静岡県がリニア新幹線の工事を認めない理由のひとつが、工事で出る土砂の置き場だ。JR東海の候補地に難色を示している。この土砂置き場をめぐり、工事現場がある静岡市の市長が県の対応に注文をつけたが、県に反論され気色ばんだ。「あまりにもひどいですよ。それは世の中で評価されないですよ」と。
土砂の量を身近な公園でイメージ
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リニア新幹線は静岡市最北部の南アルプスを通る。静岡工区の工事で出る土砂は370万立方メートル、東京ドーム3個分だ。
![土砂置き場候補地の大井川・燕沢](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/5/4/700mw/img_54995cbe505d69f35833483b4bfd9ecf566630.jpg)
JR東海はこのうち360万立方メートルを、大井川上流の燕沢(ツバクロサワ)の約18万平方メートルの土地に盛土する計画で、高さは70メートルになる。
残りの10万立方メートルは、基準値を超える自然由来の重金属等を含む「要対策土」で、別の場所に盛土する。
![土砂量のイメージに用いた県庁東館と駿府城公園](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/1/a/700mw/img_1aa6b8cbf5fff551b79a550af931ab52948400.jpg)
静岡県は燕沢に盛土される土砂の量について、県民がイメージしやすいよう、「駿府城公園(約18万平方メートル)の広さに、県庁東館(約65メートル)を超える高さに盛土される」と説明している。
![トンネル工事が行われる南アルプス](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/6/2/700mw/img_62d9386429c8c9bbe9b7a5e261a6b716824684.jpg)
また、熱海土石流が発生した直後の「県民だより(2021年8月号)」では、「これ(370万立方メートル)は2021年7月に静岡・熱海市で発生した土石流災害で流出した土砂の約67倍に相当する莫大な量です。莫大というだけでなく、崩壊しやすい南アルプスの地質や大井川上流に接しているという位置から考えると、土砂流出や崩壊の懸念は拭えません。万が一、土砂流出や崩壊となった場合、上流部の生態系や下流域の水利用に甚大な影響を与える心配があります。」と、説明している。
![土石流が流れ下った熱海市伊豆山地区(2021年7月)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/c/8/700mw/img_c8191d3d6965d4908a2692540af7072e626818.jpg)
熱海土石流では災害関連死を含め28人が犠牲になり、住宅など136棟が被災した。土石流の起点に施された違法な盛土で被害が拡大したとされ、遺族や被災者が盛土をした土地の旧・現所有者に加え、違法な盛土を防げなかったとして静岡県や熱海市の責任を追及する裁判を起こしている。
![県民だより(2023年9月号)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/5/2/700mw/img_527e0d68670380002354836330e55501382146.jpg)
さらに最新号の県民だより(2023年9月号)では、南アルプスは国が「深層崩壊(斜面の崩壊が表層よりも深部で発生する山崩れ等)の発生頻度が“特に高い地域”」と分類していることや、2023年8月に開かれた県のリニア環境保全連絡会議 地質構造専門部会で、委員から「南アルプスの崩れやすい地質構造を踏まえたうえで、広域的な評価を行い、適地であるか確認することが重要である」との意見があったことを紹介している。
県とJR東海で大きな溝
![県リニア専門部会(2023年8月)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/3/9/700mw/img_39156f5120347cd5e5a75bba8363a498596082.jpg)
この8月開催の県専門部会では、土砂置き場が約1年ぶりに議題となったが、議論は平行線だった。
![県専門部会での資料(土砂置き場周辺で崩落の怖れがある斜面)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/7/4/700mw/img_74d1ffe6d7ff46bb10fbab91425a0ac3512800.jpg)
専門部会の委員は、土砂置き場が周辺環境にもたらす影響を評価する場合には、周辺で同時多発的に土石流が発生するリスクや、平坦地の燕沢がもつ土石流の緩衝地帯としての機能が、土砂置き場ができれば低下するリスクを考慮するよう求めている。
![県専門部会でのJR東海の資料](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/c/8/700mw/img_c87091e655e5f5e826d4729ae5525a03499665.jpg)
JR東海は燕沢の上流の山で約170年に一度の深層崩壊が起き、さらに100年に一度の洪水流量が発生した条件で、土砂置き場がある場合とない場合での下流の水位などへの影響をシミュレーションした。
![県専門部会でのJR東海の資料](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/5/a/700mw/img_5ad5fd57d145e1d64c393d6fbbe0ec31463207.jpg)
その結果、JR東海は深層崩壊で土石流が発生しても流水で運搬できる土砂の量には限度があり、全ての土砂が大井川本流に流出せず一定量は沢にも残ること、さらに大井川本流に土砂が堆積した場合でも、川の流れは確保され河道閉塞は起こらないことなどから、土砂置き場があってもなくても、登山者などが滞在する下流の「椹島ロッヂ」付近への影響にほとんど違いがないとした。
![静岡県・森貴志 副知事](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/0/1/700mw/img_0186d2e40b19ff417596efcaac9f5942589438.jpg)
会議ではJR東海の見解に対し、一部の委員から「山が同時多発的に崩れるリスクもあり、JR東海は深層崩壊の影響を過小評価している」として候補地の再検討を求める意見があがり、県も同様の見解を示した。
静岡県・森貴志 副知事:
盛り土を置く場所は他の候補地も含め1カ所に大量に置くのがいいのか、もう一度検討してもらえればと思っています
