半世紀前に構想された夢のプロジェクト「四国新幹線」。全国各地で新幹線の開通が相次ぎ、四国でも政財界などの動きが続いているが具体的な進展はないまま50年が経った。夢の実現に向けた愛媛県内の動きを追った。

唯一、新幹線が走らない地域「四国」

愛媛県新居浜市出身の第4代国鉄総裁・十河信二。

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「夢の超特急」東海道新幹線の開通に道筋をつけた「新幹線の生みの親」である。

北海道、北陸、九州新幹線が随時整備されている中、十河信二のふるさと四国は、残念ながらまだ、全国で唯一新幹線が走っていない空白地帯だ。県内の経済界にとっても四国新幹線の実現は長年の悲願だ。

愛媛経済同友会・野本政孝代表幹事は「(新幹線開通で)関西・中国からの交流人口が四国に入ってくることによって『四国経済の活性化』や『県民の生活文化の向上』につながっていくことが大きな目的だ」と語る。

波及効果169億円も・・・進展なしで経過

本州と四国4県を新幹線で結ぶ「四国新幹線」構想。

実現すれば4つの県庁所在地と東京を3時間以内で、新大阪までをおよそ1時間半で結び、利便性のアップとともに大都市圏との交流人口の拡大が期待される。

導入にかかる事業費はおよそ1兆5700億円。巨額の建設費が心配されるが、経済波及効果は年間で169億円と試算される、まさに夢のプロジェクトだ。

新幹線の整備に向けたプロセスは大きく3つ。(1)基本計画の決定、(2)調査の指示、(3)整備計画への格上げが必要だ。

ところが四国新幹線は今も基本計画の状態。具体的な進展がないまま半世紀が経っている。

街の人からは「生きてるうちに通るのかな・・・ほど遠い」「(新幹線ができたら)すごい移動が楽になるので色々なところに行けるなと思うけど・・・子どもたちの世代でできるのかな」「あんまり話が進んでいないイメージ」などの声が聞かれている。

こうした中、今年に入って新たな動きがあった。

「岡山ルート」で4県の足並み揃う

徳島県 後藤田知事:
四国4県が一つになって、現実的な夢を改めてスタートしたい

新たに就任した徳島県の後藤田知事は、四国と本州を結ぶルートについて、これまで徳島県のみが主張してきた関西から鳴門海峡大橋を通る「淡路ルート」を撤回。他の3県と同じく瀬戸大橋を通る「岡山ルート」に方針転換した。「岡山ルート」での新幹線整備に向け、初めて4県の足並みが揃ったのだ。

徳島県・後藤田知事が四国と本州を結ぶルートについて方針転換を発表
徳島県・後藤田知事が四国と本州を結ぶルートについて方針転換を発表

8月に東京で開かれた四国新幹線の整備促進期成会では、決起集会に政財界などからおよそ600人が集結し、四国新幹線実現へ機運を高めた。

では実際に新幹線の開業で街はどう変わるのだろうか。

新幹線が開通したエリアの変化について、民間のシンクタンクに話を聞いた。

駅周辺限らず中心市街地でも再開発

北陸や九州で新幹線が開通した駅や街を見てきたという、いよぎん地域経済研究センター・新藤博之主任研究員は「金沢・富山・長崎・鹿児島は、駅前・駅周辺だけでなく、中心市街地にも再開発の動きが広まってるのが見て取れる」と語る。

昨年9月に開通した西九州新幹線は、長崎県と佐賀県の武雄温泉の間66kmを結ぶ日本で一番短い新幹線ルートだ。新藤さんによると、「駅ができることで駅ビルやホテル、商業施設ができ、外資系のホテルの進出例も多い。長崎でも“100年に一度のまちづくり”というところで、官民一体となってまちづくりが進んでいる」という。

県などでつくる新幹線導入促進期成同盟会は、JR松山駅への乗り入れを想定して国への要望活動を行っている。新幹線の乗り入れが実現すれば駅のカタチも大きく変わりそうだ。

いよぎん地域経済研究センター 新藤博之主任研究員:
私どもが作ったイメージ図ですと、今の松山駅の駅舎があるところに高架ができますと、高架の在来線のホームの東側に新幹線のホームができる。JR駅の周辺はともかく、市駅前、銀天街、大街道の再開発へ波及することが期待されます。新幹線の乗り入れを見据えたまちづくり、再開発が進んでほしいと思います

経済界などが目指す四国新幹線の開業時期は、リニア中央新幹線が全線開通する予定の2037年。タイムリミットが迫る中、構想の実現には大きな後押しが必要だ。

愛媛経済同友会 野本政孝代表幹事:
最終的には地域住民の熱い意思が反映されないと、なかなか新幹線は呼べない。まずは地域住民の盛り上げる意思を我々が作っていかないといけない

ミュージカルで若い世代の関心高める

一方、松山市で行われていたのはミュージカルの舞台稽古。

作品のタイトルは「夢の新幹線」。
新幹線の生みの親・十河信二が主人公で、11月に行われる四国新幹線のPRイベントで上演される予定だ。若い世代に四国新幹線への関心を持ってもらおうと出演者には中学生や高校生が選ばれた。

十河信二を演じるのは西条市の高校3年生の石川葉萌音さん(17)。

現代にタイムスリップし、新幹線が全国で唯一走ってない故郷の姿を目の当たりにした十河。
日本初の新幹線実現に力を尽くした当時の熱い思いをオリジナルソングに載せて歌いあげる。

十河信二役 石川葉萌音さん:
十河信二さんは「新幹線の生みの親」と言われるぐらいなので、新幹線が大好きで、大好きな新幹線を通して周りの人をもっと豊かに幸せにしたいと。人がたぶん大好きだったんだろうなと思うので、熱意が伝わる表現をしたい

演出を手がける坊ちゃん劇場の俳優・近藤誠二さんも「(このミュージカルは)僕たち大人世代のためにというよりは、今の子どもたちの、さらに子どもの四国のことを考えるという、遠い未来のことに対して今を生きている我々が前向きになるような空気づくりができたらなと思います」と意気込む。

十河信二(当時93)は次のような言葉を残している。

鉄道というものはみんなのね、大勢(の人)を接触させて、お互いに知り合って、お互いに意思を交換し、お互いに知恵を分かち合って、助け合っていくようにするのが鉄道の目的だと

十河が実現した新幹線がふるさと四国を走る日は来るのか。その必要性を考えるきっかけになればとミュージカルの練習は続く。

(テレビ愛媛)

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