これは“第5次中東戦争”の始まりなのだろうか?
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが7日、イスラエルに対して大規模な攻撃を始めた。「第4次中東戦争」が始まった1973年10月6日から50年目を迎えた翌日のことだった。それも、50年前は「ヨム・キプル」というユダヤ教の大事な祝日でイスラエル側が不意を突かれて狼狽したように、今回も「シェミニ・アツェレット」という祝日で、戒律を守って休息していたイスラエル側はハマスの奇襲に対応できず、900人以上の兵士や市民が殺害された。
ハマスの“狙い”は国際社会が「戦争」と認知すること
3000発以上のロケットが発射された攻撃は「テロ」を越えて「戦争」規模の衝突になり、イスラエルのネタニヤフ政権はハマスに対して宣戦布告を行った。

これで欧米のマスコミも、今回の攻撃を“第5次中東戦争”と受け止め始めた。
「今回の攻撃は、1973年以来ユダヤ国家にとって最悪の侵害になった」
(ニューヨーク・ポスト紙電子版・8日)
それこそが、ハマスの狙いだったのではなかろうか。

その狙いはウクライナ戦争と無縁ではないはずだ。
「強国が小国を武力で不法占拠している」というウクライナ戦争の対立の図式は、「イスラエルがパレスチナを不法占拠している」というパレスチナ側の主張に重ねることができる。そのためにも、この戦いを「テロ攻撃」ではなく「戦争」と国際的に認知させることが必要で、ハマスが初戦の猛攻撃でイスラエル政府の宣戦布告を引き出したことで、その目的を果たしたことになる。

これで、ウクライナが自由と独立を守るために侵略者ロシアと戦うことを「大義」と言うならば、イスラエルと戦うパレスチナにも「大義」があると国際社会に訴えることができることになる。その「大義」は今後のパレスチナへの支援に大きく影響するだろう。ハマスの攻撃に直接参加する国はないだろうが、物心の支援は大いに期待できるはずだ。
「石油戦略」でエネルギー危機の恐れも
そこで思い出すのが、やはり50年前の出来事だ。アラブ各国は戦闘では苦戦したが、アラブ石油輸出国機構(OAPEC)がパレスチナへの支援を目的に「石油戦略」を発動し、米国を中心とする親イスラエル諸国への原油の輸出が停止された。

日本でもガソリンなど石油製品不足が社会問題化し、なぜかトイレットペーパーが店頭から姿を消して消費者のパニックを引き起こす騒ぎになった。
今回もパレスチナはアラブ連盟の緊急会議の招請を求めており、イスラエルへの対抗策として「石油戦略」が討議される可能性は充分ある。

例えば、サウジアラビアは日頃、ハマスとは疎遠の仲だが、今回の「戦争」についてサウジアラビア外務省は次のような声明を発表している。
「王国は、占領の継続、パレスチナ人民の正当な権利の剥奪、聖域に対する組織的な挑発の繰り返しの結果、事態が爆発する危険性について、繰り返し警告してきたことを想起する」
これは、ウクライナ戦争でロシアを非難するのと同じレトリックではないか。
また、ウクライナ戦争ではロシアが西側諸国の制裁に対抗して石油、ガス供給を制限しているが、これにハマス支援の「石油戦略」が加わると深刻なエネルギー危機を招きかねない。

50年前、日本で中東戦争は「遠い国での出来事」と顧みられなかったが、トイレットペーパーがなくなると「マスコミはなぜ警告しなかったのだ」となじられた。実は報道していたのだが、読者や視聴者が関心を払わなかったのだ。今回も同じようなそしりを受けないように、改めてこのニュースに注目するようお願いしておく。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】