自然豊かな日常を我が子にも体験させてあげたい…というファミリーのために、あるプログラムが生まれた。それは「保育園留学」。その取り組みに参加した家族に密着した。
2年で300組以上の家族が留学
清流長良川が流れる岐阜県美濃市。山あいにある寺の中に、木のぬくもりたっぷりの保育園がある。生後3カ月からの子供が通う「美濃保育園」。
一番の自慢は、“大自然”が子どもたちにとっての園庭であることだ。

家族みんなで田舎暮らしを楽しみながら、地方で忘れられない経験をするというものだ。
留学の受け入れ先は、美濃保育園をはじめ、全国30カ所以上。スタートからわずか2年で300組を超える家族が留学してきた。

この夏また一人、ドキドキの体験を控えた留学生がいた。りんくんこと、宮外倫太郎くん(3)だ。
大阪府茨木市に住む5人家族の宮外ファミリー。車で2時間半離れた美濃市で2週間過ごす。

りんくんは普段はとってもやんちゃだというが、果たして新しいお友達と仲良くできるのか?
りんくん家族が美濃保育園に到着。園の門で保育士さんが出迎えた。
保育士さん:
おはようございま~す
園舎から明るい声が聞こえだした途端、りんくんの顔がこわばる。母・真理子さんがなんとかなだめようとするが…
りんくん:
ん~!
りんくん、すっかりイヤイヤモードになってしまった。
そこへ、保育園の先生が「遊ぼ、遊んでいこ!」と明るく声をかける。やがて、おもちゃで遊びだすりんくん。先生の巧みな“引き離し術”で、なんとか留学がスタートした。

「保育園留学」という選択をした真理子さんには、ある思いがあった。
母・宮外真理子さん:
小学校・中学校と上がっていく時、どうしても学校が変わるごとに変化があると思うので、変化に慣れてほしいですね。ずっと同じところにいるんじゃなくて、“変化したら楽しい”“何か違うことがあったらもっと新しい世界が広がる”という感覚を身につけてほしいと思います

シェアオフィスを利用できる町も
保育園留学の売りは、家族が生活リズムを変えずに非日常を味わえること。りんくんを送り届けた真理子さんはすぐさまリモート会議に参加し、お仕事モードに入っていた。
美濃市の「保育園留学」ではシェアオフィスを利用できる。150年前の長屋を改装した建物で、歴史を感じながらテレワークに励むことができる。
ちなみに、家族が2週間暮らすのは広い一軒家。炊事・洗濯がいつもの要領でできるのは、大きなポイントだ。

日々の暮らしがこれだけのパッケージになっている保育園留学だが、気になるお値段は?
母・宮外真理子さん:
2週間で5人家族で40万円くらい。ちょっと高いのは高いんですが…

親にとっての楽しみはランチタイム。
美濃市が誇る美しい城下町、その名も「うだつの上がる町並み」。うだつとは、火事が起きた時に火が燃え移らないよう屋根の両端を一段高くする“防火壁”のことで、裕福であればあるほど豪華に高くうだつが造られた。
そんな江戸時代の古民家で、手打ちの十割そばをいただく。
ファミリーが観光やグルメを堪能し、地域にお金を落としてくれるということも、保育園留学が注目されるポイントだ。

さて、りんくんはというと…人見知り発動中!先生に背中を押してもらったせいちゃんが、りんくんを遊びに誘う。
おもちゃの線路をりんくんがつなげると…「わあ、いいね、いいね」と、せいちゃんが明るく声を上げる。
定期的に留学生がやってくることもあって、園の子供たちは新しい友達を受け入れるのがとても上手だ。保育園留学が子供たちの新しい一面を引き出してくれると、園長は受け入れ側として嬉しく感じている。
美濃保育園・雲山晃成園長:
新しい子が入ってくるというと、色々教えてあげたいという子供もいたり。プラスになっていると思いますよ、(受け入れる側の)子供たちにとっても

関西では和歌山・白浜町が新たに参入
そんな中、関西でも新しく保育園留学に名乗りを上げた町が和歌山県にあった。海水浴とパンダの町、白浜町。
多くの観光客でにぎわうイメージのある白浜町だが、実は年々、著しい人口減少が続く過疎の町でもある。

関西で初めての「保育園留学」事業化に向け奔走するのは、白浜町役場の鳴尾さん(42)だ。
白浜町企画政策係・鳴尾豪さん:
そもそも自分もここの卒園生なので。自分も良い思い出しかないので、都会の方ものびのびと過ごしていただけたらという思いがあります
留学の受け入れ先となるのは「日置保育園」。一番の自慢は、潮風が香る園庭に大きくそびえたつ木。
また、子供38人に対し、先生が16人も在籍していて、ゆったりと成長を見守ることができる環境もアピールポイントだ。

留学する家族が過ごす家も決まった。ふるさとに戻ってきた男性がオープンしたばかりというゲストハウスでは、Wi-Fiを完備。縁側でテレワークもできる。
ゲストハウス日置川荘オーナー・川井照夫さん:
子どもの声が聞こえたら“わあ、いいなあ”と感じるくらい、非常に寂しい村になっていましたんでね。何らかの形で雇用が生まれれば、少しの人でも留まっていただける
町民の期待を背負って、10月いよいよ留学生の受け入れを始める。
白浜町企画政策係・鳴尾豪さん:
最終的には移住につなげたいのですが、第2のふるさとのようにこの地域を気に入っていただけたらなと思います

大阪にはないプールの時間 はじめは恐る恐る…次第にニコニコ
一方、美濃市に留学したりんくんは、次なる試練に挑んでいた。りんくんが普段通う大阪の保育園にはないプールの時間だ。はじめはみんながはしゃぐそばで恐る恐る水に足をつけていたが、ひとたびすべり台に挑戦すると、顔に水しぶきを浴びながらニコニコの笑顔に。
そこへ先生から手渡されたのは、友達との距離が近づく魔法のアイテム。河原に揺れていたねこじゃらしだ。これでくすぐり合うと、自然と顔を見合わせ笑い声が上がった。りんくんもすっかり、ここの仲間だ。

母・宮外真理子さん:
大人になって悩んだ時に“しばらく美濃行ってみようかな”と思ったり、世界が広がる。友達を作って“また帰ってくるよ”というような関係性もできると嬉しいなと思っています
地方と家族をつなぐ「保育園留学」。未来が大きく広がる。

(関西テレビ「newsランナー」2023年9月25日放送)