好きなアイドルやキャラクターなどを、さまざまな形で応援する活動「推し活」。

2021年には新語・流行語大賞にもノミネートされ、いまSNS上には、自分の“推し活”を発信する投稿が溢れている。

その市場規模は7000億円とも言われるが、一方で“推し活”にお金を使いすぎる若い世代への注意も呼びかけられている。

そんな多様化し広がる“推し活”の、現在のカタチとは?

“推し活”に関する著書を執筆している社会学者の中山淳雄さんと、博報堂コンテンツビジネスラボの谷口由貴さんが「“推し活”ビジネス最前線」について語った。

そもそも“推し活”とは?

――この“推し活”というのは、いつからできた言葉なのですか。

中山淳雄さん:

20年前くらいからあるのですが、 “推し”がどのくらい「ツイッターでバスっているか」「ツイートしているか」というのをずっとたどっていたのです。

社会学者・中山淳雄さん
社会学者・中山淳雄さん
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(“推し活”という言葉の使用数が)上がっていったのが2017~18年くらい。17、18年ぐらいからグワーッと上がって、ちょうどコロナになった時に爆発した。

今は成熟期というか、ある程度安定してきている。

――誰が“推し活”と言い出したのでしょう。

中山さん:

最初に出てきたのはAKB48がCDで、選挙をやっていた時。

あれでやっぱり“推しメン”がいて「トップにしていくぞ」という。

――“推しメン”からそれをサポートする活動で“推し活”になっていった?

中山さん:

なっていったんですよ。

――なんとなくですが、コロナ禍でみなさん“推し活”する何かを探していた気がするのですが。

谷口由貴さん:

その頃(コロナ禍)って私たちは時代背景的にも、何ともいえない不安を抱えてみんな生きていた中で、精神的なよりどころをみなさん必要とされていたのかなと。

そんな時に今までテレビや雑誌でメディア的には接触するようなアイドルが、YouTubeなどの動画サイトでの「デジタル接触」の場が増えた。

博報堂コンテンツビジネスラボ・谷口由貴さん
博報堂コンテンツビジネスラボ・谷口由貴さん

コロナ禍ぐらいでそういうコンテンツがいっぱいたまって、急にハマった人がその“推し”に対しての動画を見まくれるという時期が、(コロナ禍に)ちょうど来たというのもあったと思います。

――「ファン」と「推し活」というのは違うものなのでしょうか。

谷口さん:

「ファン」は主にYouTubeの動画を見るといったことなどに留まってしまう人。「推し活」は例えばCDを買って応援する、ストリーミング再生してという、何かしらの貢献行動を行うところまできている人を“推し活”を行う人と考えています。

中山さん:
僕は学生とよく話すのですが、立ち読みで面白かったコミックをもう読まないんだけど、買うんですよ。それは「ありがとう」の気持ちなんです。

いいものを作ってくれてそこで貢がないと、やっぱり次、連作が出ないよね、と。

いわゆる“貢献する”というのは重そうに見えるんですけど、昔のオタクと今の“推し活”ユーザーは全然違うものだと思います。

今、高校生の女子で“推し”が「いる」か、「いない」か。「いる人」は9割なんですよね。X(旧ツイッター)があるので、「自分は何々が好き」と公言しなきゃいけないし、非常にカジュアルな人が今、“推し活”をしている。

“推し活”3つのタイプ

“推し活”をする人には3つのパターンがあるという。

(1)プロデューサー型
(2)アンバサダー型
(3)スポンサー型

(1)「プロデューサー型」

谷口さん:
「プロデューサー型」は、“推し”に「認められたい」「認知されたい」みたいな気持ちを原動力に“推し活”をされていること。

コミュニティーリーダーのような感じで企画をしたり、ファンコミュニティーを盛り上げるところに貢献している方々。お金も時間も結構使う感じです。

“推し”の誕生日に誕生日会を企画したり、一番すごいなと思うのが駅広告。“推し”の誕生日に「おめでとう」という駅広告を募って出すことがある。

「センイル広告」という韓国から広まった文化で、駅広告を出すために出資額を募ったりするのですが、実際に素材とかも事務所側が使っていいという公式の素材を用意していたりもするんです。

