音楽業界である“快挙”が達成された。
音楽ユニット・YOASOBIの楽曲「アイドル」が、YouTubeの世界楽曲ランキングで首位を獲得。
1週間で4190万回視聴され、そのうち海外からの再生回数は約45%。韓国で1位を獲得した他、アメリカで90位、イギリスでも92位に入った(※YouTube music charts TOP100 songs Global ※6月30日~7月6日)。
また「アイドル」はビルボードのアメリカを除いたグローバル・チャートで日本語楽曲として史上初めて1位を獲得(米ビルボード・グローバル・チャート“Global Excl.U.S.”※6月10日付)。
海外ファンも「アイドル」の曲に合わせて踊る動画をこぞってTikTokに投稿するなど、世界で大ヒットとなっている。
今回は、音楽ジャーナリスト・柴那典さんと博報堂コンテンツビジネスラボ・谷口由貴さんが「日本の楽曲が世界でバズるワケ」を語った。
TikTokで発掘!最新注目アーティスト
――2人が最近気になっているアーティストは?
柴那典さん:
僕は「NewJeans(ニュージーンズ)」ですね。
(※「NewJeans」去年7月にデビューした韓国の5人組ガールズグループ。1stシングル「OMG」はオリコンのCDとデジタル合算ランキングで1位を獲得)
去年のデビューから世界的に社会現象のようなヒットになっています。K-POPのガールズグループなのですが、ただ人気があるだけじゃなく、世界観や美学みたいなものも含めて、すごく洗練されている。
谷口由貴さん:
実はまだテレビにも出ていない方なのですが、紫 今(むらさき・いま)さん。
(※紫 今さん:次世代シンガー・ソングライター。TikTokやYouTubeに楽曲を投稿。作詞・作曲・編曲・MVのイラストや映像編集まで全てを自分でこなす)
TikTokを見ていて、パッと目に止まったのですが、作曲歴がまだ2カ月で、独学で作曲を学んだ方です。
でも実際聴くと、本当に2カ月とは思えないようなクオリティーの楽曲を出されていて、ずっと注目して見ていたら、今はYouTubeでの再生回数が、先月出た曲でも100万回再生超えを達成しています。
――TikTokで最初に見つけるんですね。
谷口さん:
やっぱり最近はTikTok発のヒットが多かったりするので、最初に新しい風を吹かせている人がいっぱいいらっしゃるなと感じます。
今は作曲を学んですぐヒットするという方が増えていますが、時代的にも生成AIや、勝手に曲を作ってくれるという時代にもなってきている。
独学で学ぶことすら本当は今ハードルが高いですが、そのハードルがもっとAIの力で下がっていって、みんなが好きなハイクオリティな音楽を作るようになっていくのかなと思います。
初の快挙!「アイドル」世界的ヒット
――アメリカ・ビルボードのグローバル・チャート、アメリカを抜いて世界で聴かれている曲の6月10日付のランキングで、YOASOBIの「アイドル」が日本の楽曲で初めて1位を獲得。そのまま7月1日、7月8日付のランキングでも、再び1位を獲得しています。
柴さん:
まさに快挙と言っていいと思います。
これまでは10位以内に入ってくる楽曲というのはいくつかあったんですが、1位というのはなかった。
――実際にどこの国・地域で「アイドル」は聴かれているんですか?
柴さん:
Spotifyのデータで、台湾で最高3位、韓国で最高6位、香港、タイ、ベトナムでもトップ100に入っている。
もちろん日本が圧倒的に多いんですが、アジア諸国に広がっているということが言えると思います。
――日本語の歌唱なのに、1位を取る、その背景には何が?
柴さん:
日本語版の曲があがった1カ月後に英語版もあがっている。
――「アイドル」は英語版が海外で聴かれているんですか?
柴さん:
両方ですね。やっぱり英語圏の方々にとっては、英語版を聴けば歌詞の意味がわかる。
――谷口さんはこの1位ということについて、どう感じていますか?
