ジャニーズ事務所が開いた“2度目の会見”をめぐり、さまざまな波紋が広がっている。

その1つが、新会社の副社長に就任する井ノ原快彦氏による「子供たちも見ている」という発言。質問ができずにヒートアップした記者らに井ノ原氏がこう呼びかけたことに、SNSで異論が相次いでいる。

PR戦略コンサルタントの下矢一良氏に今回の会見の特異性と評価について聞いた。

ジャニーズ側のコントロール術

ーー今回のジャニーズの会見の印象は?

今回の記者会見を見て最初に思ったのは、前回の会見の反省を活かしてガードを徹底的に固めてきたという印象です。

下矢一良氏
下矢一良氏
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1つは、会見時間の制限。
時間を制約することによって、厳しい質問はどうしても出にくくなります。時間を区切ることで自分たちが失言する可能性が減ります。

2つ目は、1社1問ルール。
記者からの質問数を制限しました。

3つ目が、プロの熟練したフリーアナウンサーによる司会。

ジャニーズ側で場をコントロールしやすいように、1回目の反省をかなり取り入れてきたなという印象を受けました。

ーー会見中に記者が拍手する場面があったが?

これまでいろいろな謝罪会見を取材してきましたが、今回はかなり違和感を感じる会見でした。

ポイントとしては、井ノ原さんの「子どもたちが見ているでしょ」という発言です。
もちろん質問する記者の態度にもかなり問題があったとは思いますが、釈明会見で登壇者自身が質問者をいさめることは極めて異例です。

他の企業の社長や経営陣がやった場合はかなりの違和感を覚えたと思いますが、これがお茶の間の人気者の井ノ原さんだったため、それが軽減され称賛する声も一部にはあったと思います。

私は30年間この世界いますが、出席した記者が拍手するという姿は初めて見ました。

スポーツ選手の引退記者会見で、労をねぎらうという意味で長年取材してきた記者が拍手するということは稀にありますが、謝罪会見で記者が拍手するというのは前代未聞だと思います。

この期に及んでまだジャニーズ事務所に対して同情的というか、応援するような記者の取材姿勢は問題だと思いますし、そういう場を演出した井ノ原さんの巧みな“記者会見コントロール術”だと言えると思います。

「論点ずらし」で場の空気を支配

井ノ原氏の“落ち着いて。小さな子供たちも見ているから”という発言。

この訴えを下矢氏は、「論点ずらし」ともとれる巧妙な演出だと指摘する。

ーーネットでは「論点のすり替え」とも言われているが?

本人が意識していたかはわかりませんが、結果的に「論点ずらし」あるいは「糾弾の矛先を変える」という効果は十分にあったと思います。

また、ジャニーズに好意的なマスコミと、最初から批判的なマスコミに明確に分断することに成功した振る舞いでもありました。

ーー雰囲気はどう変わった?

もともとかなり場の荒れた会見だったと思いますが、それが一気にジャニーズを「徹底的に糾弾しよう」という記者と、ジャニーズに同情的で「これぐらいでいいんじゃない」という記者に分断されて、一種異様な雰囲気に変わったなと感じました。

今回の記者会見の特殊なところは、登壇されている井ノ原さん、東山さんが極めてテレビに慣れている“卓越した方”ということです。場の空気を支配する能力が、一般的な不祥事の釈明会見を行う経営陣に比べて格段にレベルが違うと強く言えると思います。

防戦一方だったジャニーズ側が、あの発言を機に、攻めとまでは言いませんが、自分たちの思っていること、自分たちの立場をより率直に言いやすい空気が醸成されたのは間違いありません。

ーージャニーズ側にとってそれは良かった?

今回の記者会見は、新しいジャニーズ事務所が再起を期す、被害者の方々への補償体制といったいわゆる不祥事に対する再発防止策を説明する場であったので、かなり不適切な発言だったと思います。

あの発言を機に、井ノ原さんは不祥事を起こした会社の経営陣という立場から、あたかも中立的な第三者のような位置付けに変わってしまいました。

会見のやり方としては巧妙だったかもしれませんが、ジャニーズ事務所として誠意を持って再発防止、あるいは、今後の対策を説明するという意味で適切だったかというと、私はかなり疑問に感じました。

特に「子どもたち」というキーワードは決定的にふさわしくなかったと思います。
自分たちの会社が起こした不祥事の起点となっている問題は子どもたちに対する性加害です。

自分たちの会社が“加害者”であるのに、「子どもたち」というワードを出して記者会見を支配しようとするのは、かなり問題があった発言です。

「1社1問」は不適切…記者側にも問題

会場には294人もの記者らが詰めかけた注目度の高い会見だった。

下矢氏は2時間の時間制限を設けた上、1社1問という質問形式は不適切だったとしながらも、記者側の振る舞いにも問題があったと話す。

ーー司会者が質問者を指名する「1社1問」方式は?

これだけ注目度が高く、かなりの人数が参加している会見なので、全員が満足いくまで指名されるということは、運営上難しいと思います。

一方で、1社1問形式は、不適切だったと感じます。
今回の会見は1つの区切り、事実上最後の会見になる可能性が高いので、とことん質問が出尽くすまで答えた方がジャニーズ事務所のためにも良かったのではと考えます。

私はさまざまな会社の不祥事の記者会見で、いわゆる「危機に際したアドバイス」を行うことが多いのですが、経営陣が失言をしてしまうタイミングは、ほぼ確実に2問目以降のタイミングです。

会見に登壇する人は社会的に地位があり、判断力もある人なので、1問目でいきなり失言することはまずありません。

なので、記者会見を防御する立場からすると、1問で区切ることで失言や問題発言の確率を極めて低くすることができます。

ーー質問する記者側に問題はなかった?

ジャニーズ事務所が制約を課しているからこそ、記者側は冷静に淡々と、紳士的に、論理的に厳しい質問をしていくという振る舞いが重要だったと思います。

自分が指名されないから怒号を飛ばすのは、記者の姿勢としてかなり逸脱したものだと私は考えます。

今回の記者会見に点数をつけるとすると、50点、合格点には達していません。

確かに2時間は失言なく乗り切れましたが、これまでジャニーズ事務所を応援してきた人たちが本当に心から納得して、その再起を応援したいと言えるものになっていたかというと、私は極めて疑問に感じます。