折り返し地点なのにSDGs達成度は15%
9月のニューヨークは活気づいていた。
国連総会ハイレベルウイークにむけ世界のリーダーや政府関係者らが4年ぶりに集結、国連本部周辺では多様な言語が飛び交い、国際色豊かな服に身を包んだ人たちが街を闊歩していた。

9月20日、交通規制や厳しい警備の中、何度も警察官に足止めをくらいながらなんとか目的地の国連本部の正面に到着すると、そこには各国の取材カメラがずらりと立ちならんでいた。
今回の私の“ミッション”は国連の敷地内に設けられた「SDGメディアゾーン」という場で日本のメディアの気候変動への取り組みについて話すことだった。SDGメディアゾーンとはSDGsの推進についての好事例を発表したり、今後どういうアクションを起こすべきかを議論する場だ。

SDGsは2015年の持続可能な開発サミットで採択され、2030年までの達成を目指す17の目標と169の具体的な項目のことである。
「SDGsが取り残される」国連事務総長の危機感
しかし、今年7月に出された「SDGs報告2023特別版」によると、達成する見込みがあるSDGsのゴールはたった15%で、大きく軌道から外れているものが50%、30%は2015年と比べて停滞かむしろ後退しているという。ジェンダー平等が達成されるまでには約300年かかると指摘されている。

そんな危機的な状況の中、今年はSDGs達成に向けたちょうど折り返し地点ということで、各ゴールの進捗を確認するとともに解決策について話し合う4年に1度のSDGサミットが開催された。
国連のグテーレス事務総長は、SDGsの理念「誰一人取り残さない」どころか、このままだと「SDGsが取り残されてしまう」と危機感を示した。
このSDGサミットにあわせて、グローバル・サステナブル・ディベロップメントリポート(GSDR)も公表された。タイトルは「Times of Crisis Times of Change(危機の時代 変化の時代)」。これをまとめた15人の研究者の1人はSDGsの研究で知られる慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授である。

このリポートには、科学的根拠に基づく各ターゲットの詳細な進捗比較や、これから進むべき道筋が示されている。
ここでも、解決の軌道に乗っていないものがほとんどで、新型コロナウイルスや自然災害の影響で貧困・飢餓などはむしろ悪化しているという。ただ、多くの国でとることのできる指標が36あり、そのうち「このままいけば達成可能」というものが5つあると指摘している。
科学的なアプローチに基づき、残り7年で政府・企業・民間などあらゆるステークホルダーが一緒になって持続可能な社会にむけた変革を加速していくことが重要で、今からでも「変えることは可能であり、変えなければならない」という強いメッセージが込められていた。
日本は「SDGs認知度90%の国」!?
最新の調査によると日本のSDGsの認知度は90%を超えているという(電通 第6回「SDGsに関する生活者調査」より)。これは世界的に見てもかなり高い数字で、実際私が日本のメディアだとわかると、“Oh, Country of 90 %!(SDGsの認知度90%の国)”と言われるくらい、日本のSDGsの認知度の高さは驚きをもって受け止められている。
こんなこともあった。
今回久しぶりに再会したアメリカ人の友人に出張の目的について話している最中に、「ところでSDGsってなんの略?」と聞かれたのだ。彼女は、長年金融機関に勤めていた女性で、ESG投資は知っているが、SDGsという言葉は知らなかった。たしかに、ニューヨークの街中でSDGsマークを見かけないし、胸に17色のSDGsバッジをつけた人もいない。つけているのは国連関係者くらいだ。
話はSDGメディアゾーンに戻るが、この度私たち日本のメディアに登壇の機会が与えられた理由は実はそこにある。
なぜ、日本の認知度はそんなに高いのか。
その大きな理由のひとつとしては、学習指導要領に組み込まれていることがあるが、企業やメディアが積極的に推進していることがかなり大きいと思う。
特にメディア各社は、SDGsウイークなどを設けて積極的に発信している。これはほかの国ではあまり見かけないらしい。
日本メディアは、国連が設けたSDG推進の枠組み「SDGメディアコンパクト」に世界で最も多く加盟し、その数は200を超えている。

今回のセッションでは、そういった背景を説明したほか、その結びつきを活用し日本のメディア155社がタッグを組んだ気候キャンペーン「1.5℃の約束」についても発信した。
とりわけNHKと民放5局が垣根を越えて制作した番組やキャンペーン動画に対しては、本来ライバル同士のテレビ局がタッグを組んだ例のない取り組みとして受け止められた。
認知度は高い一方で危機感薄い日本
SDGsの認知度は高い一方で、日本は実際のアクションにつながっていない点が問題視されている。とりわけ気候変動対策については危機感が少なく、どこか他人事のように捉えられているように思う。
9月20日に開催された「気候野心サミット2023」では、岸田総理が演説する予定だったが、その機会すら与えられなかった。日本の気候変動対策の遅れが理由のようだが、それを聞いた日本の国連関係者は驚きと屈辱感でため息をついていた。これでは、やっているふりをしているが実際は気候変動対策をやっていない「ウオッシュ」な国とみなされかねない。
大事なのは「公正な移行」
私が登壇したもうひとつのセッション「まったなし!地球沸騰化時代における気候アクション」(9月22日)では、国連経済社会局のエネルギー気候担当リーダー・高田実氏が「公正な移行(Just Transition)」について語った。

気候変動対策において世界が今取り組んでいるのは、産業革命以前と比べた地球の平均気温の上昇を1.5℃に抑えること。これをなんとか実現するためには、脱炭素の動きをより一層加速しなければならない。そのためにはまだまだスピードが足りないという。
それを加速する上で大事なのは、エネルギー転換によって一定の産業や労働者、地域が犠牲とならないよう「よりよい社会をつくりながら1.5℃を達成すること」、これを「公正な移行」と言っている。

ヨーロッパなどでは、「再エネ発電などで多くの雇用を創出し、経済発展にもつながっている事例がたくさんある。さらに、女性が多く活躍しているのは再エネ分野だ」と話し、「エネルギー転換によって新しい“機会”が生まれるので、20年後、30年後に人々がどういう社会でどういう生活を送っているのかを考えて、日本も後ろ向きではなくもっと前向きな議論をすべき」だとしめくくった。

SDGs達成への強い危機感とともに、わずかな希望にすがるように連呼された「変化」と「加速」という言葉。誰かがやるのではなく、みんなで動くために今何をすべきなのか、2030年までに残された時間はそう長くはない。
(フジテレビ社会貢献推進局 兼 報道局解説委員 木幡美子)