サツマイモの品種の一つ「コガネセンガン」。鹿児島県の特産品、イモ焼酎の原料となるなど鹿児島の経済を支える品種だが、品種改良の末にこの品種を生み出した坂井健吉さんが2023年7月、老衰で死去した。
坂井さんの功績とコガネセンガンから新たな特産品を生み出す地元の頑張りを追った。

鹿児島の経済を支え続けるコガネセンガン

2021年、鹿児島・大隅半島の鹿屋市に、コガネセンガンを生み出した坂井健吉さんをたたえる記念碑が建立された。

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坂井さんは芋焼酎が大好きで、飲めばいつもサツマイモの話をしていたという。

かつて坂井さんは、鹿児島市にあった国のサツマイモ試験場で、品種改良に取り組んでいた。世界中からイモを取り寄せては日本の品種と掛け合わせ、鹿児島の風土に合ったサツマイモを探し続けること13年。長年の努力が実を結び、コガネセンガンが誕生した。

コガネセンガンを生み出した坂井健吉さん
コガネセンガンを生み出した坂井健吉さん

生前、坂井さんは鹿児島テレビのインタビューに「私の全知全能を傾けた品種で、こんな立派な品種ができるとは思わなかった」と答えている。

コガネセンガンは1966年に品種登録され、災害に強く様々な用途に適したため、サツマイモの生産量日本一を誇る鹿児島で主力品種として活躍。半世紀以上にわたって、今も鹿児島の経済を支え続けている。

賞味期限「15分」“超こだわり”スイーツ

その鹿屋市郊外にあるカフェ「南風ガーデン」で、このコガネセンガンを使った“超こだわり”のスイーツが生まれていた。

直径わずか1ミリの穴から絞り出されるコガネセンガンのペースト。口に入れると、あっという間に溶けてなくなるこのスイーツには、パティシエ・郷原拓東(ひろはる)さんのこだわりすぎるこだわりが、ぎゅっと詰まっていた。

サツマイモを使った菓子作りを得意とする郷原さんは、農家顔負けの知識と探究心が自慢だ。

南風ガーデン・郷原拓東さん:
土の中には微生物が住んでいる。イモと一緒に生物がたくさんいる土を作らないといけないと思っている。山から腐葉土を持ってきてまいたり、錦江湾の海水をまいたりして、土作りからこだわっている

産地でしか味わえないサツマイモスイーツ

こだわりのコガネセンガンを使って、どんなケーキができるのだろうか?

コガネセンガンはとにかく鮮度が命だ。皮をむくとすぐに変色してしまうので、水を流しながら手際よく下ごしらえする。

スライスしたら95度の蒸気で柔らかくなるまで蒸しあげる。
柔らかくなったイモをミンチ状にしたあと、さらに裏ごしすれば、口当たりのよいコガネセンガンのペーストが完成だ。

裏ごししたコガネセンガンのペースト
裏ごししたコガネセンガンのペースト

あえて何も加えず、コガネセンガンの味だけで勝負する。

大きなプレートにのせるのは、サツマイモを混ぜて焼き上げたサクサクのメレンゲにサツマイモだけで作ったケーキ、さらにバニラのジェラートを重ねる。ここで先ほどのコガネセンガンペーストを80度に温め、冷たいジェラートの上に絞り出すのだ。

細さは、通常のモンブランの3分の1、わずか1ミリ! -16度で冷やしたジェラートと合わさると、何とも言い表せない口溶けを生み出し、サツマイモの優しい甘みが伝わる。

このバランスを最高の状態で食べてもらうため、設定された賞味期限はわずか「15分」。ハーブティーとセットで1,800円だ。

郷原さんは、「産地でなければ食べられないおいしさをテーマにした。コガネセンガンは熱々の蒸したてが一番おいしい。『イモのおいしさはこれなんだ!』というのをまず楽しんでもらいたい」とアピールする。ここに足を運ばなければ味わえないコガネセンガンの限定スイーツだ。

鹿児島に根付くコガネセンガン 坂井さんの思い

コガネセンガンの生みの親、坂井さんは第一線を退き、茨城で暮らしていたが、たびたび鹿屋市で講演や栽培方法の指導に励んできた。

しかし2023年7月1日。老衰のため、98歳の生涯を閉じた。

10月5日、鹿屋市で行われたお別れの会では、菓子メーカーや焼酎会社などコガネセンガンにゆかりのある人たちが、坂井さんへ感謝の気持ちを伝えた。

お別れの会で坂井さんへ芋焼酎を供えた
お別れの会で坂井さんへ芋焼酎を供えた

ずっとイモの話しかしなかったという坂井さん。「坂井健吉先生には感謝しかない」と参列者は話した。
生前、坂井さんは「私よりコガネセンガンの方が長生きするでしょうね」と語っていた。コガネセンガンはその言葉通り、この先もずっと鹿児島の地に根を張り、新たな魅力を発信し続けるだろう。

(鹿児島テレビ)

鹿児島テレビ
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