支持率が低迷する岸田政権。その立て直しの切り札が物価上昇を上回る「賃上げ」だ。しかし、実際に賃上げを決めた福岡市の中小企業の実情を取材すると、そこには大きな差が見えた。
経団連「5%以上」の賃上げを要求
支持率低迷にあえぐ岸田政権の立て直しとなる切り札が、物価上昇を上回る「賃上げ」だ。2023年11月6日、経団連の十倉雅和会長らが出席し開かれた経済財政諮問会議の場で、岸田文雄首相は、賃上げについて「自身が先頭に立ち進める」と強調した。
この記事の画像(19枚)岸田文雄首相:
賃上げの原資となる、企業の稼ぐ力を強化する供給力の強化を最も重要な柱としています。2024年の春闘に向けて、経済界に対して私が先頭に立って賃上げを働きかけてまいります
2023年の春闘では大企業を中心に満額回答が相次ぎ、連合は2024年の春闘でも「5%以上」の賃上げを要求する方針を決めた。
福岡の街で「賃上げ」について話を聞くと、賃上げの実態には大きく差があることが分かる。
不動産業勤務(20代・賃上げあり):
ちょっと前に上がった。年齢も年齢なので、貯金もしないといけないかなと
メーカー勤務(20代・賃上げあり):
ありがたくいただいて、ありがたく使おうかなと
医療系(20代・賃上げなし):
上がってないですね。娘もいるので娯楽とかに使えたらと思うけど…。多分、上がらないと思います
営業職(30代・賃上げなし):
給料上がらないで税金だけ上がって…。税金をどうにかしてほしい
売上高マイナスも賃上げに踏み切り
この春に賃上げを決めた福岡市中央区の中小企業に話を聞いた。
ホープ 人事部門管掌・安藤伸晃執行役員:
ベースアップ部分が、正社員が月給1万円、パート社員が時給で60円。社会的に昨今インフレが続いておりますので、そうした環境の変化に対応する社員の生活基盤を、確固たるものにする目的を持ってベースアップは実施
自治体向けの広報誌の発行や広告などを手がける会社「ホープ」は、従業員170人ほどに対し、2005年の創業以来初めてのベースアップと一時金の支給を決めた。
ホープ 人事部門管掌・安藤伸晃執行役員:
まず(賃上げを)やると決めて、その後どのように売り上げや利益を伸ばしていくか考えた。販管費が増加するということになるので、いかにその部分を吸収するかということだけを見ればよかった
広報誌の紙代や印刷費などの物価高もあって、会社の売上高は前年同時期と比べると15%ほどマイナスだが、主要事業である広告部門や広報誌の事業については、伸びる可能性があるとして賃上げに踏み切った。
ベースアップと一時金の支給について従業員に話を聞くと…。
ホープ 勤続1年半・女性(32):
(生活の変化は)すごく大きくってわけではないんですけど、2歳の息子がいるので息子のための絵本とか買ってしまう。「与えてもらった役割っていうところをしっかり全うして行きたい」というモチベーション
ホープ 勤続6年・男性(28):
結婚式を控えているので、披露宴の費用に充てられる。世の中の流れに合わせてしっかり意思決定してくれることに「ありがたいな」と。「必ず結果で戻さないといけないな」と思っています
新卒初任給の引き上げも決めたことで、今後、採用活動にもプラスに働くのではないかと会社は期待している。
ホープ 人事部門管掌・安藤伸晃執行役員:
「どうやったら企業が業績を伸ばしていけるんだろうか」という観点での様々な整備というのが、本質的には長期的に見れば賃上げにつながっていくのでは
福岡県内では2023年の春闘で、九州電力が24年ぶりに組合員の平均で1,000円のベースアップを決定した他、西鉄や西部ガスなど、地場の大手企業が軒並み賃上げを決めた。
福岡県が県内約370の企業を対象に行った調査によると、全体の6割が「賃上げを実施した」と回答し、その半数以上が「業績の改善が伴わない」にも関わらず賃上げを決めていた。
賄えない物価高に「精いっぱい」
一方で、政府が目標とする「物価上昇を上回る」賃上げには、ほど遠い現実も見えてきた。
元祖もつ鍋楽天地・水谷崇社長:
どうにか(給料を)引き上げていきたいが、原材料の値上げがモツなら1人前で5割くらい値上がりしてるんですよ。ちゃんぽん麺も1~2割上がっているし、全体が上がってるので上げにくい
福岡市内で12店舗を展開する老舗のモツ鍋店「元祖もつ鍋楽天地」は、円安もあり、インバウンドの客を中心に店は連日盛況している。10月になって、従業員の給料を時給換算で50円引き上げたが、原材料費が高騰を続ける中、「これが精いっぱい」と話す。
元祖もつ鍋楽天地・水谷崇社長:
コロナで痛んでる状態で内部留保を確保しないと経営の安定とかできないし、物価の上昇と給与の上昇というのが上手くリンクしていくのがいいんですけど、そこは本当に難しいですよね
賃上げに先立ち、この夏、単品を200円ほど値上げしたが、それでも原材料の高騰はまかなえず、水谷社長は価格転嫁と賃上げの両立に頭を悩ませている。
元祖もつ鍋楽天地・水谷崇社長:
スタッフが長く働くためには、賃上げが一番効果的だと思う。同時にそのバランスを上手くとらないと。そのジレンマで日々苦しんでます
政府の目指す賃上げは、果たして多くの国民が実感できるものとなるのか。国民の厳しい目が注がれていることを岸田首相は分かっているのだろうか。
(テレビ西日本)