谷口さん:
日本の楽曲はアニメソング中心に、世界で流行しやすいという傾向がもともとあったんですけど、YOASOBIの「アイドル」は、もちろんアニメとセットで一緒に売れていったというのもあると思うんですが、TikTokで「アイドル」の楽曲のみがどんどん回っていって、そこでもヒットしているという事実もあるので、やっぱりすごいことかなと思います。
2つの世界的ヒットの要因
【世界的ヒットの要因(1)】「曲調がコロコロ変わる」
柴さん:
YOASOBIの曲はそもそも曲調がコロコロ変わるものが多いのですが、この曲に関しては本当にいろんな要素がたくさん詰め込まれている。
例えば、イントロはBLACKPINK(ブラックピンク)やK-POPのアーティストをイメージさせるような、ちょっと強いアタックの音が鳴っているが、メロディーが始まると、YOASOBIらしい、スピードが速くてパッセージが飛び回るような。
そして中盤ではぐっとテンポを落として、遅いビートのラップをやっている。展開が普通の曲の2倍くらいは盛り込まれている。
谷口さん:
曲の展開が多いことで、楽曲の表面積が増えるということが起きていて、例えばK-POPが好きな人もいれば、ヒップホップが好きな方もいる。
そうした人たちが、YOASOBIの1曲に刺さるような要素がそれぞれ用意されているので、そうやって誰かしらに刺さるような曲の構造になっているのかなと思います。
――それは狙って作っていけるものなんですか?
谷口さん:
私が勝手に考えているのは、AyaseさんはTikTokの使い方を前提に考えて、いっぱい展開のある曲を作ろうとされているんじゃないかな、と思っています。
柴さん:
僕が思うには、YOASOBIが去年の暮れに海外で初ライブをやったということがすごく大きい。つまり自分たちが立っているステージは決して日本人だけが相手ではない。
むしろインドネシアやフィリピンの子たちがYOASOBIの曲でめちゃめちゃ盛り上がってくれたそうなんですね。「じゃあ、それにさらに応えるものを作ろう」という意識が変わったんじゃないかと思います。
戦略的な楽曲の認知拡大
【世界的ヒットの要因(2)】「TikTokでのバズり」
柴さん:
YOASOBIはTikTokでの楽曲の認知を広めるということを、非常に戦略的にやっていると僕は思いました。
――曲の発表が4月12日。4月24日にTikTokライブをやっている。
柴さん:
TikTokライブは生のライブだったので、同時視聴ユーザー数も、累計の視聴も当時の日本人アーティストの歴代最高。
谷口さん:
TikTokはフォローしている人を見るのではなく、フォローしてない人をランダムに見るプラットフォームだと思うので、そういう意味では私のフィードにもたまに海外の方の投稿も入ってくるし、逆を言えば韓国の方のところに、「アイドル」の楽曲を使った投稿が流れてくることもあるので、より広く広まりやすい。
今回はたまたまですが、アニメの内容的に「アイドル」がテーマなので、日本で今、“推し活”も流行っている中で、推しの紹介をする動画にすごく使われて、ミーム化(人がまねをして拡散する現象)していったというのもある。
時代的にもすごく合っていたし、使う理由があったというのは、すごく大きいヒットの要因になっているのかなと思いました。
海外で注目集める日本人アーティト
谷口さん:
ダンス&ボーカルグループの「ONE N’ ONLY(ワンエンオンリー)」 という男性のグループ。
(※「ONE N’ ONLY」6人組ダンス&ボーカルユニット。特にアジア・中南米・欧州で人気。TikTokのフォロワーは日本人男性音楽アーティスト1位の580万以上)
もともといろんな国のヒットソングをダンスカバーして、TikTokにいろいろと動画をあげていたグループ。それがブラジルでヒットしている曲をカバーした際に、ブラジルの人がすごい「ONE N’ ONLYいいね」となった。