中山さん:
新世代な感じですよね。

「プロデューサー型」はみんなをパッと集って集合させることができる。

「推し広告でしょ?みんなでやりましょう」と1万円ずつ集めて30万円ぐらいで(応援広告を)出しました。満足度が高いし、(アーティスト)本人が認知してくれるんですよね。「あ!俺がいる」と。写真に撮ってSNSに乗せた瞬間、完成ですよね。「( “推し”に)届いた」と。

――それは本人にちゃんと届く?

谷口さん:

届くことも結構多くて、韓国のアイドルだったとしても、日本でこういうことが起きているんだとSNS上に知れ渡るので、何かしらのライブ配信などで「あれ見たよ。ありがとう」といったコメントが来るというのも、やりがいがありますね。

(2)「アンバサダー型」

谷口さん:
“推し”のファンを増やしたという気持ちを原動力に活動されていること。

私がインタビューした中では、1人の友達のためだけに、わざわざ推しポイントをまとめた1枚の紙を作って渡す。

実際に紙を作っている時に、改めて過去の“推し”の動画とかを見直すんですよ。だから見直している時に改めて「やっぱり“推し”最高!」となって、よりハマるらしいです。

その他にも、SNSに“推し”情報発信専用のアカウントを作ったり、推しの魅力を語るライブ配信をしたりするなど広報的な活動をするのもアンバサダー型。

この子はこういうポイントを訴求すると絶対“沼る”から、本当に1to1(一対一)マーケティング的に“沼らせ”にいくといった行動もしていたり、“推し”の推しポイントを友達だったりSNSで広めていくような型になります。

(3)「スポンサー型」

谷口さん:
“推し”の目標をかなえたい、というところを原動力にお金を使うようなこと。

例えばオーディション番組で、投票して“推し”をデビューさせよう、CDをたくさん買ってチャート1位にしようとか。

チャートって今、動画だったり、ストリーミングだったりのチャートもあるので、そういうのを全部回して、とにかく夢をかなえる、目標をかなえようというような型になります。

CDだったら一気に数百枚とか買ってしまうという方もいますし、例えば“推し”とビデオチャットができるとか、実際に握手会っぽいことができるようなものの応募のためだったりとか。

トレカが入っていてそれをとにかく回収したい、コンプリートしたい。いろんな目的があったりもするんですけど、その背景にはやっぱり、いっぱい買うことで売り上げ1位にしたいというのが共通して持っているみたいです。

特にこの「スポンサー型」は一番お金を使うタイプなので、ちょっと自分の収入に見合わないぐらいの支出をされている方もいらっしゃいます。

中山さん:
「推し活ユーザーの統計」を見ると、(月に)平均でだいたい1万~1万5000円使う。大人になってくると30代で2万円とかですが、10万、20万円使う人もいっぱい知っている。

年収250万円ぐらいの方が150万円ぐらい使ったりするんですよ。

ちょっと多すぎなんじゃないですか?みたいな話も出かかるんですけど、言えないくらい…。本人としては「いや全然(負担じゃない)」という。感情効果がすごく強い上に、ある程度リミッターが振り切れることがあるということです。

谷口さん:
本当に精神的な「よりどころ」にもなっているので、その分のお返しとして貢献したいなということで、いろいろな貢献をされているのかなと思います。

“推し活”という構造が、“推し”から供給があるので、こっちは貢献するという、そこのエコノミー的なものが出来上がっていて。

“推し”がいるおかげで、「自分の生活が成り立ってる」じゃないですけど「仕事頑張れるな」とか、だから「その代わりCDをたくさん買って応援しよう」という関係性になっているのかな。

