高校生などの国内大会の陸上100mで1年生ながら立て続けに優勝し、脚光を浴びた女子高生がいる。小針陽葉さんだ。2年生になった2023年はケガで挫折を味わったが、それを乗り越えパリ五輪をめざし前を向く。彼女を救ったのは同じ辛い経験をした恩師の言葉だ。
高校1年で全国大会を次々と制覇
この記事の画像(14枚)静岡県の富士市立高校2年の小針陽葉さん(16)は、2024年パリ五輪への出場をめざしている。「リレーのメンバーで出たい」という。
小針さんは入学からわずか4カ月後の2022年8月のインターハイで、得意とする100mで準優勝、200mも準優勝だった。
その後も100mでは10月上旬の国体(少年女子)で優勝、さらに10月下旬のU-18陸上大会では、「11秒65」と高校1年の日本歴代2位の記録で日本一になった。1年生ながら立て続けに高校年代の全国大会を制覇し、将来を期待されるスプリンターとして注目を集めた。
陸上一家の“遊び”が体幹を強化
彼女のスピードの秘密は「スイング」にある。「スイング」とは、走っている時に後ろ足を前に持ってくる動作で、それを素早く行うことで回転率が上がり、前への推進力が生まれる。彼女の走りは回転率が高く歩幅も大きいため、好タイムを出すことができるのだ。
さらに家庭環境が、強い体幹を作り上げた。小針さんは両親が監督やコーチを務めた陸上クラブで競技を始めた。姉と兄も陸上競技で活躍した陸上一家だ。
家には不安定な足場でバランスをとるトレーニング器具があり、小針さんは「姉に『やってみな』とすすめられ、やってみたら楽しかったので始めた。私の遊び道具でした」と笑う。
幼少期から続けた“遊び”で自然と体幹が強化され、ぶれない軸が無駄のないフォームや爆発的なスピードにつながったといえそうだ。
大会直前にケガ「辞めたい」
2年生になっても進化は続く。2023年5月の静岡国際陸上では、200mで高校歴代3位のタイム23秒52をたたき出した。
続く春のインターハイ予選も静岡県大会、東海大会とも100mを制し、「東海一のスプリンター」に輝いた。東海大会では走り幅跳びでも優勝し、全国大会にむけ弾みをつけたかのようにみえた。
しかし8月のインターハイを目前にした7月下旬、アクシデントが襲った。右足太もも裏の肉離れだ。インターハイは東海ブロックで6位以内に入った選手しか出ることができない。「せっかくのチャンスを手放したくない」と、小針さんはテーピングをして100mに強行出場したが、本来の走りとは程遠く準決勝で敗退した。残りの種目は監督判断で棄権となった。
小針陽菜さん:
もう悔しくて悔しくて。会場に一緒に来てくれた他のメンバーには申し訳なかったけど、どうしても明るく振る舞えなかった。正直に言うと「陸上を辞めたいな。そう簡単にうまくいかないしな」と思った
これまでの取材ではいつも気丈に振る舞っていた彼女が、初めてみせた弱気だった。
同じ経験をした恩師の言葉に救われて
そんな時に救ってくれたのが、陸上部の西島多香子監督だった。
西島監督もケガに泣いた経験がある。インターハイの800mで2連覇した西島監督だが、大学時代にはケガで国体を辞退しなければならなかった。その時に味わった悔しさを、小針さんに伝えた。
西島監督は「自分を責めなくていいよ」と愛弟子をいたわり、小針さんはその言葉で気持ちが楽になったという。
富士市立高 陸上部・西島多香子監督:
ケガなしでいった選手なんていないので、自分のせいだと考える必要もないし、(気持ちが)落ちてもまた次に立ち向かえるような選手でいてほしい
恩師の言葉で少しずつ気持ちが上向いた小針さんは、自らを振り返り、不十分だったストレッチや筋力強化、フォームの改善など更なる“進化”を追い求め始めた。
小針さんは「ケガをして7~8割の力から始めることにより、今 悪いところはどこか、自分の調子が良かった時にどういう動きをしていたかがわかり、走りをどんどん改善していける」と、ケガをしたからこそわかったことがあると強調する。
富士市立高2年・小針陽葉さん:
人よりやることは大きく、夢も大きくありたい。なんでも一番が良いので(パリ五輪に向けて)どんどん自分の良い所を引き出せるような走りにしていきたい
挫折を乗り越えた期待のスプリンターは、陸上競技では12年ぶりとなる、高校生でのオリンピック出場に向け成長を誓う。
(テレビ静岡)