世も末なニュースを聞いた

自民党若手議員らによる「責任ある積極財政を推進する議員連盟」が、新たな経済対策をめぐり、政府に対し10%の消費税率を5%に引き下げる検討を行うよう求める提言を発表した、というニュースを聞いて、世も末だと思った。

「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の会合であいさつする共同代表の中村裕之議員(4日)
「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の会合であいさつする共同代表の中村裕之議員(4日)
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確かにGDPギャップはようやくプラスになったものの、外需頼みで内需は弱いから、消費減税をすれば内需は回復するかもしれない。

しかしゼロだった消費税を10%にするのがどれだけ大変だったか若手議員らは知っているのだろうか。

0%を3%にした竹下登氏、3%を5%にした橋本龍太郎氏、そして5%を8%に、さらに8%を10%にした安倍晋三氏。いずれも故人だが、罵声を浴び、大きな政治的ダメージを負いながら消費税を上げた。安倍氏は増税後も政権を維持したが、竹下、橋本両氏はすぐに政権を失った。まさに死屍累々なのだ。

高度な社会保障システムを誇る日本では、年金、医療、介護、福祉だけでなく少子化にも莫大な財源が必要で、消費税はいずれ13~15%へと上げることも考えなければいけないだろう。だから先人が苦労してようやく10%にした消費税を少なくとも自民党の議員には「5%に下げましょう」などとあまり簡単に言ってほしくないのだ。

野党である日本維新の会と国民民主党は消費減税を掲げている。これはまあ野党だし、わかる気もする。

枝野幸男氏の反省

一方でこの2党よりリベラルな立憲民主党は、一昨年の衆院選で5%への消費減税を公約に掲げたものの、当時代表だった枝野幸男氏が昨年になって、消費減税の公約は「間違いだった」と「強く反省」し、「二度と減税を言わない」と発言した。 

これにより立憲内では次期衆院選に消費減税を公約に入れるかどうか、まだ決められないでいるらしい。

立憲・枝野幸男前代表
立憲・枝野幸男前代表

私はこのニュースを聞いて枝野氏を見直した。もし枝野氏だけでなく立憲の少なくない議員が同様の意識を持っているのなら、立憲にもまだ政権担当能力は残っている。

税金は安い方がいいに決まっている。だが多くの民主主義国家が日本より高い消費税で社会保障を賄っている現状を見ると、消費税抜きで日本の社会保障を維持することは困難なのだ。

維新が消費税減税を言うのはわかる。同時に歳出削減も打ち出しているからだ。どちらかと言うと「小さな政府」の考え方だ。立憲は「大きな政府」を目指すなら消費税減税をしてはいけない。だから枝野氏は正しい。

安倍晋三氏はなぜ消費税を上げたか

では自民はどうなのか。実は自民も「大きな政府」のような気がする。それをわかっていたから安倍氏は消費税を2度上げた。安倍氏はそれだけの財源が必要なことも、また自分に消費税を上げる力があることもわかっていた。

消費税を2度上げた安倍元首相。口では「財務省にだまされた」と言っていたが…
消費税を2度上げた安倍元首相。口では「財務省にだまされた」と言っていたが…

結果的に2度の増税で、プラスだったGDPギャップはそのたびにマイナスに沈んだので、安倍氏は口では「財務省にだまされた」と言っていたが、本心では増税はやむを得なかったと考えていたと思う。

まあそれぞれの政治家の思いが込められて、消費税は現在10%になっているのだ。これを5%にしたら、10%に戻せる力のある政治家はいるのだろうか。

2012年に採決された消費増税法は民主、自民、公明の賛成多数で可決成立したが、この時に民主の小沢一郎氏らが大量造反し、後に離党し、民主は分裂した。議院内閣制の日本では、重要法案において政党の党議拘束に従わず造反した者は離党するのが筋だ。

2005年の郵政民営化法成立の際は造反した自民の議員は直後の選挙で公認を与えられず、離党または除名という処分を受けた。

この30年、自民は苦しみながら消費税を10%にした。一方で維新や枝野氏の主張も筋は通っている。だが自民の人が消費税減税を言ってはいけないだろう。どうしても言いたいなら離党してから言うべきだと思う。
【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ客員解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て報道局上席解説委員に。2024年8月に退社。