判断が難しい「ダムの事前放流」

今回の豪雨は九州を中心に各地に大きな被害をもたらした。

このような大雨による被害は、2018年の西日本豪雨や2019年の台風19号と、近年相次いでおり、河川の氾濫や浸水被害が報告されている。

今回の豪雨では、熊本県を流れる球磨川で氾濫が確認された

そして、こうした豪雨の際、実施が検討されているのが「ダムの事前放流」だ。

日本気象協会によると、事前放流とは「大雨の発生が予測される場合、洪水が到達する前にダムの水を放流して、水位を下げること」だという。

予想に反して雨が降らないといった、空振りの場合、水不足に陥る危険性があるため、判断が難しいともされている。

こうした中、同協会は6月1日、AIを活用して降雨量を予測し、ダムの事前放流の判断を支援するサービスの提供を開始したのだ。

すでに千葉県の「亀山・片倉ダム管理事務所」と「高滝ダム管理事務所」が導入しているという。

ダムの事前放流を支援するサービス登場

このサービスに用いるのは、協会が独自に開発した“予測システム”。

世界各国の気象機関が出す数値予測をもとに、独自の補正処理やAI技術を利用した手法で、“最大15日先”までの降雨を予測できる。

しかも、予測は“時間・空間ともに高精度(=1時間雨量・5kmメッシュ(四方))”なのだという。

“最大15日先”まで予測できるため、雨が降り始めるまで十分な準備期間を確保し、余裕をもって事前放流の計画を立てることが可能になるわけだ。

51通りの予測シナリオを提示

なお予測は、51通りのシナリオで示される。

2019年の台風19号が上陸する約4日前の予測では、多くの予測シナリオで関東付近に台風が上陸することを示唆していた。

台風19号における51通りの予測シナリオ(画像提供:日本気象協会)

事前放流を決断するに当たって、情報がたくさんあるのはいいことだろう。そもそも、このサービスを開発した背景は? そして、どのような活用を望んでいるのだろうか?

日本気象協会の担当者に話を聞いた。

効率的な事前放流の支援が目的

――サービスを開発した背景は?

日本気象協会では、ダムに対する降雨予測情報の提供などを長年、実施してきました。近年は、京都大学との共同研究でも事前放流をテーマに研究を進めています。

また現在、多発する水害によって、ダムの事前放流の必要性が非常に高まっており、国は「事前放流ガイドライン」を作成して、各ダムで事前放流を導入するように指示しています。

このような背景のもと、効率的な事前放流を支援することを目的に、このサービスを開発しました。


――予測が「時間・空間ともに高精度」。これはどういうこと?

時間・空間に関するデータを高い解像度で示すことによって、地形の特性を反映した精緻な予測データになる、ということです。


――51の予測シナリオはどう見ればよい?

データが複数あることがこの予測の特徴です。

複数のデータを用いて、確率的な表示を行ったり、最悪のケースを想定したりすることが可能です。

ダムの放流(イメージ)

突発的な雨の予測は難しい

――予測の精度は予測する日にちが先になればなるほど低くなる?

平均的には、予測時間が長くなればなるほど精度が低下します。ただし、全ての事例で必ずそうなるわけではありません。


――突発的な雨も予測できる?

一般的に突発的な雨は、局所的なエリアで発生することが多くなっています。このサービスに限らず、数日前のレベルでは予測が難しい現象になります。

「効率的な事前放流に役立ててほしい」

――今回の「令和2年7月豪雨」の後、問い合わせは増えた?

サービスの情報が掲載されたサイトへのアクセスは増加しています。


――このサービスをどのように利用してほしい?

効率的な事前放流に役立てていただくことを願っています。

予測なのでどうしても当たり外れは出てしまいますが、「長時間予測(15日間)であること」と「確率的な表示が可能であること」を活かし、ダムを管理する方が理解しやすい情報を提供したいと考えています。

 

なお、事前放流の判断を支援する情報はWebやメールで通知するという。

今回の九州での豪雨では、大分県と熊本県にまたがる津江川の下筌ダムで7日に「緊急放流」が行われた。多くのダムでこのサービスの導入が進み、効率的な事前放流が行われ、河川氾濫などの被害を最小限に抑えられるようになることを期待したい。
 

(参考記事:大雨で土砂崩れ相次ぐ ダムの「緊急放流」も 大分

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