常勤の消防職員が勤務する消防署と異なり、火災や災害の発生時に自宅や職場から現場に駆けつける非常勤公務員が「消防団」。本業の傍ら“二刀流”で業務をこなす消防団員はどのような思いを胸に活動を展開しているのか。

「船を出せませんか」

桜島の野尻港。数百メートル沖合に1隻の砂利運搬船が停泊していた。

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建設会社の専務を務める濵元浩秋さん(58)。桜島の石材を錦江湾(鹿児島湾)内の港湾工事の基礎捨て石として運搬している。船とは35年の付き合いだ。

そんな濵元さんは33歳の頃から鹿児島市消防局の消防団に所属している。先輩方から「入ってくれないか」と頼まれたのがきっかけだという。

消防団員として活動を続けて25年の濵元さんに2023年9月、消防局の警防課から「船を出せませんか」と連絡があった。

通報から1時間…現場に到着

9月14日午後7時ごろ、現場は桜島・牛根地区近くの身代湾。桜島と大隅半島が陸続きになっている場所の近くだ。エンジントラブルを起こした漁船から男性が陸にあがる際、足を痛めて動けなくなったのだ。

小さな支援船で救助に向かった濵元さん。3人の消防隊員とストレッチャーを載せて、明かりのない夜の海を進んだ。

船を操る濵元さんの袖には「水難活動支援隊」のワッペンが。日頃から職場で船を操縦している技能が評価され、濵元さんは普通の消防団員が行けない場所に出動することができる。

たくさんの木が生い茂る身代湾
たくさんの木が生い茂る身代湾

濵元さんと船で身代湾に向かった。野尻港から約30分。たくさんの木が生い茂り、陸地からの救助は困難だったことがうかがえる。ちなみに出動の要請があったときは通報から1時間あまりで現場に到着した。

救助現場
救助現場

濵元さんが「ここです」と救助現場を指さした。先に1名、地元の分遣隊員が到着していたので連絡を取って救助した濵元さん。「ホッとしたというか。技能別消防団になっているが、役に立って良かったという気持ちだった」と振り返った。

鹿児島市消防局・前野康輔消防団係長は「即時に対応してもらえる。人員の動員力、地域への密着力が消防団の大きな存在価値」と、消防団員の活動を評価する。

桜島近海の状況を熟知する濵元さんのように地域の実情を知る消防団は、地域防災の要とも言えそうだが、課題もある。

鹿児島県内の消防団員は減少傾向が続いている。2023年4月時点で1万4510人、定員に対して2,000人以上足りていない。

“女性消防団員”の活動に密着

そんな中、鹿児島県内で目立ってきたのが女性消防団員の活動だ。現在、女性団員の数は約600人で、女性団員の消防技術を競う大会も開催されている。

日置市消防団・尾堂恵美さん(42)の職場をたずねた。普段は日置市の病院で栄養士をしている。患者の気持ちに寄り添い、患者さんが好きそうなメニューを入れたり、季節を感じられるようなメニューなどを入れたりと、楽しみを持ってもらえるように心がけているという。

そんな尾堂さんが友人の誘いを受けて消防団に入ったのは、2012年のこと。「地域に貢献できるという気持ちもあったし、自分の子供など身近な命を守れる技術を身に着けたいという思いもあって入りました」と話す。

女性消防団は、高齢者宅に防火訪問したり地域住民に応急手当てを指導したりしている。この日、尾堂さんは同僚と共に一人暮らしの高齢女性の家を訪れた。

「コンセントの周りのほこりはどうしている?」との問いかけに「気づいたら拭いたりほうきで掃いたりしている」と答える住人女性。尾堂さんは「漏電で火事も起きやすいのでたまに気をつけてください」とアドバイスした。

続いて「消火器はどこに置いていますか?」と質問。女性が「台所」と答えると、「できれば台所より玄関のほうが、誰かが気づいて助けに来てくれた時、消火器を握ってすぐに救助してくれる」と、消防団員として学んできた知識を分かりやすく説明した。

訪問を終えた尾堂さんは「普段から訪問を通して、市民の顔や状況を知っていくことが命を救うことにつながるのではと思う」と語った。

火事や災害が起こった時、どのようにして地域の人たちの命を守るのか。地元に精通した消防団員たちは日々、考え続けている。

(鹿児島テレビ)

鹿児島テレビ
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