、税金が戻ってくるのを見込んで、収支計画を立てている場合は、注意が必要になってくるかもしれない。

一方、このケースで住宅ローン減税を先に行い、あとで定額減税分を計算するやり方が適用された場合は、所得税額はゼロとなって、定額減税が行えなくなる可能性がある。

「ふるさと納税」で思わぬ自己負担?

もうひとつ、要注意のケースが出てくるかもしれないのが、「ふるさと納税」だ。

「ふるさと納税」は、自己負担額2000円を除いた金額が所得税や住民税から差し引かれるしくみで、多くの人が実質的に2000円を負担するだけで自治体からの返礼品を手にしているが、2022年に「ふるさと納税」を行って、住民税額が減少したことで、1人1万円の住民税減税が満額受けられなくなる可能性が指摘されている。

また、寄付額が税金から差し引かれる額には上限があり、上限がいくらになるかは、実質、住民税のうち所得割と呼ばれる税額によって決まるので、住民税額が少なくなれば、実質の負担額が2000円を超えるケースが出てくる。

定額減税では、3万円の所得税減税額が2024年分の所得税額を上回って引き切れない場合、翌年度分の住民税から差し引くことになっているが、このしくみで住民税額が減れば、2024年分のふるさと納税で思わぬ自己負担が発生することも想定される。

難航が予想される制度設計

今回の定額減税は、先行する住民税非課税世帯への給付とあわせ、所得税と住民税という基準が違う2つの税をめぐって支援措置を講じようというもので、しくみがかなり複雑なものになるのは必至だ。

政府は、減税と給付のはざまで、恩恵を十分に受けられない層にも目配りし、丁寧に対応するとしているが、「住宅ローン減税」や「ふるさと納税」でも、新たな対応を打ち出す可能性がある。

不都合が判明するたびのつぎはぎでなく、納得がいく制度設計ができるかどうか、厳しい視線が注がれている。
【執筆:フジテレビ解説副委員長 智田裕一】

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員