![工事で出た土砂の置き場](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/6/f/700mw/img_6f9055228f4c14d64b16915f70acfd5f1862654.jpg)
土砂の置き場をめぐっては、最初にJR東海が示した候補地について静岡県が難色を示し、今の燕沢に変更した経緯がある。
![JR東海リニア推進本部・澤田尚夫 副本部長](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/7/b/700mw/img_7bb7f5ead7c3677d6139cd4e5a4b449b588714.jpg)
会議でJR東海 中央新幹線推進本部の澤田尚夫 副本部長は、「環境影響評価書を2014年に出し、その頃からここに置くと話をさせてもらっている。そうした経緯がある中で、もう一度そこがいいのかという話はかなり困惑をしている」と、反論した。
静岡市長が静岡県に注文
![リニア新幹線 山梨実験線](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/3/e/700mw/img_3e7df0e7c6df5145117811c8cc1d9452477151.jpg)
ところで、リニア新幹線の工事現場や土砂置き場候補地がある静岡市も、独自にリニア建設の影響を評価する協議会を立ち上げている。
![静岡市のリニア影響評価協議会(2023年9月)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/8/0/700mw/img_80d9d6e08a66b255ac98a8198cbc061350760.jpg)
その9月6日の会議で、静岡市の難波喬司市長が県の見解に疑問を投げかけた。難波市長は元国土交通省技官、土木工学のスペシャリストで、静岡市長の前は川勝知事のもとで副知事を務めリニア問題を担当していた。
難波市長は、まず「環境影響評価の目的について確認したい」として、「個々の事業者にとって実現可能な範囲で環境への影響をできるだけ回避し低減するという観点で、環境影響への程度を明らかにするもの」と定義した。「事業者にとって実現可能な範囲で」を、繰り返した。
![土砂置き場候補地の大井川・燕沢](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/f/5/700mw/img_f57c80217177efd10f85df77dd483afc51828.jpg)
そして難波市長は、「事業者が行う環境保全措置は、事業による現況からの変化量を回避したり低減したりするもので、環境保全措置を県がJR東海に求めるのであれば、河川管理者である県が現況の盛土(土砂置き場)なしの状態で、広域的・複合的なリスク(同時多発的な土石流等)に対する現在の河川管理の状況、どの程度の安全水準を確保しているか示すべきである。県がそれを行うことなく、JRに対し広域的・複合的リスクについて、盛土がある場合の河川水位や土石流の変化を示して安全確保を求めるのであれば、その妥当性については疑問がある」と指摘した。
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静岡市・難波喬司市長:
「盛土がない状態でこのようになっているが、盛土ができたことによってこれだけ危険度が増すので、事業者としてこういう対策を取っていかないといけない」というのが正当なやり方だと私は思う
県の反論に静岡市長が猛反発
![難波市長の指摘に反論する県・石川英寛部長](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/f/1/700mw/img_f11ba746bcd69142bbe6a524bfb42a13588265.jpg)
これに対し、会議にオブザーバー参加している静岡県のリニア対策本部・本部長代理の石川英寛 政策推進担当部長は法律の建前論で応じた。
石川部長は「大井川は一級河川で管理者は国土交通省大臣。その区間の一部を知事が管理している。河川法の目的は流水、水がどう流れるかが主眼の立て付けになっていて、土石流や斜面崩壊、深層崩壊を考えるような立て付けになっていないと我々は考えている。基本的には水系ごとに国が整備の指針をつくって、それに基づいて河川管理者が管理するという立て付けになっているので、その中に土石流や土砂移動に関するリスクを考慮しろという立て付けにはなっていないので、その国の方針に基づいて県は管理している」と、反論した。
![県の見解に意見する難波市長](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/7/b/700mw/img_7b0868bff552e6a311baa201ddb174b7539887.jpg)
この発言に難波市長が気色ばんだ。
難波市長は、「ここで こんなことを問題にするつもりはないが、熱海土石流であんなことが起きて、よくそんなことが言えますね。あれは県が(土石流が流れ下った逢初川の)河川管理者として問題がなかったとおっしゃるのですか。それはここでいうべき話ではないと思います。これ以上ここで言いませんが、今の回答はあまりにもひどいですよ。河川管理者としての責任を放棄しているわけですね。『河川法のなかで流水について書いてあるから、土石流は考慮しなくてもいい』なんてことを、世の中で言えますか。言うんだったら言ってもらっていいですが、それは世の中で評価されないですよ」と、県担当者を見据えて言った。
県の石川部長は「熱海の話を関連付けてどう整理するか、私ももう一度考えたいと思いますが、河川法をみてその立て付けを説明しました。世間に対してどう安全を確保するか、それは当然大事なことなので、そこはまた確認させていただければと思います」と、少々トーンダウンにも見える回答をして、この場を収めた。
![土砂置き場候補地の大井川・燕沢](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/d/700mw/img_dd5d1cb9617c8d45480f55b0cdfbfdfc651897.jpg)
リニア工事で出る土砂置き場をめぐる、静岡市長と静岡県担当者の考え方の違い。正論に聞こえるのは、どちらだろうか。
静岡市は土砂置き場について今後も会議を開き、県や専門家などと協議を重ねていく方針だ。
静岡県の川勝知事は9月22日の定例記者会見で、「まず河川管理者の県が盛土がない場合の同時多発的土石流などの影響を評価すべき」とする難波市長の指摘について質問され、「もっともな発言」としたうえで、「難波市長は優れた技術者で、一緒にシミュレーションしていければ」と話した。
(テレビ静岡)