ブラジルでは“第2のBTS”と言われるくらい人気で、今は単独ツアーをブラジルでやったり、活躍されている。
YouTubeのコメント欄はポルトガル語が多い中にも、日本人の方で「こんな人いたんだ」と発掘している人もいるので、逆輸入的にもジワジワときているんではないかなと思います。
柴さん:
僕が注目しているのは、「imase(イマセ)」 というアーティスト。
(※「imase」2021年12月メジャーデビュー。22歳の“新世代男性アーティスト”。若い世代から支持され、CM主題歌やドラマタイアップなどで活躍)
「NIGHT DANCER(ナイトダンサー)」という曲がこれもTikTokからバズるようになった。
韓国で「Stray Kids(ストレイキッズ)」や、いろんなグループがダンスを踊るようになって、そこから火が付いた。日本よりも先に韓国でブレークしていると言えるかもしれないですね。
TikTokのアカウントを見ると、いろんな曲をサビだけとか投稿しているんです。10曲、20曲あったりするんですが、配信されている曲はもっと少ない。
これは僕の推測ですが、TikTokって何がバズるかは分からない。分からないんですが、たくさん曲を出すと「これはバズった」「これはそうでもない」という違いが出てくる。
つまり、試行錯誤でトライ&エラーをして、「あ、この曲はバズりやすいんだ」となったら、そこからフルを配信でリリースして、さらにそのいろんなバージョンを出して、広げていく。
その反応を楽しみながらやっているというのが、本当に今、一番新しい世代のアーティストのクリエイティブだなと思います。
柴さん:
他にもEve(イブ)というシンガー・ソングライターがいます。
(※「Eve」VOCALOIDなどの歌い手出身のシンガー・ソングライター。小説や漫画の原作・プロデュースを手がけるなど多方面で活躍)
Eveはもともと、ボカロカルチャーの中で、「歌ってみた」歌い手として活動されていた。
存在としてはAdoさんに結構近いところはあったりはするんですが、YouTubeに公開されているミュージックビデオ、特にコメント欄を見たりすると、本当に各国語なんですね。
英語だけじゃない。例えばロシア語もあったり、中東の言葉もあったり。
ミュージックビデオがアニメーションである、顔も出していない、非常に謎めいた匿名的な存在である。
であるが故に、いろんな国の人達が自分のものだと。つまり映っているのが日本人だったら日本人のアーティストという風に見るわけなんですが、日本にとどまらない存在感を出すことができるようになってきている。
これは必ずしもアニメの主題歌をやらずとも、音楽自体がアニメーションの映像と結託することで海外に広がっていくという例の代表だなと思います。
“顔”を分かってもらうためにできること
柴さん:
TikTokでバズるのは大事なんですが、バズることばかり狙っていて、バズった後に認知を支持に広げる。そこは実はアーティストの思いを伝えること。
そこに関してはテレビ局の質の高いドキュメンタリーやインタビュー、音楽番組など、良質な音楽番組というもののノウハウもあると思います。
最近はそれを地上波だけではなく、それこそYouTube 配信も含めて多言語展開していくことも可能ではあると思うので、アーティストをどう掘り下げ、どう魅力を見せていくのか、できることはまだまだたくさんあると思います。
谷口さん:
TikTokとテレビ、実は共通点があるなと思っていて、TikTokはオープンで、いろんな情報が勝手に入ってくる。
テレビもパッと見たら、知らないアーティストが映っているということもあるので、テレビをきっかけにそのアーティストを知って、「何だこの曲いいね」となる方もたくさんいらっしゃるので、まだ認知されてない人を「いいですよ」というのを伝える手段にはすごく機能しているなと思います。
(「週刊フジテレビ批評」7月15日放送より/聞き手:渡辺和洋アナウンサー、新美有加アナウンサー)