開業して2023年9月23日で1年を迎えた西九州新幹線。開業をきっかけに長崎・佐賀では街が大きく変化し波及効果もあらわれている一方で、当初の期待とは裏腹に、課題も見えてきた。

集客アップ狙いまちの魅力を発信

西九州新幹線は、佐賀県武雄市の武雄温泉から長崎市の長崎駅の約66Kmを最速23分で結ぶ。新幹線と共に、1歳の誕生日を迎えた長崎・大村市の新大村駅。

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街では、利用客から「大きな建物、すご~いって思った。新幹線ってこういうふうに大きくなるんだ」、「商業店舗とかマンションができますからね。集客ができて、ますます発展してもらわないと」などと、これからの発展に期待の声が聞かれた。

西九州新幹線が開業して2023年9月23日で1年を迎えた。新大村駅から長崎駅までの所要時間は15分と従来の約4分の1に、お隣・佐賀県の武雄温泉駅へもわずか15分で結ぶ。

しかし、新大村駅からの乗客は新幹線と在来線あわせて1日平均548人にとどまっている。

新大村駅の観光案内所には、朝9時のオープン直後から駅の利用者などが訪れる。集客アップを狙って、大村市内の店をめぐるスタンプラリーなどのイベントが行われているほか、観光案内所も、まちの魅力発信に力を入れている。

西九州新幹線「かもめ」や人気の観光列車「ふたつ星4047」、在来線の新型車両「YC1」など、新大村駅を通る列車を忠実に再現している。

新大村駅観光案内所スタッフの富田ミチ子さん
新大村駅観光案内所スタッフの富田ミチ子さん

作ったのは新大村駅観光案内所スタッフの富田ミチ子さんだ。開業1周年に間に合うようにと3カ月前から制作を始めた。車両のロゴなど細かい部分は写真に撮って、ひと針ひと針丁寧に縫い上げた。文字の部分は刺繍で作成しており、「かもめの『め』だけでも1時間かかった」と大変だった思い出を話してくれた。

新幹線は10日間、ふたつ星は3週間以上かけて完成にこぎつけた。

反対側も丁寧に作り込まれている
反対側も丁寧に作り込まれている

新大村駅観光案内所 富田ミチ子さん:
こちら(反対側)の面も実はあるんです。お客さんからは見えないんですが「YC1」も頑張って(作って)います

子供たちにも大人気! 車掌になりきって写真撮影を楽しむ姿も見られた。

成瀬葵生くん:
車掌さん見てから覚えた。信号チェック、人がいないか、カメラがあるからそこを見たりしていた

葵生くんの母親・恵梨奈さん:
この子が列車と新幹線好きなので、模型ができるようになってからはしょっちゅう模型も見に来ています

新大村駅観光案内所・富田ミチ子さん:
お客さまからいただいた言葉で一番うれしかったのが、「愛情感じるね」って言われたのがすごくうれしくて。(新大村駅には)お土産がない。売店がないので、お土産を写真として持って帰ってくださっています

二次交通の面で課題も…求められる改善策

新幹線はやってきたものの、周辺はまだ再開発の真っただ中。コンビニやカフェなどもなく、不便と感じている利用者も少なくない。

スーパーや商業施設は2024年春に完成予定で、その後もマンション建設や公園の整備が続く。活気あふれる新たなまちの誕生には、もう少し時間が必要だ。

二次交通の面でも課題を抱えている。

新大村駅観光案内所・江口真由美所長:
(新大村駅に)降り立ってからのアクセスを聞かれることがすごく多かった。限られた時間で「2~3時間で行くところない?」というお客さまの声とかあるので、「タクシーを使いませんか?」とご案内したり

大村市は、空港と高速道路のインター、新幹線の3つを兼ね備えた「ハブシティ」。しかし、新大村駅に観光地を結ぶシャトルバスやレンタカーなどはなく、市の外から訪れた人の移動手段はタクシーがメインだ。

駅と空港と結ぶ最寄りの植松東バス停まで歩いて5分ほどかかることもあり、大村市が行ったアンケート調査では、ビジネス客や観光客から交通の利便性を高めてほしいとの要望が多く寄せられている。

