長崎は2023年8月9日で原爆投下から78年を迎えた。「生き残った後ろめたさ」を感じながらも、自分の被爆体験と平和への強い思いを伝え続ける92歳の女性が2023年の夏、1冊の絵本を作った。

絵本が伝える“当時の記憶”

2023年7月に発行された絵本「あの日のこと」。14歳で被爆した女性の戦争体験や苦悩、日常生活などがつづられている。

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あの日のことを、私は決して忘れることはできません。
私は十四歳で、長崎高等女学校の三年生。父と母、それに小六の弟、小三の妹、三歳の弟と暮らしていました。

―戦争を読む、平和を考える19450809「あの日のこと」よりー

文章とは対照的なのが色鮮やかな絵だ。日々の片隅にあった「青春」や「幸せ」を表している。

2023年7月、絵本の主人公である壱岐市生まれの被爆者、山口美代子さん(92※2023年7月取材当時)が長崎市の長崎原爆資料館を訪れた。

山口美代子さん(右手前)と吉澤みかさん(右奥)
山口美代子さん(右手前)と吉澤みかさん(右奥)

絵を担当した画家の吉澤みかさんと共に、絵本を資料館に寄贈した。

被爆者・山口美代子さん:
ウクライナ問題などいつも不安でしょ…世間が。いつ何が起こるか分からない時代。だから一人一人が平和を考えてほしい

画家・吉澤みかさん:
具体的に楽しかった場面はあまり入っていないんですけど、絵に精いっぱい込めたいなと描いた

戦い続けた“放射能の恐怖”

八月九日、その日も暑い日でした。
~中略~
「ピカッ!」
突然、フラッシュのように天井を光線が走りました。と同時に「ドシーン」という、天井が落ちるすさまじい轟音。

―戦争を読む、平和を考える19450809 「あの日のこと」よりー

山口さんが被爆したのは爆心地から1.4km、学徒動員先の三菱兵器製作所・大橋工場だった。

さらに、低空飛行の航空機からの機銃掃射も経験したという。

被爆者・山口美代子さん:
50、60cm間隔で線を引いたように撃ってくる。あれが一番、恐ろしかった

原爆投下から1カ月後に父親が亡くなり、山口さん自身も高熱と鼻血が続き、放射線の恐怖と闘いながら戦後を過ごした。

「戦争は絶対しちゃいけない」

現在、福岡で暮らす山口さんは犠牲者の慰霊を仲間と続けてきた。しかし高齢化で仲間もいなくなり、新型コロナウイルスの影響で被爆体験を話す機会も減った。

より多くの人に体験を伝えたい…。そんなときに出会ったのが吉澤さんだった。

画家・吉澤みかさん:
これは決して過去の風化された話じゃなくて、今につながってきている

被爆者・山口美代子さん:
戦争は絶対しちゃいけない。人間は話し合いできるんですから、戦争だけはしないようにしなきゃ。うっかりしたら…人類滅亡する

絵本の最後には英訳文もある。今後は、音声ペンなどでタッチすると山口さんが朗読した生の声を聞くことができる「仕掛け絵本」を制作することになっている。

絵本の最後には山口さんの願いがつづられている。

一九四五年八月九日、午前十一時二分。
この日、長崎の街で何があったのかー。
どうぞ忘れないで、いつまでも。

―戦争を読む、平和を考える19450809 「あの日のこと」よりー

(テレビ長崎)

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