中山さん:
やっぱりお金を使った時のリアクションがきちんとあることが、僕は多分加速をしている理由だろうなと思うんです。

今はSNSがあるので「趣味がいいモノを(ファンから)もらいました」と言って、(“推しが”)写真をあげるんですよ。

すると「あ、届いた」「本人(身に)着けているな」と、反応が見える。インタラクティブになったことで、きちんと結果が見える。

推し広告もそうですが、多分10年前にはなかったものなんじゃないかなと思います。

――日本の“推し活”市場はすごい規模ですが、韓国のアイドルはどのように見ていますか。

中山さん:

韓国の方が市場が小さいんです。

日本で大体3000~4000億円だった音楽市場が、韓国は1000億円いかないくらい。

それで東方神起、BoAの時代からKARAや少女時代など日本にどんどん来ていたじゃないですか。BTSの売り上げを見ると、やっぱりもう国内の売り上げよりも海外の方が大きい。

――そういう意味では韓国アイドルを推して、新しいビジネスモデルに遭遇することが結構あると思うんですが。

谷口さん:

やっぱり韓国の方がよりインタラクティブなサービスが多かったりして、いま日本でもあったりするのですが「ヨントン」という、一対一で話せるオンラインだったり、リアルで話せるようなものがあったり。

それもCDをいっぱい買って応募して抽選して、当たったらという感じだったり、あとはお金を払ってチャットができるサービスも出ていて、徐々に日本にも入ってきているようです。

スポーツ選手も“推し活”

――今、“推し活”の中にスポーツ選手を応援するというのも入ってきていると聞きました。

中山さん:

インタラクティブ性を持たせて、「アスリートだからファンサービスなんかやっている暇はないよ」「俺は練習したいんだ」という中で、ちょこちょこ写真もあげていくし、本人がちょっとだけライブ(配信)をやるなど、そういうこともあったりして、(アスリートの)5%位のイメージですかね、そういうアスリートは増えてきた感じはします。

――その辺、チームというのも何となく分かって運営しているところもあるのでしょうか。

谷口さん:

そうですね。特にバスケットボール、Bリーグがうまいなと思っています。例えばチームの公式のYouTubeで最近見たのが「抜き打ちカバンチェック」。本当にYouTuberの企画ものの動画みたいな。

もちろん選手のプレーとかも分かるんだけど、どっちかというとキャラとかそういったものが分かるような、楽しめるような、そういう動画が結構増えて、明らかに“推し活”層を楽しませようとしているなという感じです。

プレーを間近で見る目的ではなくて、“推し”を近くで見るという意味で、席を予約される方もいらっしゃいます。

トラブルに巻き込まれる若者も

――警視庁は「過剰な推し活は生活の乱れにつながります」と呼びかけています。

中山さん:

市場が大きくなると例外的にすごく熱狂した人は必ず出るんです。

多分助長しちゃえば際限なくできるし、そこは一線を引かないと、どんどんエスカレートし、エスカレートしたユーザーさんとだけ付き合っていくことで儲けようという業者もいると思うんですよね。

警視庁生活安全部公式X(旧ツイッター)より
警視庁生活安全部公式X(旧ツイッター)より

谷口さん:
メジャーなコンテンツも、やっぱり握手会参加のためにいっぱいCD買わなきゃと、そう言ってはいないけど、そういう仕組みになっていたり。

最近だとストリーミングサービスの再生キャンペーンがあって、いっぱい回してくれた人から、上位でサインが当たりますといったこともあったりする。

そうなってくると実際にCDが何枚売れて、ストリーミングでこれだけ再生されたけど、それは本当は一部の人がいっぱい回しているだけで、真の音楽ヒットじゃない。

そうした課題も浮き彫りになりつつあるので、“推し活”を楽しむ人はこうしたことも頭の片隅に入れながら、楽しむのがいいのかなと思います。

(週刊フジテレビ批評」10月21日放送より/聞き手:渡辺和洋アナウンサー、新美有加アナウンサー)