大村市の担当者は、市議会で今後の方針について「現在、長崎空港と佐世保駅間などを結んでいる特急・長崎空港線の運行ルートを一部変更して、新大村駅に経由させるよう考えていると話している。

2023年10月29日からは、佐世保市を拠点とする西肥バスが、長崎空港と佐世保市内などを結ぶ高速バスを新大村駅経由とする予定で、利用者の声を反映しながら改善を図っている。

駅周辺だけではなく、街中や隣接するまちまで効果を浸透させるため、これからも様々な取り組みが必要と言えそうだ。

新幹線開業により人の流れが減少した地域も…

一方で新幹線の開業で利便性が下がった地域もあり、影響をおさえたり、新たに人の流れを生み出そうという動きもある。

佐賀・鹿島市の玄関口「肥前鹿島駅」。新幹線の開業前には、長崎と博多を結ぶ特急「かもめ」が上下あわせて45本ほど走っていたが、開業後は長崎方面への特急が廃止され、博多駅とを結ぶ特急は3分の1ほどの14本に減った。

利用者は:
新幹線は利用すると楽だが、値段が高い。バスも1時間に1本くらいしか来ない。

まちの人口は約2万7,000人、駅の利用者数は2022年度は1日あたり870人ほどで、2019年度から300人近く減っている。

タクシー運転手:
もうかなり減った。普通列車でいいので長崎まで往復するような交通手段があるのが一番。
できないなら代替輸送をもう少し市、県、JRで真剣に考えてほしい

「遠いな」と言われてしまうのが一番怖い…

特急の減便は企業活動にも影響を与えている。プレス機器メーカーの「森鉄工」は、自動車のギアや航空機のシートなど部品の型をつくるプレス機を手掛けている。

森鉄工・森孝一社長:
(取引は)近畿から関東方面が多い。昔は鹿島から大阪というと3~4時間あれば行けたけど、今は(出発)時間によってはもっとかかる

国内はもとより、アジアやヨーロッパ圏など海外の企業とも取引している。新型コロナ禍でオンラインでのやり取りも増えたが、新規顧客の獲得には実際に製品を見てもらうことが一番だという。

森鉄工・森孝一社長:
(1カ月に)3社から5社くらい(見に)来る 多いときは。「ちゃんとしたものを作っています」というのを生で見てもらうのが大きなポイント。「遠いな」と言われてしまうのが一番怖い

顧客からメンテナンスの依頼を受けて出張することも多いため、急な対応に支障も出ている。2年後の2025年には特急がさらに減る見通しだ。

森鉄工・森孝一社長:
利便性を維持してもらいたい。それには地元も努力しなくてはいけない。それから「長崎・佐賀の連携」、長崎だけでは単発で終わってしまう。相互の連携をしていく

にぎわいを取り戻そうと佐賀県と鹿島市は駅周辺の再開発に取り組んでいる。周辺の観光地をのんびりとめぐる「スローツーリズム」の拠点として、観光客を呼び込む考えだ。

開業効果を一過性にしないためには…

西九州新幹線の利用者は約221万6,000人(2022年9月23日~2023年8月)。1日の平均は約6,600人。JR九州の古宮洋二社長は手ごたえを感じている。

JR九州・古宮洋二社長:
九州新幹線でもこの1年間では新型コロナ前の85%くらいなので、その分の差15%強は
開業効果だったのではと思っている

2023年10月には嬉野温泉駅の近くに新しいホテルも開業し、新しい人の流れや経済効果が期待されている。

開業効果を一過性にしないためには、通勤・通学や買い物など「普段使い」の利用客を増やしていくことも必要だ。

JR九州は長崎市内の大学や企業の始業時間を調べ、ダイヤを一部修正した。

JR九州 古宮洋二社長:
より利用しやすいダイヤをつくっていきたい(新幹線が)全ての駅に止まることが乗る方にとって良いかもしれないが、博多~長崎に行く方は途中止まると時間が長くかかる。長距離の速達性と近場の利便性を両立させることが一番の課題なので、利用状況を見ながら勉強したい。

新型コロナウイルスの影響から徐々に日常が戻ったこの1年、開業の効果をより高く広いものにするために、どういった取り組みが必要かこれからも模索が続く。

(テレビ長崎)

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