核を含めて戦力強化を狙い、北朝鮮が「海」に踏み出した。最新映像を分析する。

“約1000キロを潜航”北朝鮮の「ヘイル2」

北朝鮮が9月に進水させた戦術核攻撃潜水艦「金君玉英雄」は、日本のほぼ全域が射程とされる巡航ミサイル「ファサル」など、最大10発を海中から発射することが可能だ。いずれのミサイルも、北朝鮮が「核弾頭」と主張する「火山31」を搭載可能で、核ミサイルの脅威を海に潜ませようとしている。

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さらに、7月の軍事パレードで公開された無人水中攻撃艇「ヘイル」は、「火山31」を搭載する2つのバージョンがあり、北朝鮮メディアによると「ヘイル2」は71時間6分かけて約1000キロを潜航した。

能勢伸之上席解説委員:
“泳ぐ核兵器”と言わんばかりのヘイルは、そもそもミサイルではないので、迎撃ミサイルは役に立ちません。また、一般に魚雷の速度は時速約60~100キロですが、「ヘイル2」の平均時速は、北朝鮮の主張通りなら約14キロ。これだけ遅ければ、スクリュー音の発生が抑えられ、音響センサーでの捕捉が難しく、物理的には海の中から本州・北海道の日本海沿岸そして九州北部に忍び寄る核兵器となりかねません。

ヘイルの上に立っている円や棒状のモノ(※黄色印)
ヘイルの上に立っている円や棒状のモノ(※黄色印)

ヘイルの上には、円や棒状のモノが立っている。潜航途中に海面上に突き出し、位置の確認や標的の指示を受けるアンテナやセンサーなのか。

能勢伸之上席解説委員:
1000キロも潜航するなら、偵察衛星や通信衛星との連携が前提かもしれません。北朝鮮は2023年に2回も衛星打ち上げに失敗しています。10月とされる次の打ち上げの前に、金正恩総書記がロシアの打ち上げ基地を訪問しプーチン大統領と会談したのも、衛星打ち上げへの並々ならぬ関心だったようにも見えます。

米最新鋭「USVレンジャー」が初寄港

北朝鮮が狙う、核兵器の海への進出。これに対しアメリカ軍は9月18日、日本に最新鋭の無人水上艦の試験艦2隻を初めて寄港させた。

無人水上艦は、敵に狙われやすい危険な海域で、空中や海上だけでなく、海の中の情報収集や偵察を行い、人間が乗っている軍艦に安全なところから作戦を行わせるものだ。

能勢伸之上席解説委員:
今回、日本に寄港したUSVレンジャーは、迎撃が難しいとされてきた極超音速ミサイルの迎撃が期待されているSM-6迎撃ミサイルの発射試験にすでに成功しています。将来的には、情報収集のみならず、様々な武装を持ち、敵を制する装備となる可能性が浮上しそうです。

核戦力を拡大しようとする北朝鮮と、無人の軍艦で戦いの在り方を一変させようとするアメリカ。その行く末が、日本の安全保障をゆさぶることになりかねない。
(「イット!」日曜安全保障 9月24日放送より)

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能勢伸之
能勢伸之

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フジテレビ報道局上席解説委員。1958年京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。報道局勤務、防衛問題担当が長く、1999年のコソボ紛争をベオグラードとNATO本部の双方で取材。著書は「ミサイル防衛」(新潮新書)、「東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか」(PHP新書)、「検証 日本着弾」(共著)など。